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2つの世界の物語 ~魔力の化け物と呼ばれた少女の物語~  作者: 星あんず
第3章 とまどいの一歩(後編)
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38 聖女の噂

クローネ王国でのお話になります。

 クローネ王国王宮の中にレイスの部屋兼アトリエが、準備されていた。

 中庭に面した居城の一角のサンルームで、大きな窓から陽の光が降り注ぎ、いつでも自由に中庭に出ることができた。居城やその中庭は、クローネ王家の者以外立ち入ることはできず、例外はジャイロ、ラケム、リーシャ、そして宰相のクリフト、総大将軍ザクテルのみだった。

 レイスはこの部屋を与えられ、キャンバスに向かう毎日を過ごしていた。その割には、絵が描かれている様子はほとんどなかったけれど……



「セフィス教会がどうやら聖女を見つけたらしいぞ」


「メイが? アルさんがセフィス教に向かうって言ってたから……」


 いつものように、ジャイロがふらりとやってきてソファに横になると、真っ白なキャンバスに向かっているレイスに声をかけた。


「それがよう、その聖女は奇跡の力を持っているんだとさ。

 ナーデルの街で見つかったらしいが、歩けない者が歩けるようになったっていう噂だ!

 お前の妹もすごいなぁ」


(メイにそんな力があったのか…… おれよりすごいや!)


 ナーデルはブリドニクの隣りにある割と大きな街だったことを、思い出す。アルさんが一緒だから心配はないと思うけど、メイは大丈夫だろうか? レイスは少し不安になる。


「『怪我を一瞬で治してくれた』と言っていた男がいたらしくて、ナーデルの教会が聞きつけて、メイを見つけられたらしい。聖女を、王都――セフィス教大教会につれて来たらしいぜ。

 3日後に、正式にプーレフェミナの子――セフィス教の聖女としてメイを迎えるらしい。

 そのときに、その奇跡の力を見せてくれるって言うんで、王都中がその噂で持ち切りよぉ!」


「メイ、おれよりすごいや……

 ジャイロ…… メイに会いに行けないかなぁ? 遠くで見るだけでいいんだけど」


「難しいだろうな…… あいつがここからお前が出るのを許さないだろう。

 あれの、マルルカの兄貴もいるんだろ? 心配すんなって!

 俺がみてきてやるよ!

 それより、1枚でも絵を描けって、あいつに言われるぞ」


 ジャイロはキャンバスを前にしても手の動いていないレイスを見ると、むくっと起き上がり、手を振りながら部屋を出て行った。


(そうだよな…… でも、絵を描けって言われても・・・・・・)


 整えられた庭はきれいだと思っても、レイスにはあまり魅力的に見えなかった。

 王家の人たちが住んでいるって言われたけど、王妃様も王子様、お姫様にも会ったことも見たこともなかった、と思う。そのうち、会うことがあるんだろうか? でも、なんてあいさつしたらいいんだろう……?


 レイスはぼんやりと考えていた。


 マルルカは、ラケムさんと一緒にタミネアに行ったけど、大丈夫かな・・・・・・

 心配することはないと思うけど・・・・・・

 ・・・・・・! そうだ! おれの描きたいと思う人がいた!!




*****************************




 ジャイロはレイスの部屋を出ると、そのまま王家の人たちの住まいである居城を後にした。そして国の執政を行う執政殿も抜けて王宮の外へと向かっていた。


 この前の酒場での出来事は、酔っ払いどおしのいざこざ、女をめぐる取り合いとして噂されているくらいだった。……酒の席ではよくある話だ。店主がうまくやってくれたんだろうと思う。

 その後のバンクス伯爵家で起きた出来事については、審問官であるコラモ・バンクスの独断による行為として、教会の関与は一切ないとセフィス教は言ってきた。


「そもそも教会の者は、家名を捨ててセフィス様に仕える身となる。それを破ったコラモ・バンクスは断じて許されぬ。審問官としての職を解き、破門に処した故、王国にその処分をゆだねる。教会騎士はコラモ・バンクスに扇動されただけのこと、身柄をお引渡し願う」……と。


 教会も都合のいいことばかり言う。コラモにある程度の権限を与えていただろうに、失敗と見るなり「とかげのしっぽ切り」だ。


「都合の悪いことは、我関せず、他人のせい! だから、教会は――神は信用ならん!」


 ジャイロは吐き捨てるように独り言を言う。



 王宮を出ると、セフィス教大教会の方向に向かってぶらぶらと歩き始めた。歩くにはかなりの距離はあるが、街の様子を肌で感じるには、歩くのが一番いい。そこに暮らす人たちや出入りする人たちの表情や動き、聞こえてくる会話…… 

 何気ない日常の変化が、王都の、国の変化をいち早く伝えてくる――とジャイロは思う。


 ここ2、3日、王都にくる人が増えている。それも商人などではなく、王国のあちこちからの普通に暮らしている人たちだ。みんな一様に深刻な顔をしている。大教会のそばまでくると、その人たちはもっと増えていた。中には病を患っている人や体が不自由な人たちも多く混じっていて、疲れと切羽詰まった感じがする。


(聖女の奇跡の力にすがろうとして国中からやってきた人たちだろう…… この国には、まだこれほど苦しんでいる人たちがいる――ということか)


 酒場や宿屋が集まっている場所にも足を運んだ。どこの宿屋も満室の表示を出していた。教会前の広場にいた人たちは宿を取れないでいる人たちなのかもしれない。具合の悪い人たちもいるから、何とかしてやりたいとは思うものの、どうしようもできない。


 教会は固く扉を閉ざしたままだ。

 何人かがその扉を叩き必死に訴えているが、扉が開く気配はない。


(聖女の奇跡で、一人でも多く助かる者がいればいいが・・・・・・)

 この光景を見ると、ジャイロですら、聖女の奇跡を信じたい気持ちになった。




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