37 アメリアの瞳 ※
少し残酷な描写が含まれます。苦手な方はご注意ください。
アメリアは頭上で両手を高く上げると、手にしていた短剣を天に向かって掲げた。そして笑みを消すことなく、両手で持った短剣を顔の高さまでゆっくりと下ろしてきた。
「王様、先ずは左眼から・・・・・・」
アメリアは、タミネア王から目を離すことなくじっとみつめたまま、左眼に向けて勢いよく短剣を突き刺すと、そのままくるりと剣先を回した。
左眼から涙が流れるように紅い血が流れたかと思われた瞬間、アメリアの左眼がぽとりと落ちた。
「アメリア! やめろぉーっ!! 誰か! アメリアを止めろぉ!!!」
タミネア王が息をするのも忘れたかのように茫然としたのもつかの間、玉座から立ち上がり、驚きのあまり、王の眼も落ちてしまいそうなくらい目を見開いていた。
アメリアに痛みはまったくなかった。オルトの言ったとおりだ……
ただ、短剣を突き刺す勇気さえあればよかった。
(王様のこの顔が見たかったのよぉ・・・・・・)
王を守っている近衛兵をはじめ、この部屋にいる者は、誰もが体が固まってしまったように、まったく動けずに、声を出すこともできずにいた。
「王様、次は右眼を差し上げますね」
アメリアは苦痛の表情を全く浮かべることなく、残った右眼で最高の微笑みを浮かべた。
(これで、もう見えなくなってしまうのね・・・・・・)
王様のくずれた表情を焼き付けるようにしてじっとみつめたまま、左眼のときと同じように短剣を動かして右眼をえぐった。
右眼がドレスに紅い線を描きながらコロコロと落ちていった。
「アメリアァ―!! お前はなんということをぉーーーっ!!!」
(王様の声だけが聞こえる。もうその表情を見ることは叶わない……)
「王様、私には2つしか差し上げるものがございませんから、3つめとして私のいのちもお受け取りください」
眼球のないアメリアは、短剣を一段高く掲げると、そのまままっすぐと自分の胸に突き刺した。
「さようなら…… 王様……」
アメリアは倒れながら、最期の別れの言葉を告げた。
金糸で刺繍されたバラを浮かび上がらせながら、真っ白なケープは紅い血で染まっていく。
真っ白なバラの花がちりばめられるようにドレスに浮かび上がっていった。
「アメリア…… お前は、この場を、いや、タミネアを穢したのか」
タミネア王は体中の力が抜け落ちたように玉座に落ちるように座り込み、茫然とアメリアの亡き骸を見ていた。
そのとき・・・・・・
アメリアの胸を突き刺していた短剣が宙に浮き、一瞬光を発したかと思った瞬間、その形を変え、透かし模様のきれいな小さな銀の小箱の形に変わった。その中にアメリアの2つの眼球が吸い込まれるように入ると、それは紫水晶の大きな結晶へと形を変えていった。
突然のできごとに誰も言葉を発することができない。
「王様、こちらをお受け取りください」
それまで一言も発していなかったオルトが初めて口を開いた。
透かし模様のある小さな銀のケースには、紫水晶が2つ…… キラキラと輝いている。それを両手でそっと持ち上げたオルトは、王様の前まで進み、静かに献上する。
「なんという・・・・・・」
王は言葉も出ない。
「アメリア様からの贈り物でございます。
この結晶には神の力が宿っております。 この力を授かる資格のある者が力を欲すれば、神の力をお与えくださるでしょう。ただし、その資格がない者が欲すれば、その者の光を永久に奪うことでしょう」
「その資格とは……なんなのだ?」
「神の力に選ばれた者――としか……
お試しになるのは自由ですので、試してみたい方はどなたでも試されたらよいだけのことでは?」
「なるほど……
しかし、授かる者がなければ、タミネアから巫女の力はなくなってしまったということではないか」
「方法はございます。
視界を使われる者の片眼をこの箱に捧げたらいいのです。さすれば、神の力がなくとも、この箱を視る者は、その者の視界を得ることができる――つまり、遠見が誰でもできるということです。
セフィス様――神からのギフトです。
ただし、視界を使われる者と視界を視た者のいのちは、遠見を使えば使うだけどんどんと削られていきます。くれぐれもご注意を・・・・・・
それでは、私はアメリア様の亡き骸を丁重に葬って差し上げたいので、お暇をいただきます」
オルトを止める者は誰もいない。というより、オルトがタミネア王に背を向けた瞬間に、この王宮にいる者の記憶からオルトの存在は消えてしまっていた。
オルトはアメリアの亡き骸をそっと抱き上げると、ゆっくりと階段を下りていった。
下の扉の前までくると、オルトはポツリとつぶやいた。
「神からのギフトが、タミネアの至宝となるか、呪いの遺物となるか、楽しみでございます。
・・・・・・
よし! これで、セフィスの子孫の言い伝えは完成っと!!
セフィスの子孫が里を出たから、世界の安寧は壊れた! ってね!」
そこにはいたずら好きのオルトが、ひとり満足そうな笑みを浮かべていた。
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タミネア王は、しばらく銀の小箱を眺めていた。
手に取る銀色の小箱の中の2つの紫水晶は、光を当ててもいないのにキラキラと輝いていた。透かし模様をとおして見るとなおも美しい。
(これがセフィス様―神の御業なのか!)
「王様、こちらのお部屋をきれいにいたします故、奥へとお戻りいただけますか?」
近衛兵のひとりが玉座でひとり考え込むタミネア王に声をかけた。王は、ふと我に返る。
「地下牢にいる罪人で、『アメリアの瞳』の真偽を確認し、その結果を報告しろ。神の力を授かった者は国が重用してやると言えば、試す者も出てくるだろう。
いなければ、遠見を使う者を作り、クローネに送れ!」
王はそう言うと、「アメリアの瞳」を近衛兵に渡した。
近衛兵は恐る恐る受け取ると、王に一礼して、「御前を失礼いたします」と言い、階段を下りていった。
それからというもの、タミネア王国で罪人として捕まる者は、そのほとんどが失明する者ばかりになった。それが最初に執行される罰のように・・・・・・。
また、タミネア王国から他国へ送り出される使者の中には、必ず隻眼の者が加わるようになった。
次からは、クローネ王国に話をもどします。




