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水人間  作者: K
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「現れないな、皆口」


 回想を終えた俺がいるのは、夜の校舎の昇降口だった。

 今朝の会話のあと、山科が言い出したのだ。


「今日も雨だよな。これはもしかしたら今日だって現れるかもしれないぞ!」


 と。

 他の奴らは巻き込まれるのを避けることができたが、俺は結局、夜の校舎に訪れることになってしまった。

 山科は一眼レフのカメラを持ってきていた。これで、水人間と化した皆口の姿を捉えるそうだ。


「すみませんね、先輩にも付き合わせちゃって」


 俺は後ろにいた写真部O Bの小森先輩に言った。


「別に構わないよ。暇だったし」


 小森先輩は二つ年上。去年高校を卒業して、今は大学に通っているらしい。表向きは先生に写真部の活動の一環だと伝えていたが、保護者の存在が必要だと言われ、急遽山科が先輩を連れてきたのだった。


「でも水人間がどうしたとか、よく分からないんだよね」

「そうですよね。山科、説明してやれ」


 山科は自らのオカルト思想を布教できるとあって、意気揚々と語り始めた。


「水人間ってのはその名の通り水でできた人間ですよ。目撃談では液体状の人の形をした姿だと言われてますね。自在に姿を変えられて、普段はスライム状らしく、通気口や下水管を通ったりできます。初めて目撃されたのは1999年の豪華客船「蒼海」ですね。この時に乗客一人が行方不明になっています。それから色々と目撃されているそうですが・・」

「危ないやつなのかい?」


 山科はかぶりをふった。


「さあ、目撃談が少なくて分かりません、そこのところは」

「しかしなんで、彼女の失踪=水人間のしわざになるのか僕には不思議なんだ」


 そりゃそうだ。

 ほぼ俺が口を滑らせたせいでもあるが。


「彼女が持っていた小瓶はきっと水人間の体の一部だったんですよ。昔に水人間と知り合って、その時にもらったんでしょう。でも、仲良くなりすぎてしまった。だから、水人間に気に入られて海に連れて行かれてしまったんです」


 なんとも強引な仮説だった。

 しかし、あながちない話でもないかもしれなかった。

 

「そもそも水人間ってどういう生物なんだい。何を食べてるの? どうやって生まれてきたんだい?」

「俺の考えだとどこかの誰かが人工生命を作り出そうとして研究施設から逃げ出したものが水人間だとするのが一番しっくりきます」

「すべて山科の想像ですよ」


 雨が降る中、俺たちは待った。

 時間が過ぎていき、気づけば9時だった。


「もう2時間もいるんだ。帰ろうぜ」


 俺は言った。


「くっそー、行けると思ったんだけどなあ」

「いや無理だろ」

「こういう時間の過ごし方も悪くはないね」


 その時だった。


「あれ? 今窓に誰か映らなかったか?」


 先輩が声をあげた。

 昇降口から見える校舎の窓を指差す。


「誰か通ったぞ」

「こんな時間にですか? まさか」


 俺たちは確認すべく、校舎に入った。


「人影が映ったのは三階の窓だ」


 先輩の主導で俺たちは三階の廊下にきた。


 ピチャピチャと、音がした。

 見ると、廊下に水の跡が残されている。それを踏んでしまい音が鳴っているのだ。


「廊下の奥に誰かいる」


 山科がささやいた。

 廊下の突き当たり、階段の付近に人影が立っているのが見えた。

 

 パッと電気がついた。

 山科がスイッチを押したのだ。


「!?」


 廊下の奥にいたのは、見間違えようもない。あれは、皆口本人だった。白いワンピースに裸足という服装で、こちらをじっと見つめている。と、踵を返して、階段の方に身を翻し消えた。


 山科とともに廊下の端まで走り、階段の方を見た。

 しかしもうそこには誰もいなかった。


 先輩が遅れてやってきて、一言呟いた。


「そんなバカな!」


 

 



 雨は降り続いていた。

 俺と山科の住んでいる街は山を一つ超えたところにあった。とは言っても低い山なので大体5分も走っていれば、すぐにたどり着く距離にあった。さすがは小さな島である。


 俺たちは先輩の車の後部座席にいた。帰宅中である。

 窓には水滴がついたり離れたりしながら流れ落ちていった。


 話すことはといえば、先ほどの遭遇についてだった。


「あれはやっぱり皆口だったのかな?」

「いや水人間だろう。廊下だって足跡で濡れてたじゃないか」

「先輩はどう思いますか?」


 俺は先輩の後ろ姿に問いかける。


「どういうことだ、そんなわけあるわけがない、あり得ない・・」


 だが、先輩は先ほどから独り言を呟いている様子で、俺たちの会話には答えようとしなかった。心なしか声も震えているようだった。

 その様子に俺は不自然さを感じた。

 ちょっと、動揺しすぎではないだろうか。


 車は山の登り坂に差し掛かる頃だった。


「あれ?」


 俺は足元に何かの感触を覚えた。

 靴に何かが当たっている。


 拾い上げる。

 すべすべした小さなものだ。


「先輩、ちょっとライトつけますね」


 俺は車の室内灯をつけた。


「どうしたんだ沙川?」


 山科も覗き込んで来る。


「え? これは・・」


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