表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の私の創る世界  作者: 十六夜 あやめ
第三章 覚醒の胎動・奇想曲《カプリス》の調べ
16/17

覚醒の胎動・奇想曲の調べ5





 会場までの距離が長く感じ始めたリィンフォースとアレルは靴を脱いで手に持った。さっきまでとは違い、軽やかで走りやすい。道の小石を踏む度に足が止まりそうになるが、歯を食いしばって足を前に進める。視界に映る競技場とアリエスのお店。外見の様子には特に異常は見当たらない。


「アレルはアリエスに一応このことを伝えといて! 私たちは先に中に入って確認するから!」


「わかった! 気を付けてね!」


 目を見て言葉を交わす。――うん。


「あなたはパスカードがないからここで待ってて下さい。パスカードがあるか確認してきますから」


 男子生徒は「ありがとう」と返事をして、入り口の前で待つことにした。

 競技場の入り口にリィンフォースとリオンがパスカードをかざす。正常にパスカードを読み取り、何の異変もなく中に入ることが出来た。受付室内を見回るが白いローブを着た生徒はいなく、荒れた形跡もない。受付会場には教師が一人、カウンターで名簿のチェックを確認しながら立っていた。

 ……息が途切れ途切れになって苦しい。でも、早くしないと何か起きるかもしれない。休んでなんかいられないわ――

「あの、さっきここへ白いローブを着た生徒が来ませんでしたか?」


「あれ、開会式はもう終わったのかい?」


「えぇ。ちょっと早く終わったんです。それで、白いローブの生徒を見ませんでしたか?」


 疑われないように迷わずに応えるリィンフォースにリオンは驚いたような顔をしていた。リィンフォースはそんなリオンにウインクをして、笑って見せる。


「予定よりもだいぶ早く終わったんだね。あぁ、開会式の始まる三分前くらいに君の言った白いローブを着た生徒が来たよ。開会式に遅れるとか言ってパスカードを放り投げて鍵を持って行ってね……。まったく、顔の確認も名前の確認もしていないのに」


「あの、そのパスカード見せてもらえませんか? もしかしたらその白いローブ着た人が持ってたパスカード、その人の物じゃないかもしれないんです」


 教師にパスカードを取り出してもらい、競技場の入り口で待つ男子生徒と合わせて確認を取ってもらう。名前、在学等部、学年、他にも二、三質問されたものに答え、たしかにそのパスカードが彼のだということが照明された。


「迷惑掛けてすいません。おまけに見つけてもらって……」


「そんなことないよね、リオンくん。それに、あなたが白いローブなんて言葉を言ってくれなかったらきっとみつかってないわ」


「会話中に申し訳ないんだが、ちょっと君達いいかな? このパスカードがこの生徒の物だとわかってよかった。なら、さっきこれを使って中に入った生徒は一体誰なんだい?」


 受付の教師にリィンフォースは、自分とリオンが白いローブを着た生徒に襲われたことを話し、精霊術科の生徒で、何かを企んでいる可能性があることを説明した。


「その生徒がいまも中にいることは確かだろう。開会式が始まってから誰一人戻ってきてはいないからね。中の教師方からは特に何の連絡もきていないから安心していいだろう。問題は全幻創術科の生徒の中からどうやって見つけるかだ」


「あの、白いローブだからすぐわかるんじゃないですか?」


 リオンが顔の横で小さく手を挙げて言う。


「うーん。それはどうだろう……創技会コンテスト会場の敷地はかなり広いからね。それに、白いローブを着ているのは一人じゃないんだ。受付のときに意外といてね……見つけるのはとてもじゃないが困難だ……」


 策が浮かばないまま時間だけが流れていく。急いで考えようとするほど焦りが生じ、混乱を招いてしまう。本来の開会式終了時間を迎える鐘の音が鳴った。次のプログラムはたしか来賓者の挨拶だったかな。アレルが一番楽しみにしてたような気がする。

 扉についている鈴が激しくなると同時に、アリエスのお店からアレルが出てきた。店主の兼、看板娘のアリエスの手を引っ張っている。


「開会式終ったってことはさ、次は来賓者の挨拶だよね!」


「えぇそうよ。……って、いまからいくつもり?」


「もちろん! リオンくんを見つけたし、パスカードを持ってるってことはみつかったってことでしょ。それに、どうせ中に白いローブの生徒がいるんでしょう? 捜しながら会場の確認すればノア様にも会うえるでしょ! 考えて時間を無駄にするより向かった方がいいよ!」



 アレルの目的は捜すよりも見たいの方が大きいかな。でも間違ったことは言ってないわ。考えて時間を無駄するくらいなら自分たちで行動した方がずっといい。


「アレルってたまにほんといいこと言うよね……」


「リィンス何か言った?」


「ううん、なんでもないわ。すいません、中でパスカードを鍵に変えてもらえますか。アリエスはお店の中でいいから、暇があったらここを見てみてくれる? もしかしたら出てくるかもしれないから」


 先に門にパスカードをかざしてアレルが中に入っていった。教師と一緒に男子生徒も中へ入っていく。パスカードの無いアリエスはリィンフォースの頼みを聞いた。


「ムリしたらあかんよ?」


「わかってるわ、じゃあお願いね。わたしたちも行くわよリオンくん」


「はい!」




                    ――――――――




「それでは、本日の来賓者の紹介をさせていただきます。幻創術協会より、セシル・アルバトロス様、ガロー・ギャリル様、テレ・エフェクト様の御三方にお越しいただいております。そしてもう一人、我が学園を卒業し、二十歳という若さで『元帥』の称号を得た天才幻創術師、ディアノーク・クラウディア様です。皆様盛大な拍手をお願い致します」


 会場内の空気を揺らす振動が湧き上がる。


「ありがとうございます。では代表してディアノーク・クラウディア様、挨拶をお願い致します」


 来賓席から立ち上がって壇上へ歩いていく。学園長の方に向かって頭を下げ、次に来賓席の方へ頭を下げた。壇上の中央から真っ直ぐ生徒達を見つめる。



「紹介に与りましたディアノーク・クラウディアです。この度はこの創技会コンテストに御呼びいただき光栄です。本日ここへ来て、私が在学していた時と同じ風景のままでほっとしています。変わらないものがあるというのは素晴らしいことです。ですが、変わらないものだけではいけませんね。流れる時の中では変わることも大切です。皆さんにはたくさん勉強をして成長してもらいたい。そして、この学園を活気付けてほしいんです。難しいことじゃないですよ。自分の思うように、好きなものを創って下さい。それだけでこの学園は変わるのですから。今日は皆さんの想いを魅せてもらいますね。失敗しても気にしないで下さい。それは誰にでもあることですので。これで挨拶を終わらせていただきます」



「ありがとうございました。それではこれより初等部の公演です。初めに披露する生徒は準備をして待機していてください。残りの初等部、中等部、高等部の皆様はここから自由行動とさせていただきます。決してご自分の番までには戻って来てください。間に合わない場合は棄権として扱われますので気を付けてください。では、お好きにしてください」



 合図とともに生徒たちが動き出す。

 初等部の生徒は中央会場内のグランドフロアを歩き回っている。中等部や高等部の生徒は二階に上がって観覧席の確保をはじめた。少数の生徒は会場を出ていく。





                     ――――――――




 中央会場のグランドフロアに到着したリィンフォースらは一足遅かったようで、すでに創技会コンテストが始まっていた。初等部の生徒が幻創術を披露している。

 来賓者の挨拶を聞くことが出来なかったアレルは残念だっただろう。リィンフォースはしょんぼりしているであろうアレルの顔を覗き込んだが、全く落ち込んでいなかった。むしろ、頬を赤く染めて私のドレスの袖を軽く引っ張っている。



「ねぇねぇみてよリィンス! あれってさ……あれって、ノア様だよね……?」


「ええそうね。記事で見た人と同じだわ。本物のディアノーク・クラウディアさんね」


「ちょっとリィンス! ノア様に向かって〝さん〝とはなによ! ノア様を呼ぶときは〝様〝を付けてよ!」



 ちょっと怒り過ぎよ……。たしかに〝様〝を付けてもおかしくないような人だけど、呼ぶのは勝手だと思うのよね……。


「ごめんごめんノア様よね。それよりもよ、早く白いローブの生徒を見つけ出さなきゃ」


「そうですよね。ぼくたちがここへ来るのに結構時間経ってますし、この人の数だとやっぱり難しそうです……」


「ねぇリィンスぅ~ボクもう少し近くでノア様をみたいなぁ~」


 甘ったるい声でおねだりをするように上目使いをしてくる。


「だめよ。目的は挨拶を聞くだったでしょ。聞けなかったけれどノアさ……ノア様に会えたんだから。早く見つけ出したらもっと近くまでいっていいし、話しかけてもいいし、お茶に誘ってもいいから」


 その言葉を聞いて背筋を伸ばして目の色を変える。

 初等部の幻創術に見とれていたリオンも目の色を変えて振り返る。


「早くさがしましょう。ぜったいに中止になんかさせたくないんです!」


「そうね。わたしの案に乗ってくれるかしら?」


 顔を見合わせるアレルとリオンにリィンフォースは説明を始める。



「いい? わたし達三人でこの敷地内全てをさがすのは無理だわ。ここはまず手分けしてさがしましょう。アレルは中央会場、ここの二階をさがしてちょうだい。二階は人が多くないし、グランドフロアも見渡せるから。リオンくんは会場の外よ。建物付近に沿ってさがして。リオンくんの身長では会場内はちょっと目線が合わないだろうから。わたしはこのグランドフロアをさがす。そして、近くの生徒に会ったらとにかく声を掛けて。白いローブの生徒を見なかったか聞いて回ってほしい。意外と見ている生徒がいるかもしれない。なにか情報を得たらグランドフロアの扉の前へ来て。もしも見つけても絶対に一人で行かないように。彼の強さも常識も異常だから気を付けなきゃ危険だわ。いい?」


「もちろん。ボクは二階をさがせばいいんだね。ノア様が来てるのにどうして他の科の生徒が邪魔するんだよぉー! ぜったいに見つけ出してやる!」


「ぼくも必ず見つけ出します。ぼくにとってこの学園での初めての創技会コンテストを中止になんかさせません! みんなで練習した時間を無駄になんてさせないです!」


「じゃあ始めましょう。わたしは定期的に扉の前へ行くから、いなかったら待っててね」



 三人は決まった場所へ移動する。

 人混みをかき分けて進んでいくアレルは二階への階段を上っていく。

 それと同時に扉を開けてリオンが外へ出て行った。

 リィンフォースはグランドフロアにいるクラスメイトに声を掛けて回る。

 ……わたし達の順番が回ってくるまで時間はまだある。でも早く見つけないと最悪の状況になるかもしれない。そうなったら創技会コンテストは中止になるし、来賓の方々は避難して会えなくなる。アレルの願いもリオンくんの願いも叶わなくなっちゃう。それだけは絶対にさせないわ。















  読んでいただきありがとうございます!

 次回の更新でこの章を編集していきますので、ご了承ください。

 3章が全10話なので、これを全5話に編集します。

 途中まで読んでいる方、本当に申し訳ありません。


 ですが、一週間ほどはこのままなのでご安心ください。

 これからもご愛読よろしくお願いします!




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ