~舞台の裏で~
時計の針は右斜め上を向いている。白い雲が浮かぶ青空が急に夕陽色へ染まっていく。それは何処までも広がっていき、学園内にいる人々全員がその空を見上げていた。それぞれがその光景の異様さを口に出す。しかしすぐに空は元の青空に戻った。
――――――――
時を同じくして、学園の門の前に明灰色のローブを纏った一人の青年が立っていた。その青年も橙から群青へ移り変わっていく夕陽色に覆われている空を見ていた。雲間から漏れる光に照らされて穏やかな顔立ちが浮かび上がる。
青年は思わず息を飲んだ。その空に向かって手を伸ばし、そっと撫でるように色の混合した部分の宙をなぞる。
「これは……キミが――」
青年は手のひらに残るぬくもりを確かめていた。数秒でその空は姿を消した。
(あの頃の僕よりも鮮明に再現されたあの日の夕陽空だ。なによりもキミのぬくもりを確かに感じる。この学園のどこかに――)
門の前で立っていた青年は学園内の来賓受付所へ向かい、ローブの中から一枚の身分証明書を提示する。受付の女性職員はその身分証明書に凝視し、駭然と眼を何度もまばたきした。
「この度学園長に創技会への招待状をいただきました。本日は学園長にご挨拶をと伺ったのですが、学園長はいま御在園ですか?」
薄茶色の髪が緩やかになびく。
職員は緊張し、慌てながら学園長の在園を確認する。
「学園長は現在学長室にいらっしゃいます。よろしかったらご案内をさせていただきますが……」
「いえ、お仕事の邪魔をしてしまいますので。それに、この学園の部屋はほぼ知っていますから。あぁ、突然押しかけては学園長もお困りになられるでしょう。すいませんが学園長にノアが来たと連絡を入れていただけますか?」
ふたつ返事で職員は答え、青年は笑顔でローブをひるがえし、日の差す廊下を歩いて行った。
――校舎の陰。学園指定の真っ白なローブで頭から足先まで隠した生徒が空を見た。
「なんだ……ありゃ……」
色の変わった空を睨み付けた。だが興味はさほど無く、地面に捨てられていた空き缶に向かって火の弾を撃ち込んだ。
「あの女たち……邪魔しやがって……どうにかして痛めつけたいな……」
「――なら、力を貸してあげましょうか」
誰もいないはずの校舎裏から突然透き通った女性の声がした。
「誰だ! どこにいる!」
「私が誰なのかを知るよりも、復讐したいのでしょ? なら、復讐のことを先に考えてみてわ?」
「まずはテメェーが誰かが先だ!」
白いローブを纏った生徒の前に突如現れる金髪の女性。白い細身のドレスを身にしている。
「お望み通り。で、復讐したいのでしょ?」
「ハッ! もちろんだ! あの邪魔をした女を許さねぇ……」
「あなたにとってもいい物を貸してあげる――」
彼女の差し伸べた手の平には丸く小さい赤色に輝く種が乗っていた。
「……これはなんだ?」
「これは種。あなたがこれを飲んで精霊を呼び出すとその精霊は数十倍強くなるわ。ただし気を付けて。これは貴方の復讐が媒体になっているの。復讐するという強い気持ちを忘れないで」
「あんた……どういうつもりだ?」
「なに……気に食わないだけよ。使うか使わないかは好きにしてちょうだい」
そう言葉を言い終わるやいなや、そこに彼女の姿はなかった。
「なんのつもりかは知らねぇーがいいもんをもらったぜ。種で必ず復讐してやる!」
校舎の屋上。白いドレスを着た金髪の女性は不敵な笑みを浮かべていた。
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