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転送術士候補生III  作者: よのもり せいう
12/22

その12 禁書架(Part. H)

B50Fの休憩所では、司書さんを含め、十数人程が休みを取っていた。

私達も混ざって休めば、色んな人によく来たね、と褒められた。

でもその中に、やっぱりディアス先生はいなかった。


仮眠の後に、司書さんにもう一度禁書架へ行く旨を伝えると、驚かれた。

本当にこの先に進むのか、何度か聞かれたけれど、行かないわけにはいかない。

もちろん本当は行きたくなんてないんだけど…;


制止を押し切り階下へ足を運べば、また広大な空間に出た。


朽ちた白い塗り壁は、元々は何かの施設であったかのような名残があった。

天井は砕かれ、見上げれば大きく広がった灰色の空から、淡い光の筋が差降りている。

施設の跡地に点在する本棚には沢山の蔵書が納められている。


気になったのは、耳にずっと響いているアンセムのようなコーラス。

音源を探れば、頭がホラ貝になっている人間が、あー、とか、うー、とかの声を厳かに出しながら、ひたすらフロア内にその声を届けている。

良い声なんだけど、こ、怖い…。


と、長椅子にぽつり座ってそれに聞き入っている人もいるかと思えば、その人は赤い唇以外は全身真っ白で、目のない顔で、こちらをじっと見つめていた。

早速ライ君がその人に向かってワンワン吠えている。

すっごいやめてほしい(>_<)


「せ…せせせ、先生( ;∀;)」「わかっちょるよ。」

一度視線を外してもう一度振り返れば、目の前に瞬間移動してきそうな気がして、意を決してハーヴィー先生の方を向くだけなのが精いっぱいな私。


もうここには二度と来たくないと思いました。




その12 終

ひとこと事項


・B51Fの意匠

この階のフロアマスター、司書・シャトライエに依れば、B51Fは非道な人体実験の記録が納められた階となり、その犠牲者を悼むために、閉じ込められていたであろう施設からの脱出と救済をテーマとしているという。施設は破壊され、空から一条の光が差す様がそれを表現しているらしい。この階には実験体を模している可能性のある姿をした魔物がよく出没し、時として見境なく来館者を襲うという。


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