48 それぞれができることを……
「そういうときにはこうするのだよ」
いつの間にか、私の隣りには深紅の燃えるような髪をしているのに周りを氷漬けにしそうなほどの冷気をまとったオルト兄ぃが立っていた。
初めて見るオルト兄ぃの姿……
(まともに隣りにいたら、死んでしまいそうだ。熱気なのかあるいは冷気なのか、焼けるように痛い! それなのに目を奪われるほどに美しい…… 地獄の苦しみのよう
アル兄様のときと同じ感覚!! みんなおかしくなってしまう!)
私はなんとかオルト兄ぃの放つ気に抗って、部屋全体に 【光のプロテクション】をかけて、ここにいる人たちの意識を守る。
「いのちを減らした者へ、王のいのちから分け与えよう…… 」
オルト兄ぃがそう口にすると、弱ったまま意識をなくしている男の人に生気がもどり、頬に赤みが差してきた。
「あぁぁああー 誰か助けてくれー 力が抜けていく」
タミネアの王は一瞬にして生気を奪われたように弱弱しい声をあげると、そのままつぶれるようにして床にぺしゃんこになってしまった。
(魔法解除しなくっちゃ!) 慌てて【グラヴィティ】を解除するが、王はそのまま全く動けずにいた。
「この場にいる者にしか移せないけどね!
裁くのは僕たちじゃない……人がやること。 後は、あっちの王様に任せたら?」
オルト兄ぃは私にだけ聞こえるように言って、ニヤッと笑った。
「オルト兄ぃ、頼むから、いつもの姿になって!!
私でもつらいの!」
「もうちょっとしたら消えるから、それまでガマン!」
私にそう言うと、オルト兄ぃは無表情でここにいる人たちを見下ろすようにしてすっと立った。その姿はあまりにも神々しく、見る者を惑わせるほどに美しい。一瞬にして私のプロテクションの効果を無にしてしまった。焼けるように痛い空気が空間を支配する。
「タミネアの王は愚王。天の沙汰をその身で待つがよい。
いずれ、国は助けを得られるであろう。それまで残された者たちで国を守るがよい」
オルト兄ぃはそれだけ言うとそのまま消えた。部屋中の空気が一気にゆるんだ。
その場にいた衛兵たちは息を吹き返したように互いの身を案じると、安どの表情を浮かべていた。
「生きている!」「死ぬかと思った……」
「あのお方は……もしや神!?」「おそばに行きたいと願うほどに苦しみが増すとは…… でももっとお近くにぃ!!」
「おぉ、神よ! セフィス様ー!
…… だが、神の預言も…はずれるよ タミネアが助けを得られるだと?
タミネアは世界に君臨する国だ。
すでにクローネにも…兵を侵入させている。奇跡の子…メイを…連れ去る手筈・・・・・・」
弱り切ったタミネア王は床にへばりついたまま、息も絶え絶えにぼそぼそと話すと、そのまま意識を失ってしまった。
(奇跡の子メイ? 何それ!!
それより、ここをなんとかしなくっちゃ!
いつもオルト兄ぃは私を全部助けてはくれない……)
「あなた方のタミネア王は、幽閉なさい。
クローネに侵入した兵たちにはことを起こさぬよう伝えてください。
タミネアのいのちを守る者に神の祝福がありますように……」
「御使い様 必ずや、タミネアの地を守ります!」
「御使い様、いのちを救ってくださりありがとうございました」
衛兵たちとシモンさんは口々に思いを口にして、私に頭を下げる。
私はその場を後にした。
(オルト兄ぃみたいに転移できたらいいのに……
時と空間、人のいのちさえも支配するは神の領域。魔法なんかじゃない。
真の神の力……そういうことか)
この世界ノージスはアル兄様が創造した世界なのだと思った。
魔力のない魔法のない世界を創ったんだ。
魔力のない世界では、私は異質だ。アメリアさんやレイスも……きっとそう。
アル兄様は魔力・魔気がこの世界に漂うことを許さない。世界のあり様が変わるから。
でも、この世界に生きている人たちがどんな営みをして、どんな歴史を作っていくかは、この世界の人たちにゆだねている。
この世界の人間じゃない私が関わっちゃいけなかった。
そういうこと・・・・・・
だったらなぜ、オルト兄ぃはアメリアさんの瞳を残したんだろう!?
考え事をしているうちに、私は王宮の外の階段を下りていた。
少し歩いて、暗闇に紛れる人目のないところを探すと、そこでいつもの姿に戻り、みんなの待っている大神殿へと向かった。
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「マルルカ、 無事だったんだね! よかった」
ラケムさんが私の姿を見て、安堵の表情を浮かべ迎えてくれた。
「マルルカ殿おかえりなさい。外は寒かったでしょう。暖かいお茶を入れますね」
大神官様はやさしく声をかけてくれると、一度部屋を出て行った。
アメリアさんには遅いから先に休んでもらったと言う。
「瞳の結晶は壊してきました。
それより、メイちゃんが奇跡の子と呼ばれているみたいです。タミネアの王様がメイちゃんを連れて来ようと、クローネに兵を侵入させたって……」
私は城で起きたことをラケムさんと大神官様に伝えた。
「私たちがどんなに後を追っても間に合わないでしょう。
ならば、ここにいる私が、今、できることをしていきます。
この国の民がいつもの暮らしを営むことができるように……
クローネの国の中のことは、今、私たちが心配しても何も変わりません。
あちらはお任せしましょう! 大丈夫です。
王と頼もしい側近、忠実な者が大勢いるのですから!」
ラケムさんはニッコリと笑った。
「私も、タミネアの人たちが心安らかに過ごせるように、私ができることをします。
すっかり真夜中を過ぎてしまったようです。今日はもうお休みください。
マルルカ殿は本当によくやってくださいました。タミネアの人びとに代わり、深く感謝いたします」
大神官様は、すごく引き締まった、覚悟をもったような顔つきをしていた。
私とラケムさんはまもなく夜が明けようとする頃になって宿へもどり、長い一日を終えた。




