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2つの世界の物語 ~魔力の化け物と呼ばれた少女の物語~  作者: 星あんず
第3章 とまどいの一歩(後編)
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42 会議

「審問官様……」


「・・・・・・ブリドニクのシェルドン殿か? こんなところまで……

 私を笑いに来たのか?」


 約束通り、ジャイロはコラモ・バンクスに会わせてくれた。

 薄暗い地下牢の朝は底冷えがする。

 ひとつの独房の隅に、ブリドニクの教会で会った時の尊大な態度が嘘のように体を丸めていたのが、コラモ・バンクスだった。

 


「メイのにせものが現れて――奇跡の力をもつとされる聖女です。

 教会が騙されているのか、それとも教会が私たちを騙しているのか……

 私は、教会の真意を知りたくて、あなたに会いに来たのです! 私がお聞きできる方はあなた以外知りませんでしたから・・・・・・」


「ふん! お前は勝ち馬を見定めに来たんだろ? 私とお前は似た者どおしだからな。

 お前の考えることはよくわかるわ……

 教会には、神は――セフィス様は、もうとっくにいないよ!

 あそこは、神の名を語り、利用する者だけの集まりだよ。

 邪魔なもの、失敗すれば切り捨ててなかったことにする連中ばかりだ。

 お前には理解できるのではないか? シェルドン……

 神は国を越えて支配できるんだよ。人の善良と欲望を……

 神を信じる心に国境はないからね!」


 それだけ言うとコラモは背を向け、いくらシェルドンが問いかけても一言も話すことはなかった。



 シェルドンはジャイロに促されて地下牢を後にした。


 そうだった。俺は、わかってたではないか!


 ナーデルのメイが、本物かにせものかは、教会にとってはすでに問題のないことだった。

 教会が本物のメイだと言えば、それが真実になる。


 今さら、本物のメイはブリドニクにいると言ったところで、奇跡の力を持つというメイを前にしては、かすんでしまうだろう。国中が、ナーデルのメイを本物のプーレフェミナ・スザンナの子、聖女だと信じているのだ。

 教会が、俺の連れてくるメイが本物だという証拠を出せと言ってくるのは、目に見えている。大勢の人びとは既に信じる状況ではない。

 兄のレイスが今さら、妹ではない! と叫んだところで一笑されるだけだ。むしろ、レイスをにせものと呼び、にせもののレイスを本物として出してくるだろう。


 教会にメイを差し出すタイミングを、俺は既に逃していた……

 アル殿がメイを連れてきたときが、教会にメイを差し出すタイミングだったのだ!

 浅はかにも、国と教会を天秤にかけようとした自分の驕りと愚かさ故の結果なのだ。それをアル殿に、既に見透かされていたんだ。


 アル殿が一枚も二枚も上手だったか…… ジャイロの言うとおり「おっかねぇ兄ちゃん」だ。

 メイは、俺が騒がなければ、このまま穏やかに暮らせるのだろう。


 なんだかそれでいい気がしてきた。

 俺としたことが…… 甘くなったな。




「・・・・・・気が済んだかい?」


 ジャイロの声に、シェルドンは現実に引き戻された


「あぁ、ジャイロ殿、感謝する。お礼をしたいのだが・・・・・・」


「いや、いいさ! お前からいい話聞けたからな! ブリドニクに帰るか?」


「ナーデルの聖女様を拝んで帰るよ。

 俺には、どうも、その奇跡の力っていうのが胡散臭く思えてな。 まぁ、ナーデルで話を小耳にした程度だが・・・・・・」



(・・・・・・奇跡の力か・・・・・・あいつなら視えるかもな)


「これも何かの縁だ。また飲みに誘うよ。じゃぁな!」


 ジャイロとシェルドンは王宮門で別れた。




*********************************




「シェルドン殿は帰ったか?」


「あぁ、面白れぇ話してくれたよ。教会の聖女は胡散臭いってよ!

 レイスも呼んでくれないか?」


 ラケムがいないいつもの顔ぶれが、会議の間に集まっていた。ジャイロが座るとクローネ王が声をかけた。レイスが入って来たことを確認すると、ジャイロはシェルドンから聞いた話とコラモとの会話の内容を伝えた。


「神はいない、セフィス教は神の名を利用する者の集まりと言ったか……」


 宰相のクリフトがぽつりと言う。


「明日、レイスに聖女が本当に奇跡の力があるか視てもらいたいんだ。

 レイスだったら視えるんじゃねぇかと思ってよ」



「王よ、そしてジャイロ、まずは、ワシの報告を聞いてもらえないか?」


 総大将軍のザクテルが、口をはさんだ。


「タミネアの動きが怪しい。王都内で事を起こすように思われる」


 ここ2、3日、タミネアから入ってくる者が増えていると言う。

 商隊や普通の民のようなていをしているが、体や目つきが違うのだと。荷物や商品を検査しても怪しいものは出てきていないが、すべてを検査するには、人手も時間もなく、国境を通過させるしかないという報告が来ていた。

 それから、なぜか隻眼の者が多いと……。ひとりくらいいてもおかしいとは思わないが、少し前から、ぽつぽつと出てきて、5人、6人という人数を数えるくらいになると、なぜ片目を失くしたのかと、疑問に思うようになった。片目を失くした理由を聞いても、怪我をしたくらいしか言わず、かといって、鍛えられた兵のようにも見えず、旅人だったり、商隊の中に紛れていたりする。


「隻眼の男なら、俺も見てるぜ。最近じゃぁ、大教会前の広場でよく見かける。いつ見てもぼーっとあたりを見回してるよ。目を治してもらいたいのか、と思ってたが……」

「怪しいと思われる者の数はさほど多くない。入って来た数は100程度。だが、念のため、タミネアの国境付近の街や村に千人兵を1部隊、騎兵も含めて向かわせている。王都からは通常2日、早馬で1日かかる距離だからな。途中の街道の警備も厚くするようにした。いざというときの、国境を守る手筈は整えた。深追いせず国境は越えるなと言ってある。本隊到着は3日後、明後日だ。

 王都内は、民の安全と誘導を図る部隊に百人兵を2部隊、有事の際に精鋭を50、万全の準備で控えさせている。100人程度であれば、万が一騒ぎを起こしても速やかに鎮圧できるだろう」


「ザクテル将軍、教会騎士の半数以上は地下牢にまだいる。もともと100もいない教会騎士で、バンクスの屋敷で確実に勝てる勝負をしかけたのが、まさかの失敗だったからね。まともに戦える奴は、教会にはもう残ってないよ。自分たちの身辺警護が精いっぱいだろう」


「あぁ、リーシャ、それは織り込み済みだ。教会の者を優先して守るつもりはない!

 民の安全が最優先だ」


「ふむ。お前に任せる。ザクテル

 それから、精鋭を3,4人、ジャイロに預けてやってくれ」


「御意、ジャイロのくせのある動きに合わせられる奴を揃えておこう」


 ザクテルは王の言葉に答え、ニヤリと笑ってジャイロを横目で見る。


「レイス、お前はジャイロと行動を共にせよ。決してジャイロから離れず指示に従え!

 お前の身も危ないのだからな。

 そして、その聖女の奇跡の力の真偽を確認してこい。視えなくても問い詰めたりはせぬから安心しろ。

 お前は、本来は絵描きなのだからな! 忘れるなよ。

 ジャイロ、おまえはレイスを連れて、大教会へ行け。レイスはぜったい守れよ!」


 この場に連れてこられてからずっと固くなっているレイスに、王は声をかける。


「おれ、視えると思います。・・・・・・ぜったい視る!

 タミネアから来た人たちの中で、アメリア様が視えるかもしれないし……

 おれを、外に出してください! お願いします」


(奇跡の力が嘘だったらぜったい許せない! 

 かあさんを、メイを利用して……! みんなを騙してたとしたら、絶対許さない!)


 レイスは強くこころに思った。


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