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デート

 ニーナは僕を結婚相手として認めようとしてくれている。

 好きになれていなくてもまだ排除する気持ちはないようだった。


 僕は演技じゃない本物の自分で勝負しなくてはならない。

 それにやっと気がついた。

 僕にはどうやったて壁にバラは刺せないからだ。


 まだ仮面は手放せないが髪の色と目の色は戻した。

 本当の僕を好きになってもらいたい。


 仕事中、伯爵は驚いていたが何も言わなかった。

 とにかく今は仕事だと僕は目の前のことに集中した。



 デートの日、僕はあの夜と同じ緑色の仮面をつけた。

 伯爵家の正面の入り口で待ち合わせをした。


 髪の毛は染めず金髪のままだ。

 タキシードも着ずに普通の服を着ていた。

 この姿で外に出るのは久しぶりだ。


 「ノア」


 出てきたニーナはなぜか黄色い仮面をつけていた。

 可愛い緑色のワンピースを着ている。


 「ニーナ」


 「待たせてごめんね。」


 「その仮面…」


 「あ…お揃いにしようと思って…」


 仮面の下で表情がわかりにくいがはにかんだように笑っている。

 僕は何だか嬉しいと言う気持ちになった。

 僕の趣味に合わせてくれている。


 そのまま僕たちは街に出た。

 今日のデートは昔僕とニーナが好きだったガーベラの花畑に行くことにした。

 初デートをした公園とは別の公園の中にある。

 歩いて行ける場所なのでふたりで並んで歩いていた。


 「人が見てるね…」


 ニーナが仮面の位置を直しながら言った。

 僕はあの格好をしていたら自然と人に見られたので気にしていなかったがニーナは恥ずかしいようだった。


 「仮面はずす?」


 僕が聞くとニーナは首を振った。


 「…今日はこのままでいい。」


 並んで歩いているのでニーナの手が僕の手に当たった。

 緊張した。


 「あ、ごめん。」


 ニーナが謝ったので僕はそのまま手を取った。


 「…」


 僕らはそのまま沈黙した。

 お互い手を繋いで緊張していることが分かる。

 街行く人たちはチラチラ僕らを見ていたがそれも気にならなった。

 世界中に僕らしかないような幸福感だった。


 そのままガーベラ畑まで僕らは黙って手を繋いでいた。

 色とりどりのガーベラが一面に咲いていた。


 「綺麗…」


 ニーナは嬉しそうだった。


 「初日に僕の部屋にガーベラを飾ってくれてありがとう。」


 そう言うとニーナは照れたようだった。

 意外と仮面をしていても表情が分かるものだなと思った。


 「…ノアが子どもの頃よくくれたから。」


 そう言われて僕は思い出した。

 鮮やかな色で太陽みたいな花がニーナによく似ていると思ったのだ。


 何だか僕も照れてしまった。

 覚えてくれていることが嬉しかった。

 幸せで胸がきゅうとなった。


 そのあとはこの公園にもあったボートに乗った。


 「ここのボートも500G」


 僕はいつもの癖で呟いていた。

 ニーナが一瞬チラッと僕を見たが何も言わずにボートに乗った。

 そのままボートを湖の真ん中まで漕いだ。

 他にボートに乗っている人たちはあまりいなかった。


 「気持ちいいね。」


 そう言ってニーナが微笑んだ。

 黄色い仮面をしたニーナが目の前に座り風を浴びている。

 後ろは結っているがキャラメル色の前髪がなびいた。


 その光景を見て胸が高鳴った。

 気持ちが溢れてきそうだった。

 伝えないと爆発してしまいそうだった。


 「ニーナ…僕は君が好きだ。」


 ニーナがハッとしたように僕を見た。


 「…子どもの頃からずっと。」


 ニーナの仮面の下の眼が見開かれた。


 「僕のことをまだ好きじゃなくてもいい。

  でもいつか好きになって欲しい。」


 心臓が激しく高鳴っていた。

 目が潤んでくる。


 今日は告白しようと思っていたがこんなに急に言うつもりじゃなかった。

 驚いた顔のニーナを見て早まったかなと思った。


 「…どういう、こと?」


 ニーナは顔を赤くしているようだったが小さい声で呟いた。


 「…あの、僕はニーナが…」


 「あ、えっと、違う!」


 ニーナが慌てて僕を止めた。

 ニーナの様子がおかしい。

 何かを小さい声でブツブツ呟いている。

 本当に困惑しているようだった。


 「あの…じゃああの格好はなんなの?」


 「あれは…あれがいいと思って…」


 ニーナはぽかーんと僕を見ていた。


 「本当に中二病だったの…?」


 「中二病…?」


 僕が首をかしげるとニーナは首を振った。


 「わ、私のことが本当に好きなの…?」


 そう聞かれて今更恥ずかしくなる。

 好きな人に自分のことが好きなのかと確認されるのはこんなに恥ずかしいことなのかと思った。


 「本当に好きだよ。」


 ここで逃げてもはじまらない。

 ニーナに恋に落ちてもらうには気持ちを知ってもらうしかない。

 僕は気持ちを吐き出した。


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