その9 薬草摘み(Part. H)
草原を進み、地下へ降りる。
すると今度は鬱蒼と茂る森が広がっていた。
よく見ると、木の洞や沢辺の崖の中に、ひっそり本棚が埋め込まれている。
一本一本の大木や、ぶらぶらした蔦まで空間術で再現されたものだというのだから、この学校の司書さん達って、本当にすごい。
部屋の意匠に感心しながら歩いていると、そこに小さな白い花を見つけた。
「あ!ルリユキソウ(*''▽'')」
以前、グリューンリッテで冒険した際、私がハーヴィー先生から出された課題で採取してきた花である。
艶めいた6弁花の輝きは、森の小さな一番星のように慎ましくて美しい。
「この花はな、葉を煎じて飲むと整腸作用があるんじゃよ。」「そうでしたね!」
ハーヴィー先生の図鑑に載っていた内容を、ご本人の口から聞けて光栄だな。
そう思っていると、先生はプチリとルリユキソウを抜く。
「えっ!!先生、ここって空間術の中じゃ…!?」
てっきり引き抜いたら魔術で再現された花も消えてしまうかと思っていたのに、意外にもルリユキソウはそのまま先生のポーチにしまわれる。
「確かにそうじゃが、空間術でない“本物”の部分も多数入れ込んであるんじゃよ。ああ、それは空間術ね。」
びっくりして本棚が埋め込まれた木の肌を触ってみると、そこからは薄く魔術の波動を感じる。
う~ん、私ではまだ見分けはつかないみたい…;
すごいなあと思っていると、先生はゴソゴソと謎の根っこを取り出して私にくれた。
意を察して、意を決して、それを言われるままにかじってみる。
「うぅ…;苦い…あっ(๑°ㅁ°๑)!!」
すると視界が急にクリアになって、おそらく空間術でできている部分であろう地形が薄く輝いて見え、そうでない部分と区別がつくようになった。
遠くにある次の階段も、良く見える。
「これはウスユウマグレ。飲むと魔力のこもった物質を感知できる植物じゃ。」
さすが薬草術の先生。
何度かえづきながら、その処方に感謝した。
その9 終
ひとこと事項
・ルリユキソウ
王国近辺に植生する、森を好む六弁花。葉を煎じて飲むと整腸作用があり、古くから薬として用いられてきた。「転送術士候補生I その17」参照
・ウスユウマグレ
日暮れの短い時間だけ花を咲かせる、王国では比較的珍しい植物。根をかじると、魔力を感知する能力が一時的に向上するが、非常に苦いらしい。