完璧な僕
僕の好きな子には前世の記憶があった。
7歳で死んでしまった女の子の記憶だ。
幼い頃はずっと前世の話をしていた。
彼女の前世の国では動く絵を使った物語がありニーナはそれが好きだったらしい。
ニーナはそれに出てくるタキシードの男性の話ばかりした。
名前は忘れてしまったが仮面をつけている。
とにかくニーナがたくさん話してくれたのでキャラクターの詳細を知っていた。
ニーナが描いた絵も家にある。
僕はニーナと結婚したかった。
小さい頃、僕らは毎日一緒に遊んでいた。
僕が野良猫に襲われて泣いているとニーナが助けてくれた。
近所のいじめっ子に絡まれているときもニーナが助けてくれた。
ドブに落ちた時も迷子になった時も木から降りれなくなった時もニーナが助けてくれた。
小さい頃の僕はニーナに恋に落ちていた。
「私、美少女戦士みたい!」
ニーナは僕を助けるたびにそう言っていた。
僕の淡い恋心は月日が経つたびに段々と重たいものになっていった。
10歳を過ぎれば少しずつ話さなくなっていったが会うことは多かった。
ニーナはキャラメル色の髪と僕と同じ黄色の目をしている。
親戚の集まりなのでみんなよく似ていたがニーナがいる場所だけ輝いていた。
「うちはもう子どもはニーナだけで婿をもらうつもりだ。」
叔父が大人たちと話しているのが聞こえた。
「できれば親戚から来て欲しいが…。」
ニーナと同年代の親戚は何人かいたので僕は必死になった。
家庭教師につき必死で勉強をした。
僕は親戚の中で一番優秀であるよう努力をした。
その甲斐あってか両親の間で婚約が取り決められニーナとの結婚が決まった。
同時に伯爵家を継ぐことが決まったのでもっと力をつけるようにと語学留学が決まった。
僕はどちらかといえば文系だった。
最初は慣れない国に戸惑ったが学んだ言語で話せることが面白かった。
また全く違う国の文化が楽しくニーナに早く話したいと思っていた。
「髪を黒く染めてみましょう。」
「黒って魔族の色だろ?」
「だからでしょ。ハロウィーンなんだから。」
「…この国って髪を染められるの?」
友人たちとハロウィーンの計画を立てているとき僕は髪を染められることを知った。
この国は僕の国より先進的で変わったものが多かった。
髪を染められる上に目の色を変えらえるコンタクトというものまであった。
真っ黒な髪と真っ黒な目になった自分を見て僕はニーナの好きなキャラクターのことを思い出す。
そうだ。ニーナには好きな男の人がいた。
彼の特徴を書き出してみることにした。
・黒髪黒い目をしている
・白いタキシードで赤いバラを持っている
・目元を仮面で隠している
・得意科目は物理(よくわからないが色々と計算するようなので数学みたいなものだろう)
・クールな性格をしている
僕は愕然とした。ニーナの好みに僕は全く当てはまっていない。
まず、僕は文系だが彼が理系なことに戸惑う。
今まで必死に勉強したものが意味のないものになってしまった気がした。
必死で暗算を練習しはじめた。
性格だって僕は弱々しい。
ずっとニーナに助けてもらっている。
見た目を変えることはできないと思っていたがこんな風に変えらえるとは驚いた。
結婚は家同士がするものなのでそれでもいいと思っていた。
「この国では恋愛結婚が基本よ。」
僕が母国に婚約者がいると言ったら友人が教えてくれた。
「恋愛結婚…?」
「親同士が決めるんじゃなくて自分たちで相手を決めるの。」
僕は衝撃を受けた。
そういえばニーナの話していた前世もきっとそういう世界だった。
「ニーナはすごく素敵な人で僕はニーナが好きだ。」
「相手もノアが好きなの?」
「…」
恋愛に興味津々の友人にキラキラした目で聞かれて、僕は黙るしかなかった。
たとえ結婚できたとしてもニーナは僕を好きじゃない。
親同士が決める結婚が普通であれば気にしなかったが恋愛結婚という価値観を知ってしまうと安心していられなくなった。
ニーナの好みに近づこうと思った。
彼を参考にした。
僕はこの国にいる間にいろんなものを集めた。
ニーナが描いた彼の絵を思い出し似たものを探した。
そして、完璧になった。
留学の後半には完全にキャラ変した僕を友人たちは面白がっていた。
面白がられてみんないろんな仮面をプレゼントしてくれた。
みんな好意的な反応だったので僕は自信を持った。
「仮面の貴公子」として有名になりそれなりに楽しい留学生活を終えた。
家族はかなり驚いて僕に怒っていたがニーナの好きなキャラクターを見せ必死で説得したら最終的には許してくれた。
そして留学から戻りニーナとの初めてのデートの日。
ニーナを見て僕は顔が赤くなったが仮面のおかげで見えないだろうとホッとした。
変化した僕に戸惑ったようだったが留学中に僕に女友達ができたことにヤキモチを焼いてくれたようだった。
暗算もアピールできた。
カバンに切った赤いバラを忍ばせていたがそれは出すタイミングがなかった。
クールキャラなのであまり話すことはできなかったがニーナを喜ばせられたと思う。
ニーナの表情が優れなかったような気もするが自分の好きなキャラが現れて戸惑ったのだろう。
きっと好きになってくれるはずだ。
何かを見逃しているような気もするが僕は満足していた。