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僕の私の創る世界  作者: 十六夜 あやめ
第一章 想いを込めた幻創曲《プレリュード》
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想いを込めた幻創曲4

 どうぞ、読んで下さい!




「やっぱりキミだったんだね」


 もしかしてと思い、やってきたら案の定。

 微笑の吐息を洩らし、リィンフォースはリオンのもとへ歩み寄る。



 リオンは立ち上がった。椅子が後ろの机にぶつかり、金属パイプの鈍い音が静寂に包まれたここら一帯に響く。彼は委縮してしまい、目もろくに合わせられないまま頭を下げた。今日一日の後悔と反省、責任と償いが重圧となって襲いかかる。

 リオンは下を向いた状態で口を開く。



「今日はほんとうに、ご――」



 リィンフォースは謝ろうとする彼の頭にそっと左手を置く。



「もう謝らなくていいよ。顔をあげて」



 言われるままゆっくりと顔を上げる。その目からは涙があふれ出していた。

 リィンフォースはくすっと笑い、彼の涙を親指と人差し指で拭った。そして、濡れた頬に手を当てて、


「もう謝らなくたっていいんだよ。今日ずっと謝り歩いてたじゃない。キミがこれ以上傷つく必要はないよ。それに、昼間もわたしに何回も謝ったでしょ。それなのにまた謝られたら私の方が申し訳ないと思っちゃうよ……」



「は、はい……。ごめんなさ――」


 リィンフォースは謝ろうとした彼の額を人差し指でつんっと押した。



「また謝ってる。キミは本当に……優しすぎるよ」



 リオンの目からまた涙がこぼれた。あわてて手の甲でごしごしと拭う。擦った箇所が赤くなる。

 そんな彼の顔をみてリィンフォースは苦笑の吐息を洩らした。


「ずっと泣いてたんでしょ。目が赤くなってるもんね」


 リオンは涙を拭いながら、何も言わずに頷いた。

 彼のその姿は14歳よりもはるかに幼く見えた。



 リィンフォースがリオンから視線をずらすと、宙に浮いているレウと目合った。

 顔も声もリオンに似ているレウが口を開く。



「なぜ娘がここにいる。たしか、この時間は寮内にいなければならないのではないか?」


 口調だけは全く違う。いや、性格もだ。いつも上から目線で話されているような気がする。しかし、それをリィンフォースは口に出す気はなかった。


「申請したら9時まで外に出ても大丈夫なの。それよりも、あなたどうやってここに来たの? リオン君の部屋にいたんでしょ?」


「我は幻創術で創られた身でありながら、魔術の行使を用いている。攻撃や防御などの魔術は使用できないが、転移や索敵といった魔術を使用できるのだ。ここに来たのはいつまで経っても帰ってこないリオンが心配でな。教室にいるのはわかってはいたが――」



 リィンフォースは申し訳なさそうに軽く下を向き、レウの話を遮った。



「その、そんなつもりはなかったんだけどさ……。えっと、ちょっとキミたちの話を盗み聞きしちゃって……。それで聞きたいことがあるの。あっ! ちなみにこの怪我は3日では治らないわよ!」


 右手を強調するように前に突き出す。その手にがっちりと巻かれた包帯が、3日で治らないことを物語っている。

 レウは「居るのは知っていた」とつぶやいた。


「いつ出てくるのか待っていたくらいだ。娘を挑発すれば出てくると思っていたのだがな。なかなか姿を現さないのでいないのかと思ってしまったわ。娘にはリオンから話さなければならないこともある。それで、娘の聞きたいこととはなんだ」



「えっと……ほんとうはだいぶ初めから聞いてたからさ……。レウはどうして私が怪我をしたこと知ってたの? もしかして、キミとリオン君の意思はつながっているの?」


 レウはふっと鼻で笑った。


「なぜ知っていたのか気になるのか。まぁ、娘の考えは当たらずとも遠からずだ。我が知っていたのはリオンの意思を共有しているからではない。我の目はリオンの目なのだ。リオンの見たものは我がどこにいようと見たことになる。しかし、我の見たものはリオンには伝わらない。つまり一方通行だ」


「じゃあ、リオン君が目を閉じているときレウも目を閉じているの?」


「リオン、両目を閉じてみろ」


 リオンは言われた通り、赤く腫れた両目を閉じた。


「娘よ、我の目は閉じているか?」


 レウの目は閉じていなかった。むしろ、いつもより見開いているようだった。


「もう開けてよいぞ。我の目はリオンのもの、そのものではない。そのものであれば今頃我の目は赤く腫れているだろうな。我は我自身の目を持っている。娘が理解しやすいようにいうと、リオンの見た映像は記憶として、データとして我に送られてくる。それを見ようが見まいが、それは我の自由だ。ずっと残しておけるわけでもないため、なるべく見るようにしているがな。」


 レウは間髪を入れずに次々話していく。


「だが、リオンの見た映像を我が見ている間、我は目を閉じることとなる。その間は何も見えないため、危険が生じる。リオンの見たものを見るには、安全な場所にいることが大切となってくるのだ」


「それでレウは私の怪我を知ってたんだ」


 レウは小さく頷き、思い出したかのように口を開く。


「そうだ娘。なぜここにきたのだ? わざわざリオンを迎えに来たとでもいうのか?」


「えぇそうよ。私たちだって心配だったんだから。元気もなくて下ばかり見てるし、すごく自分を責めてるようだったし……。それでね、今日は一緒に夕飯を食べようってお誘いにきたの。嫌かな? アレルが心配し過ぎてきっとお腹すかせて待ってるんだけれど」


 リオンはまだ乾かない頬についた涙を手のひらで拭っていると、ぐぅーっとお腹の鳴る音が響いた。照れながらお腹に手を当てて笑った。


「いまのはオッケーと受け取っていいのかな?」


 レウはふっと鼻で笑って目を伏せ、リオンの応えを待った。

 リオンのお腹がもう一度鳴る。


「……お腹すきました」


「じゃあ一緒に食べようか。アレルも限界だと思うから走って寮に帰るわよ!」



 リィンフォースはリオンの右手首を引っ張って教室を後にする。そのとき、教室の電気を消すのも忘れ、鍵も掛けなかったことが風紀委員にバレて怒られることを知らなかった。



「ちょっと、リィンフォースさん! 怪我してるのに危ないですよ! それと、ぼくも転びそうです!」



「大丈夫だいじょうぶ。リオン君が転びそうになったら持ち上げてあげるから」



 「やれやれ」とレウはリオンの肩に乗ったまま呆れていた。




「リィンス遅い!」



 リィンフォースは自分の部屋の扉を開けると、アレルが仁王立ちをして待っていた。頬を大きく膨らませ、その小さな体が大きく見えたのは確かだった。リィンフォースはリオンの話を簡単に説明する。そして、いまだご立腹なアレルに何度も頭を下げて部屋に入って席に座った。



「まったくもう! 2人とももっと早く帰ってきてよね! 目が覚めたらリィンスがいないし、寮長に聞いたら外に出て行ったっていうし。ねぇ、どうしてボクを置いてったの?」



「いや、アレルってば扉に頭ぶつけて気絶してたじゃない。さすがにそんな状態なのに起こすのね……。それよりもう大丈夫なの?」



 アレルは椅子に座りながら腕を組んで軽く仰け反る。自慢げに平気をアピールした。そしてそれと同時にアレルのお腹がぐぅーっと鳴った。



「それよりもね、ボクはお腹がすいたんだよ! 今日は何かな? ボクは食堂で食べようとしたんだよ。でもね、リィンスが独りで食べてるのを想像したらかわいそうだなぁ~って思ったから、帰ってくるのを待っててあげたんだよ? 食堂を行きかう食べ物に誘惑されないように必死に我慢したんだから! だからね、お腹がすごくすいてるの。まさか何も用意してないとかないよね~?」



 アレルはテーブルに両手をついて体をぐっと乗り出してリィンフォースの顔をみつめる。アレルの目の奥にはたくさんの料理が見え、さらにきらきらと輝いていた。

 私はその期待をなるべく崩さないように、ゆっくりと笑顔をつくる。その笑顔につられてアレルも笑顔になった。でもその笑顔は引きつっていてまったく笑っていない。私は諦め、アレルの目をじっと見て言うことにした。



「それがね……とくに何も用意してないの。リオンくんもいるしさ、みんなで何か作ろうよ。うん、それがいいね。材料はたくさんあるから。ねぇ、リオン君も手伝ってくれるよね?」



「もちろんです。ぼくじつは料理が得意なんです! よかったら座っていてくれませんか? すぐに作りますから」



 アレルは「早く!」っと駄々をこねている。相当お腹がすいているのだろう。



 ……私だってリオン君だってお腹すいてるのよ。まったくもう。




「リオン君1人で大丈夫なの? 私も何か手伝うよ?」



「いえ、今日はご馳走させてください。と言っても僕の買った食材でもないし、ご馳走になるのは僕ですけど。いいですか?」



 リィンフォースは彼の言葉を信じ、首を縦に振った。リオンはキッチンに向かい、冷蔵庫に入っている食材を手に取っていろいろ考えはじめた。そして考え終わると小さい手で包丁を握り、とんとんと調理を開始した。



 調理をはじめて数分。まずテーブルに出てきたのは、スライスしたトマト、モッツァレッラ、バジリコを使い、交互に挟んで皿に並べたインサラータ・カプレーゼだった。



「おいしそう! 食べていいかな!」



 アレルはさっきよりも体を乗り上げて目を輝かせる。その姿は珍しい物を初めて見た幼い子供のようだ。



 ……もう少し待てないのかなアレルは。もう子供じゃないんだから。



「僕はまだ料理するんで先に食べていてください。サラダだけじゃお腹いっぱいにはならないですしね。何か不満があったら言ってください。できるだけ対応しますから」



 そういうとキッチンに戻っていった。

 せっかく食べてくれと言われたのでリィンフォースとアレルは食べることにした。

 きれいに盛り付けられたサラダをなるべく崩さないように丁寧に皿に取る。

「いただきます」と手を合わせてフォークを持つ。そしてトマト、モッツァレッラ、バジリコを一口だいにして口に運んだ。



「なにこれ! すっごくおいしいよ! ねぇ、リィンス!」


「――うん。すごくおいしい。なにで味付けしてるのかな?」



 キッチンから新たな料理を持ってリオンが戻ってきた。



「ねぇリオン君、このサラダって何で味付けしてるの? すっごくおいしいんだけど」



 ありがとうございます。と、まるでどこかのシェフのように姿勢よく一礼する。ちょっと照れているのか顔が赤くなっている。



「えっと、リィンフォースさんが買ってきていた食材が新鮮だったので、ありのままの味を楽しんでもらいたかったです。だから、少量の塩やオリーブオイルなどで味付けしました」


「えっ! それだけなの!」


 アレルは驚いて手が止まる。口の周りにチーズやオリーブオイルをつけている。リィンフォースは呆れながらも優しくナプキンでふき取ってあげた。


 その後も、薄切りにしたタマネギを肉のブイヨンで煮てから塩とコショウで味をととのえたオニオンスープ。2枚の薄い生パスタを張り合わせ、肉や野菜、チーズを詰めて茹で、さらにその上にトマトソースがかかったラビリオ。おまけにフルーツヨーグルトのデザートまで作ってくれた。

 リィンフォースもアレルもお腹いっぱい食べて満足そうだった。その顔にリオンは「よかった」と安堵のため息をついた。






「それじゃあ、今日はありがとうございました。おかげで元気になりました! また、一緒に夕食してもいいですか?」



 廊下に出て帰るリオンを見送るリィンフォースとアレル。


「いつでもどうぞ。ねえ、アレル?」


「もちろんだよぉ~」


 アレルはリオンの手を握ってぶんぶんと振り回す。

 リオンは静かに口を開いた。


「リィンフォースさんとアレルさんがうらやましいです……」


「えっ?」


 アレルは手を止め、リオンの顔をみた。


「あたたかくて、やさしくて……。リィンフォースさんは身を挺してまで僕を助けてくれましたし、アレルさんは楽しませてくれるし……。ぼくはお2人みたいな人に出会えて本当に幸せです! だから、今日は本当にすいませんでした!」


 リオンは深々と頭を下げた。床にいくつもの粒が零れ落ちていく。


「あたまを上げてよリオンくん」


 リィンフォースは天使のささやきのような優しい声を掛ける。


「わたしね、リオンくんがうらやましい――」


 リオンは涙を流しながら、驚いたような顔で上げた。そして、リィンフォースは続けて話す。


「だって、そんなにやさしくなれないもの。本当にきれいな涙を流せないと思う。きっと、私はリオンくんが思うような人じゃないよ。料理もあまりできないし、勉強も苦手で、幻創術もろくにできないし……。」


「そんなことないと思います! リィンフォースさんは、きっと、たくさんのことを考えていると思います。アレルさんのこと、クラスのみんなのこと、僕のこと……。自分のことを最後に回しているような、そんな気がしたんです……。そんなリィンフォースさんだからこそ、リィンフォースさんにしかできない幻創術があると思います! リィンフォースさんはりっぱな幻創術師になれると思います!」


 堂々と。でも、弱弱しい。リオンのこえはたしかにリィンフォースに届いていた。


 ……リオンくんって、やっぱりうらやましいな。


「……ありがとう。リオンくんには敵わない気がするよ。リオンくん、たまにアレルにご飯を作ってくれると助かるかな。またこうして作ってくれるとすっごく嬉しいんだけどな」


 リィンフォースがそういうと、リオンは涙をぐっと拭いて笑顔になった。


「はい! まかせてください!」


「今日は本当にご馳走になっちゃったね。おいしかったよ」


「ボクも久しぶりに幸せな気分になったよ! リィンスってばいっつも似たような料理ばかりするからさ~。またいっしょに食べようね」



 リィンフォースはふんっとふてくされた。アレルはごめんと笑いながら抱きつき、じゃれあっていた。三人は幸せそうに笑う。礼儀正しいリオンはもう一度頭を下げる。そして、「ありがとうございました」と手を振って自分の部屋に戻っていく。


「リオンくーん!」


 リィンフォースは呼び止めた。リオンが振り返る。


「明日からリィンスって呼んで! それで今日の私の怪我を帳消しにするから!」


「はい、リィンスさん!」


 笑顔のままリオンはもう一度手を振って戻っていった。


「リィンスにとってリオンくんはボクと同じ立場なのかなぁ?」


「んんー。アレルの方がずっと親しみやすいよ。でも、いつかは逆転するのかな?」


「えぇー! 捨てないでよリィンスぅ~!」


「捨てないってば。わたしたちもねよっか」


「そうだね。リオンくんも元気になったみたいで本当によかった~。今日はぐっすりねむれそうだよ~」


 ……いっつも寝てるくせに。


 アレルはすぐにリィンフォースのベッドにもぐり込み、先に寝てしまった。仕方がなくその日はソファーで寝ることにした。


 ……リィンスさん、っか。弟みたいな感じ……かな? 幻創術、つぎは成功するといいな。


 リィンフォースは笑みを浮かべたまま、静かに寝息を立てた。









 読んでいただきありがとうございました!!

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