赤いバラ
僕の部屋でニーナと向かい合って話していた。
僕は泣きそうな自分を必死に堪えていた。
ニーナは見た目が偽物だから戻せと言っている。
確かに今のニーナの好みの僕の見た目は本物じゃない。
「ノア」
ニーナは真剣に僕を見つめていた。
好みじゃないと振るつもりなのではないかと僕は思った。
この見た目じゃなくなったら僕はどうやってニーナに好かれたらいいんだ。
思考が上手く定まらない。
「…すぐには無理だ。」
いきなり戻してすぐに振られる訳にはいかない。
ニーナは一瞬ホッと息をついた。
「…いつかは戻すの?」
「…」
どう答えたらいいのだろうか。
正直戻したくない。
「戻さないの?」
ニーナが残念そうな声を出し僕は怖くなった。
戻して欲しいのかこのままがいいのか本当はどちらを望んでいるんだろう。
ニーナの瞳を見つめるが分からない。
「…戻していいのか?」
ニーナの黄色い瞳が見開かれる。
ニーナは悩んだ顔をした。
「…私は戻して欲しい…」
ほんの少し眉を寄せている。
正直怖いがニーナの言葉に素直に従うことにした。
「…夜は戻す。」
「戻せるの?!」
ニーナの顔がパッと明るくなった。
その顔で喜ばれていると勘違いしそうになる。
ニーナは本当に僕の昔の見た目がいいのだろうか。
「…髪は洗えば落ちるし目も外せば戻る。」
そう言えばニーナが嬉しそうに笑った。
ニーナは本当に彼の見た目が気に入らないのだろうか。
あれだけ好きだったはずなのに。
また不安になった。
「昼はこのままでいたい…」
そう言えばニーナが頷いた。
「そうだね。」
そう言われてまたどちらか分からなくなる。
「少しずつ戻してくれたらいいよ。
それから、また夜に会おう。」
僕は今、試されていると思った。
ニーナは僕を見極めるつもりなのだ。
素顔でニーナに会う自信が無かった。
「…仮面はつけてていいか?」
この仮面さえあればなんとかなる気がした。
ずっと付けているので体の一部みたいになっていた。
この仮面越しの狭い視界以外で世界を見るのも怖い。
「……いいよ。」
ニーナは少し悩んだあと頷いた。
ニーナの真意が分からなかった。
どういうつもりで僕に会うつもりなのだろうか。
僕はどうしたらいいんだろう。
ニーナは好きな人と結婚したいと言った。
僕を好きになってくれるだろうか。
ニーナの好みの見た目になれば好きになってもらえると思っていた。
そう簡単ではないらしい。
やっぱり彼の心の方が好きだったのだろうか。
正直中身については計算とクールということくらいしか分からない。
あとバラ好きだ。
僕は窓辺に置いたバラの鉢植えを見た。
そういえばニーナの話では仮面の彼はバラを壁に突き刺すことができたらしい。
それさえできれば好きになってもらえる気がした。
僕は手を伸ばしてバラを一本手折った。
そしてバラをシュッと壁に向かって投げた。
バラは壁に刺さらずそのまま壁に当たって落ちた。
「…」
「…ノア?」
ニーナが戸惑った顔で僕を見ている。
「ニーナ、明日はこの時間に会おう。」
ニーナはただ頷いて、僕をじっと見ていた。
「おやすみ。」
「…おやすみ。」
ニーナが立ち上がり内扉を通って帰っていた。
バラは何度投げても壁に刺さらなかった。
僕には彼のような才能はない。
丹精込めて育てたバラは何度も落ちてボロボロになっていた。
このバラが僕だと思った。