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水人間  作者: K
1/3

 俺の住むA島は瀬戸内海に浮かぶ有人島だ。

 人口4000人。近隣の島が中学すらない中、A島には高校もあった。

 その日も俺はいつも通り、始業前に教室にたどり着いた。


「いや、マジで見たんだって」


 そんな言葉が耳に入ってきた。


 見ると教室の一角に何人かが集まり、一つの机を取り囲んでるようだった。中心にいるのは俺の友人の山科だ。


「なんの話をしているんだ?」


 俺は山科に尋ねた。


「おお、沙川か。聞いてくれ。昨日、俺皆口に会ったんだよ」

「皆口に?」

「そうだよ、確かに見たんだよ」


 皆口といえば、1ヶ月前から行方不明になっているクラスメイトの女子だ。


「どこで見たんだ?」

「学校でだよ」

「学校?」

「昨日、忘れ物を取りに校舎に戻ったんだよ。時刻は大体7時ごろ、先生に言って鍵もらって教室から忘れ物を取ってきて、帰ろうとした時だ。ちょうど駐輪場のあたりに人影があってさ、街灯に照らされたその姿が・・・・」

「皆口だったと?」

「ああ」


 不思議な話だった。突然の失踪ですら理由が不明なのに、今更、学校になんの用だったのだろう。


「山科の見間違いじゃねえの?」

「いいや、間違いなく皆口だ」


 その時、俺の後ろからおずおずとした声があった。


「あのさあ、もしかしたらなんだけど、俺も似たような人を見た覚えがあるんだよね」


 友人の田中だった。

 

「田中も見たのか!?」

「確かかというと嘘になるんだけれど。俺、寮に住んでいるだろ? 何日か前の同じ時刻に窓の外の校庭に誰かがいたんだよ。雰囲気的に多分あれは皆口だと思う」

「でも、なんで行方不明になった奴が学校に用があるんだよ」


 俺は疑問を呈する。


「もしかしてその日、雨が降ってたか?」


 山科が田中に聞いた。


「ああ、降っていたね」

「やっぱりな」


 俺には彼が何を考えているのか、大体の察しがついた。山科はオカルト好きで今回の行方不明事件について独自の見解を抱いていた。その見解とは・・。


「水人間だ。奴らの仲間にされちまったんだ」


 と、まあこういうわけである。





 皆口は不思議な女子だった。

 俺の席の隣が皆口の席で、時々話したりもしたが、基本無口な奴だった。


 そんな彼女は常に首に小瓶の付いたネックレスをつけていた。ちょうど星の砂を入れるくらいの小さな小瓶で、その中には水のような液体が入っていた。

 一部の生徒の間ではあれはなんなのか、疑問を持つ人もいたし、噂にしている人もいたが、本人に直接尋ねる人はいなかった。俺も気になってはいたが、あの日まで聞くことはなかった。

 

 皆口がいなくなるちょうどその日だ。

 5月20日。俺は写真部の活動を終え、教室に荷物を取りに一人戻った。

 教室は西日で赤く染まっていた。


 他の生徒は皆帰ってしまったのだろう。

 人気のない教室に、ポツンと椅子に座る皆口の後ろ姿があった。

 俺は自分の席に近づいた。

 

 その時、皆口が何か喋っていることに気づいた。

 気づかれないように忍び足で近づくと、机の上に乗っている小瓶が目についた。


「何やってんだ? 皆口」


 彼女は驚いて振り返った。


「沙川くんか。いや、これはあれなのよね」

「あれってなんだ?」

「ええっと・・」

「前から気になってたけど、その水いったいなんなんだ?」


 俺の問いに彼女は言い淀んだ。


「大事な人からの贈り物なのよね」

「ふうん。特別な水なのか? 会話したら綺麗になるみたいな?」

「いや、そういうのじゃないよ」


 皆口は口元に手を当てて、言葉を選ぶように尋ねた。


「水人間って知ってるかな?」


 不意に聞き馴染みのない単語が出てきて、俺は戸惑った。

 水人間?


「知らないな」

「そう。そうだよね」


 彼女は机の上のネックレスを手に取り、首にかけて荷物を持って席を立った。


「じゃあ私は帰るね。このことはどうか他言無用でお願いするよ」


 

 そして、彼女はその日、姿を消した。


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