その7 とっておき(Part. H)
ハーヴィー先生と地下書庫に行くことが決まったあと。
お互い準備をしていこうと、一旦自由時間になった。
本当はすぐにでも追いかけたかったけれど、考えなしではいけないから、仕方ない。
私は支部長のことを思い出して、転送術士協会に立ち寄っていた。
「…そうかい。ついにこの時が来たんだね。」
エーレンツァ支部長もポケット先生とは旧知の仲の人。
本当はどこまでの仲なのか…は聞いちゃいけなさそうだけど、ポケット先生が見つかるかもしれないという朗報に喜んでくれるかと思いきや、納得したような雰囲気の返事。
「もしかして…支部長もご存知だったんですか?」
「…ディアス先生が、あいつの書いた手紙をくれてね。」
やれやれと頭を振る支部長。
もしかして、いつもこういう風に彼に振りまわれてきたのだろうか。
「それにはこう書いてあったさ。世界レベルの事情があって、ワシはかの“勇者の揺り籠”を目指した。ディアス殿を通じて新しい教え子の指導もきちんとするから、その子の面倒も見てやってほしい。あとオリヅルのことも頼んだ。ってね。」
隣で聞いていたオリヅル先輩は、うわぁ丸投げ~、と呆れ顔。
嫌そうな顔ではないところが、ポケット先生の性格を伺わせているようだった。
先輩も初めて知ったはずなのに、その犬が先生だったならもっとイジっとけばよかった〜、なんて悪の顔をしてニシシと笑っているくらいである。
でも…ポケット先生、一応私のこと、考えてはくれていたんだ…。
ちょっとそれで、救われたような気がした。
「本当はハー坊、あんたのことを止めなきゃならないんだろうけど…。意思も固そうだし、ハーヴィー先生も付いていって下さるっていうなら、どうしようもないね。」
そう言うと支部長は、オリヅル先輩に目配せをしながら、ついておいで、と奥へ誘う。
それから私は先輩の空間術の中で、支部長からとっておきの戦い方のレクチャーを受けた。
その7 終
ひとこと事項
・エーレンツァ
転送術士協会第5支部の支部長を務める老齢の女性転送術士。ポケットとは旧知の仲で、彼の輩出した教え子の多くの実務指導を行ってきた。
・オリヅル
現在のポケットの最後の弟子にして、ハーミアの先輩。遥か東国出身の才女。いつも眠たげな
表情をしていて怠惰な性格であるものの、容姿は端麗。