その6 リブラ・リンデの受付で(Part. H)
ハーヴィー先生と辿り着いたのは、学校の大図書館、リブラ・リンデ。
スコラ・リンデが誇る古い石造りの大図書館である。
地上は四階建てで、授業に必要な本や自習用の机が並んでいる。
私も勉強する際に使うことがままあって、お気に入りの机の場所とかもある。
でも、この図書館がすごいのは、無限に続く地下の存在だった。
地下はすべてフロアマスターである司書達の空間術で構成されていて、学校の歴史の中で集められてきた数々の貴重書が各階にジャンル別に納められている。
特にB51F以下は禁書架と呼ばれ、魔力を帯びた危険な本が沢山所蔵されていて、本が生み出した魔物まで出ることもあることから、そこへ行くには学園長の許可や、学園教員による引率が必須とされていた。
そんな図書館の入り口には、片目が月と化した老人のレリーフが掲げられていた。
来訪者の世界に伝わる、知恵の象徴なのだとか。
受付に行けば、優しそうな司書のお姉さんが声をかけてくれる。
「こんにちは、ハーヴィー先生と学園生ですね。図書のご利用ですか?」
「いや、まずは死霊術…いや、転送術科のディアス先生の来館記録を教えてほしい。」
司書さんは私の制服を見て、すぐにスコラ・リンデの学生だと認識してくれる。
それから彼女は帳簿を探して、先生の記録について教えてくれる。
「ディアス先生ですね。…ええ、来られていますが…。」「地下ですかな?」
「はい…昨日の夕方から、禁書架地下86階、A-7に向かわれたようです。まだ帰ってきたという報告はないようです。」
ハーヴィー先生、すごい!
どうしてすぐにディアス先生の足取りが分かったんだろう…!
でも私がそこに辿り着くには、許可が要る。
「先生、私…その…」
「…80階ともなると、相当危険じゃぞ?それでも行きたいのか?」
先生の眼には、意志を問う色があったので、私は思い切り頷いてみせる。
すると先生はウムと唸って、こう言った。
「ポケットはお主の師にしてワシの親友じゃ。共に探しにいこうぞ。」
その6 終
ひとこと事項
・リブラ・リンデ
別名・月沈む書庫。この名はかつて片目を犠牲にしてまで知識を求めた者の目が月となったという逸話からきている。入り口のレリーフは、片目にムーンストーンが埋め込まれていた老人の姿が描かれ、これが図書館のシンボルとなっている。
・スコラ・リンデの看板学科
スコラ・リンデの看板学科は司書科である。国内でも有数なリブラ・リンデを維持するためには、莫大な魔力と有用な人材が必要となる。知識を愛し、知識を守ることを夢見る司書の卵たちは、司書術と呼ばれるこの世界の司書となるために必要な魔術体系を学ぶ必要があり、それを収めたリブラ・リンデの司書たちは本のエキスパートとして名高い。