41 出会い そして……
シェルドンが宿に着いた頃には、すっかりと日が落ちていて、気温がぐっと下がったせいか風も冷たくなってきた。
宿の周りは、着いた頃より人が多くなっている。安宿はすでに満室の看板が出ていて、具合の悪そうな者を担いでいる者、荷車に病人を寝かせて運んでいる者もいる。
(聖女の奇跡の力を頼りにしてきた者たちか……)
その日は、旅の疲れもあってか、シェルドンは軽く食事を済ませるとすぐに床に入った。
ぐっすりと眠ったせいか、翌朝、シェルドンはすっきりと目が覚めた。
馬車を準備して、貴族街にあるバンクス伯爵家へと向かうことにする。伯爵家の伝手を得られれば、王宮に捕らえられているというコラモ・バンクスに面会できるかもしれない、と考えたからだ。
教えられた伯爵家は、固く門が閉じられていて、人がいる気配はまったくなかった。シェルドンはしばらく空き家となっているバンクス家の前に馬車を停めて誰か通る者はいないか待っていたが、周りはお屋敷ばかりで、人の姿もなく尋ねる者もみつけられない。しかたなく、伯爵家を後にした。
コラモ・バンクスに会えないか、ダメ元で王宮へ行ってみることにした。もちろん、願いを叶えるお決まりの金をたっぷりと持って・・・・・・が、まったく効き目はなく、願いは叶えてもらえなかった。
他に思いつく手もなく、もう一度大教会の前まで行くことにした。もしかしたら教会の者が何か伝手を持っているかもしれない――という微かな願いを持って!
教会の前は、昨日とは違った光景を見せていた。国中からやって来たと思われる大勢の人びとが集まっており、どの顔にも笑顔はなく疲れた表情をしている。教会の門は完全に閉められていて、門を守る教会騎士もいない。何人かは、扉を叩いて訴えている。
しばらく馬車の中から教会の様子を見ていたが、まったく扉が開く様子はなく、教会の者が出てくる気配もなかった。
(今日は、ダメか・・・・・・ さて、どうするか・・・・・・)
シェルドンは、夕方には宿に戻ると、王都の噂が集まりそうな酒場を宿の者に教えてもらい、今夜はそこで時間をつぶすことにした。
まだ早い時間だが、客は結構入っている。あちこちのテーブルでは、すでにほろ酔いの者たちが楽し気に酒を飲んだり、話をしている。もっぱら聞こえてくる話は、聖女様の話だ。
3日後には、正式に聖女として教会に認められ、奇跡の力も見せてくれるらしい。
(3日後か・・・・・・)
ひとり、軽く食べながら酒を飲んでいると、「ひとりかい?」と男が声をかけてきた。
ふと顔を上げると、黒髪の若い男がニカっと笑いながら、断りもせずにシェルドンのテーブルに座ると、通りがかった店の者にエールを頼む。
「なんだ? お前は・・・・・・」
シェルドンがいぶかし気に男を見る。男はエールを受け取るとすぐにもう1杯追加して、受け取ったばかりのエールをゴクゴクと飲み干していた。
「こんなところで、ひとりで酒を飲むってぇのは寂しいと思ってよ。付き合ってやるぜ!」
「いらぬ世話だ! ほっといてくれ!」
シェルドンが男を無視するように隣のテーブルに視線を移す。2杯目のエールを受け取ったところで、男が声を落として話しかけてきた。
「あんた…… バンクスの屋敷にいき、王宮でコラモ・バンクスの面会を求めていただろ?
何を探ってるんだ?」
シェルドンはギクリとして、男をまじまじと見た。 「お前は何者だ!?」
「王都で変わった行動をすると目ぇつけられるってことだよ……
俺はジャイロって言うだけどさぁ あんた誰だ?」
「私は・・・・・・ブリドニクからきた・・・・・・」
「あんた、マックス・シェルドンだろ?」
名を言うかどうか、シェルドンが躊躇している間に、ジャイロに名を当てられて驚く。
「なぜ…… 知ってる! お前は……」
「そりゃぁ、そんだけの身なりでブリドニクって言えば、わかるっていうもんさ。
で、シェルドンさん、王都に何しに来た? 聖女様のことか? なんでバンクスなんだ?」
シェルドンは、ジャイロに話していいかどうか迷った。
「ジャイロ、お前は教会の人間か? それとも王国か?」
「俺は神様なんか信じちゃいねぇよ! これで答えになってるかい?
話によっちゃぁ、コラモ・バンクスに会わせてやることはできるぜ」
「・・・・・・わかった。私の部屋で話そう・・・・・・」
シェルドンは覚悟を決めた。
シェルドンはジャイロにすべて話した。
スザンナの子メイは自分の屋敷にいて、教会のメイはにせものであること、にせものとわかって教会が聖女としようとしているのか、ブリドニクにやってきた審問官コラモに確認するため王都にきたこと……
「まさか、審問官様が王国に捕らえられていたとは……知らなかったんだ。
俺は、教会の真意を知りたかっただけだよ……俺自身が、目をつけられてるとは思いもしなかった」
「お前、最高の情報をくれたぜ! まさか、メイがお前んとこにいるとはなぁ……
アルにやられたよ!
よし、コラモに会わせてやる! 任せな。
ただ、今回のニセ聖女のことは、コラモは全く知らないはずだ。捕らえられてから起きたことだからな」
「そうだったのか。……それでも話がしたい。
ところでジャイロ殿はアル殿を知っているのか!?」
「あぁ、ありゃぁおっかねぇ、兄ちゃんだ・・・・・・」
「もうひとつ教えてほしい。レイスが王国に捕らえられていると聞いたが、無事か?」
「あぁ、王宮にいる。絵はまだ描けねぇみたいだけど。
今日も会って話してきたよ。メイに会いたがってたよ。
まぁ、教会にいるのがメイだと思ってるけどな」
「そうか…… 無事ならいい。メイにレイスのことを伝えてやれる。
これを…… メイが俺にくれたんだ。レイスに渡してやってくれ。安心するだろう」
シェルドンはポケットからメイの刺繍したハンカチをジャイロに渡した。
「いや、お前がもらったんだろ? レイスには言っとくよ。
お前、案外いい奴なんだな・・・・・・」
ジャイロはそう言うと、明朝、王宮に自分を訪ねてこいと言って、帰っていった。
俺が・・・・・・いい奴? 初めて言われた言葉だ。
デイビッドを殺して、スザンナに横恋慕して、エリザを利用して・・・・・・
スザンナを苦しめて・・・・・・
メイも利用しようとしている。
この国でのし上がるためにここまで来ただけのことだ。
名声と名誉を求め、街の名士とは言われたが、いい奴と言われたことは一度もない。
人を利用し、出し抜くことしか考えてこなかった俺が、いい奴とは……!
とんだお笑い種だ!!
俺もとうとうツケが回って来たな…… なんだか温かい涙がこぼれた。
次の更新は8月12日(木曜日)になる予定です。




