45 大神官様
トントントン
扉をノックする音がして、外から見習い神官様が声をかけてきた。
「大神官様がお見えになりました」
少しして、大神官様って呼ばれていた人が入って来た。
灰色の髪と瞳をした大神官様は、30歳くらいの穏やかな感じの人だった。見習い神官様と同じ灰色のローブをサッシュで絞めていて、その上から、黒いシンプルなローブをかけている。セフィス教の人たちと比べるととても地味な感じだ。
(大神官様っていうからおじいさんかと思ったら、意外に若くてびっくり! アル兄様より少し上くらい? )
ラケムさんは立ち上がって入り口のところにいらっしゃる大神官様の近くに行き、ひざをついて挨拶をした。
「この度は突然の来訪失礼いたします。
クローネ王の命により、大神官様のところへと参りました。
ここにいる者は、クローネの民 マルルカにございます」
「大神官様にご挨拶申し上げます。マルルカと申します」
長いドレスではないけれど、スカートをつまんでお辞儀をする。
「これはかわいらしいお嬢さんだ。なぜマルルカ殿がご同行を?」
大神官様は私を見て少し困惑したような表情を一瞬浮かべた。
「今回の来訪は…… 大変申し上げにくいというか、説明が難しいのですが……
我が王が、マルルカを連れて大神官様にお会いして来い、とだけで……」
「ふむ…… それで、アメリアに偶然にも会った……ということですか」
「大神官様! 私をクローネに行かせてください。姉さんの子どもに会いに!!
マルルカさんが姉さんとレイス君、メイさんの知り合いだったんです!
これまでも本当に自分勝手だったことは承知しています。
でもお願いします。どうか私の最後の願いをお聞き届けください」
何か考えごとをしている大神官様に、アメリアさんがソファから立ち上がり、お願いした。
「アメリア、あなたが私にお願いするということは、すでにクローネの方が同行を許してくださったのでしょう。私もあなたがどこに行こうとも、止めるつもりはありません。
でも、見れば、ラケム殿は供も連れずマルルカ殿とたったお二人でいらしたご様子。それにあなたが同行すれば、ラケム殿にご負担をかけてしまいます。
神殿からもあなたに同行する者を手配する故、明後日の朝の出発でもよろしいですか?
それができなければ、アメリア、今回のあなたのクローネ行きはあきらめていただきます。
ラケム殿、明後日まで出発を延ばすことは可能ですか?」
「それは構いませんが……」
(このまま帰って、それで私は王の命に応えたことになるのか・・・・・・)
ラケムさんにしては、珍しく少し不安そうにして私を見る。
確かに、王様は大神官様に会ってこいとだけ言った。それで、大神官様にも会えた。
そして、偶然あったアメリアさんをクローネに連れていくことになった。
なんだかわからないけれど、何かが変わった気がする。
私は、ラケムさんに大きくうなずいた。
「わかりました。それでは、出発を明後日の朝にいたしましょう。
アメリアさんをクローネに連れて行きましょう!」
「あぁー ラケム様、ありがとうございます。ありがとうございます!!」
アメリアさんは胸に手を当てて、何度も何度もラケムさんにお礼の言葉を繰り返していた。
「大神官様、私、お聞きしたいことがあるのですけど……」
「なんでしょう? 私はあまり物知りではありませんから、私がお答えできることは少ないですよ」
大神官様は少し笑いながら私の問いかけに快く応じてくれた。
「あの…… 昨日、片目の男の人を見かけたのですが、なんだか変な感じがして……
うまく言葉にできないのですけれど、なんて言ったらいいか
ごめんなさい、あまり考えずにお尋ねしてしまいました」
私、なんでこんなこと、ここで言っちゃったんだろう? 思わず口に出てしまったけど、大神官様にお聞きすることじゃなかったかもしれない。
「それは、アメリアから聞いたほうがいいでしょう。アメリアが話す気持ちがあるのなら、ですけれど。私はアメリアから聞いたことしか知りませんから」
「マルルカさん、あなたはさきほど、オルト兄ぃとおっしゃっていましたけれど、私の知っているオルトと同じ人物かどうか……
でも、彼はとても不思議な人――今にして思えばですけれど不思議な力を持っていたのですが……あなたも、さきほどオルトが魂を食べた・・・・・・とかおっしゃっていましたよね?」
大神官様の言葉を受けて、アメリアさんはたんたんと話してくれたけど、その言葉にラケムさんも大神官様も目を見開いた。
(あぁ、私、言っちゃったんだぁ!! どうしよう! 無意識だった)
「たぶん、兄・・・・・・ 同じ人物だと思います」
「ここに連れてきてくれたのはオルトです。私が目を失くしたときのことは大神官様にもお話していないのです…… あまりにも信じてもらえそうもない話なので」
アメリアさんはそう前置きをして、王宮での出来事を話し始めた。
アメリアさんの目を失くした話はラケムさん、そして大神官様も口も聞けない状態になってしまっていた。そしてその不思議な力を持っている兄がいる私。ラケムさんは、私のことを知っているから、そこまでは不思議に思うことはないだろうけれど。
大神官様にも言ったほうがいい……ってことなのかな?
(ここまでアメリアさんにオルト兄ぃのしたことを話されて、私はどうしたらいいんだろう・・・・・・ そんな人が兄だって言っちゃったし・・・・・・)
私は途方に暮れてしまった。
オルト兄ぃ! 私がここにいるのがわかるのなら、ここに来て!
思わず願ってしまう。
「マルルカ、王宮にある瞳の結晶――アメリアさんの瞳を壊せるのなら壊してきてもいいよぉ」
いつの間にか、入り口のところには、いたずらっぽい笑みを浮かべたオルト兄ぃがいた。ラケムさんにとっては2度目のことだけど、大神官様にとっては、あまりにも突然のことで、完全に言葉を失くしている。
「おっと、これは、私としたことが……ノックもせず、来室の許可も得ず失礼なことをいたしました。
大神官様には初めてお目にかかります。オルトと申します」
「オ、オルト殿…… こちらこそ、セフィス真教の大神官を務めさせていただいております。決まり故、名を名乗らないことを許していただきたい」
(私が強く思えば、オルト兄ぃやアル兄様に伝わるの?
それだったら、森のおうちに書き置きを残してくる必要はなかったっていうことか)
突然、現れた――転移してきたオルト兄ぃの姿を見てふと思う。
いや! 今は、アメリアさんのことだ。ブンブンと頭を振って考えを切り替える。
「オルト兄ぃ! なんでアメリアさんの目を結晶にしたの?」
「ほら、アメリアさんはあそこを出たいって言うし…… あの王様、アメリアさんを手放しそうになかったからね!
ついでに、ちょっとした贈り物――瞳の結晶を置いてきたんだよ…… あの王様、どうするのかなぁと思ってさ!
王様のことがわかったから、僕はもういいや! だからマルルカが壊したいなら壊していいよ。
あっ、そうそう! あれ、人のいのちを消耗して遠見の力を発揮するから、マルルカも視ないように気を付けてね。もう、起動しちゃってるみたいだから!
じゃあね。またね! マルルカ
妹に突然呼び出されただけのこと、皆さまには、これで失礼することをお許しください」
オルト兄ぃは丁寧にお辞儀をすると……そのまま消えた。
結局オルト兄ぃは、私に丸投げしていった――ことになる。
「マルルカ殿! お兄様はいったい…… いえ、あなたがたは……いったい何者!」
この中で、大神官様が、一番わけがわからない! という顔をしていた。




