その20 帰還(Part. H)
かつて龍が恋した来訪者を見送った揺り籠。
その場に留まり、世界の危機を知ろうとする老魔術士。
そこへ魔族が襲ってきたのが、今回の事件の真相だった。
こっちの魔族もなんとかなったし、元凶の方も解決するとのことだから、これで一件落着かなとなり、私達はポケット先生を残して揺り籠から帰ることにした。
ライ君にもポケット先生の意識が戻って、一安心。
でもこれが先生だと思うと、今後はどうやって付き合っていけばいいのやら…。
ハーヴィー先生は親友のために、食べ物の生る木を揺り籠に植えまくっている。
ポケット先生は植えてもらっている身のくせに、あの果物が良いとか要望を出しまくっている。
そんな作業を眺めながら、懐かしい場所で佇むディアス先生の隣に並ぶ。
「…先生も私も、勇者様への片思いは、失敗しちゃったんですね。」
「…そうですね;」
苦笑する先生。
もしかして、まだ彼女さんが帰ってくるかも、なんて思っているのかな?
「生命術は、その勇者様をサポートするために磨いてきた技なんですか?」
そう尋ねれば、先生はクスっとはなを鳴らす。
それならば、寝ている間にいつの間にか死霊術なんて名前に変えられていたら、不本意ですよね。
「まあおかげ様でスコラ・リンデの不人気教師になれて、自由な時間を楽しませてもらっていますよ。」
面白そうにそう言うと、こっちは終わったよーと手を振るハーヴィー先生。
「それじゃあ元の世界へ帰りましょう。」
作業も終わり、ついに帰る時間がやってきた。
ポケット先生の転送術に見送られ、私達は伝承の地を後にした。
その20 終
ひとこと事項
・ある魔術士の悩み
自身が好んで使用していた魔術の体系が、他者の都合でいつの間にか環境が変えられ、廃れ、更には不気味な魔術として忌み嫌われる事態になることに気付いた術士は、それでも自身の愛した専門を貫き通すべきか長く悩んでいた。そんな折に、思わぬところで声をかけてきた老人が、どんなに馬鹿にされても夢を貫いてきたことを知り、大きな勇気をもらったという。術士はありのままの自分であることを決意した。




