その14 揺り籠へと至る道(Part. H)
「やっと着いたのぅ…;」「うぅ…はい;」
本当に紆余紆余な曲折を経てB86Fまで来た私達は、A-7区画へ辿り着いた。
禁書庫はあの白い魔物に始まり、数階毎にとんでもないハプニングに見舞われた。
治水の本から洪水レベルで濁流が押し寄せてきたり、謎の教典から見たことのない魔物が飛び出してきて襲ってきたり。
その度にハーヴィー先生が頑張ってくれて、時々は私も転送術で援護できた。
ディアス先生、こんなところまで一人で来ちゃうなんて、すごいなあ。
そう思いながら目的の区画に到達すれば、床に転送陣の痕跡があった。
「『揺り籠へと至る道』…多分これじゃな…。」
転送陣の近くに落ちていた本を拾い上げて、先生はそれを開く。
それからページをぺらぺらめくり、転送陣が記載された挿絵の箇所を発見する。
私も横から覗いて、床のものと見比べると、若干異なっていて、術者独自の改変があることに気がつく。
「何ヶ所か術式が消えちゃってますね…」
「復元できるか!?」
「多分ですけど…。」
これまでディアス先生が教えてくれた転送術の授業。
それは実際、ライ君を通じたポケット先生の指導だったのかもしれない。
でも私は、ディアス先生の死霊術の授業も受けていたから、二人の術式のクセを知っている…そんな気がした。
先生が陣まで敷いたということは、この魔術は相当高度なものだったのだろう。
挿絵と見比べながら、ロウ石を使って慎重に痕跡を辿れば、転送陣を復元できた。
ハーヴィー先生はびっくりしながらも、頭を撫でてくれた。
「見事。それでは揺り籠への扉を開こうか―!」
「はいっ―!」
ありったけの魔力を込めて、転送術を起動した―!!
先生…この先にいてくださいね!
その14 終
ひとこと事項
・転送陣の復元
リブラ・リンデB86Fに残された転送陣の復元自体は完全になされていた。ただしハーミアはそこに描かれた複雑な術式の構造までは完全に理解しておらず、持ち前の転送術の知識に加えて、これまでの指導で見てきたポケットやディアスの魔法陣によく描かれていた彼らの術式のクセのようなものを見抜き、復元したに過ぎなかった。
理解できなかった構造の部分は彼女にとっては仕方の無い物で、それは結界抜けの術式の部分や次元を超えるような長距離転移のための威力増幅術式等、今後習うかも分からない高度なレベルのものであった。




