50 国境越え
ふもとの村を出て30分ほど行くとタミネアの国境門に着いた。
「クランさん、門を出たら、私の前を行ってください。私が後ろを行きます。クローネの国境門までは一本道です。『走れ!』と言ったら全速力でクローネの国境門を目指してください」
ラケムさんの言葉にクランさんは目の前の国境門を見てうなずいた。
タミネアとクローネの国境門の間には深い森が広がっている。ふもとの村を出ると、タミネアの兵がところどころにいるのがわかった。既にメイちゃんを連れ去る命令は取り消されているけれど、クローネに潜入したタミネア兵が帰還するときに、追って来るかもしれないクローネ兵をここで食い止めるために布陣しているのだった。
「止まれ! 通行証と身分証明書を見せろ!」
国境門を守っていた兵士の一人が私たちの足を止めた。
「クローネの薬屋とセフィス真教の神官見習いだと? 奇妙な取り合わせだな……」
私たちの差し出した証書を受け取って確認すると、そのまま国境門の中へと入っていってしまった。
なんだか嫌な汗をかく。ラケムさんもクランさんも表情を変えることなく、そのまま馬に乗ったまま門の前で待っている。
「私自身が作ったセフィス真教の身分証明書ですから、本物です。たとえ嘘を書いていたとしてもね!」
クランさんは私たちにだけ聞こえるようにささやいた。
「薬屋と神官見習いだと……? その年で未だ神官見習いなのか? 連れの女性は?」
門の中から証書を持って行った兵士と一緒に偉そうな人が出てきて、私たちをギロッっと睨みつけるようにして上から下まで見定めている。
「大神官様からクローネのセフィス教への親書を預かっております。連れの女は目を患っておりますため、大神官様が寒さが厳しくなる前に温暖なクローネに連れて行くようにということで同行させております。
クローネから薬を届けてくださったこちらの方と、道中を共にしております」
クランさんが説明をしている間、偉そうな人はじっとアメリアさんを見ている。
「もしや…… セフィスの巫女 アメリア様? でもあのときお亡くなりになったはず!
いや、……アメリア様だ! 」
「人違いでございましょう」
「アメリア様の声だ! 間違いない!! 私はずっと王宮にいたのだよ。アメリア様は何度もお見かけしているし、声も聞いている。私は王宮からは伝令を伝えにここまできただけのこと。
お前! タミネアの巫女――アメリア様が死んだと見せかけて、クローネのセフィス教に引き渡すつもりなのか?」
まずい!! 私がそう思った瞬間!
「走れー!」
ラケムさんが叫んだ。それと同時に、クランさんは、国境門を守る兵士を突き飛ばすようにして門を駆け抜ける。その後をすぐラケムさんが続くようにして馬を走らせた
プォオーッ!!
緊急を知らせる角笛がけたたましく鳴り響いた。
「クローネに行かせるなぁー! アメリア様だ! アメリア様がさらわれた!!」
国境門から怒号が響くと、待機していた兵士たちが一斉に姿を現した。
数頭の騎兵が私たちの後を追いかけてくる。さすがに軍馬は市井の馬とは比べ物にならず、あっという間に追いつかれそうになる。さらには、横からも騎兵が近づいてきた。馬を操る技はタミネアが群を抜いている。
追いつかれるのも時間の問題だ。
「クランさん! 支援魔法をかけます! 馬のスピードを上げますから振り落とされないように気を付けてー!」
私は前を行くクランさんに叫ぶと、クランさんは聞こえたかのようにアメリアさんを守りながら前傾姿勢を取り、上がるであろうスピードに対処する。
【ヘイスト】
【ライト・ガード】
クランさんとラケムさんの馬に魔法をかける。【ヘイスト】は光と相性がいい。光の防御は物理攻撃にはあまり効果的ではないけれど、相手の視界をかく乱するように光の残像を残していくから、【ライト・ガード】で防護されている対象を見定めることができなくなる。
馬を走らせること30分くらい、必死に前だけを見て馬を走らせた。クローネの国境門が見えてきた。タミネアの兵は追ってきてはいるもののかなり後方で視界からは消えた。
「ひとまず安心だ。マルルカ、魔法を解除して。私でもかなり堪える速さだ」
魔法を解除すると、クローネの国境門からクローネの兵が門とその周辺を固めるようにして、姿を現した。
「お前たち! 何者だ!」
国境門から兵士が数人用心深く馬を進めながらこちらにやってくる。
「私はクローネ王国のラケムだ。
私の名を知っている者があれば、確認するがよい!」
兵士は後ろに控えている兵の一人を国境門まで戻らせると、ほどなくして一人の立派な将軍みたいな人がやってきた。
「確かに…… ラケム王子! 馬上から失礼いたします。
私は、第2部隊が隊長 ベドル・ザクテル。父がお世話になっております」
(えぇぇー!! ラケムさんって……王子様だったの!?)
「タミネアの兵が、私たちを追ってきています。できるだけ戦闘にならぬよう、対処願います。ちょっとした誤解が起きたのです…… クローネの民を守るとだけ言っておいてください」
私たちは国境門の奥にある小さな部屋へと案内された。
「まさか、ラケム王子がタミネアに行っていらしたとは……」
「内密の行動です。こちらはセフィス真教の大神官様です。そしてセフィス様の巫女アメリア様です。マルルカはクローネの民です。あまり長居はできません」
そう言って、ラケムさん、いや王子様はタミネアの兵がメイちゃんを連れ去るために侵入していることを話した。
「タミネアの命は撤回されたことを侵入している兵たちに伝えるように伝令がここを通ったはずです…… タミネアの兵が、どのような体になるかはわかりませんが明日以降ここを通過するでしょう。無駄な戦いは避けてください。決して深追いはしないでください」
「それが……その……たぶん、その伝令をここで捕らえておりまして……
クローネにはタミネアの兵が侵入していることはすぐ伝えてはありますが……」
ベドル隊長が申し訳なさそうに言った。
結局、侵入したタミネア兵は最初の命令どおりにメイちゃんを連れ去る行動をとるということだ……
「仕方ありません。伝令は丁重に対応してタミネアに帰してあげてください。彼が、私たちの起こした騒動を解決してくれるかもしれませんし。私たちは先に進みます。
それから、馬をお貸し願えないだろうか? 乗って来た馬にはかなり無理をさせてしまいました。国境の街まで行きたいので」
ラケムさんがそういうと、ベドル隊長は馬車を1台用意してくれた。私たちはクローネ兵に守られて国境の街まで連れて行ってもらえることになった。




