35 アメリアの願い
「オルトーッ!!
私は、里にいたときと何も変わらない…… 里を出たけど、また違うところに結局閉じ込められている!
もう一人は嫌なのよぉー!!! 外に出たかっただけなのに――姉さんの子どもに会いたいだけなのに……」
「アメリア様…… あなた様はこうして里を出て、たくさんの方に囲まれていらっしゃるではありませんか。そして、王様もスザンナ様のお子を迎えてくださるとおっしゃっているのでしょう?
何がご不満ですか?」
オルトは不思議そうな顔をして私を見ている。
「私の思っていたことと違う!」
そう! 私はねえさんの子ども、レイスとメイと一緒に、ねえさんのように家族として笑って暮らしたい。たったそれだけの願いなのに……
王様は、私たちをセフィス様の子孫として、王宮に閉じ込めようとしている。そこに私たちの自由がないのは、私もやっとわかった。ましてや、メイを側妃にだなんて…… まだメイは子どもだろうに、自分の意思も持てぬままここに連れてこられるのはかわいそう……
王様は私の願いを叶えてくださると信じていたのに!
私は思いの丈を全部吐き出すのを、オルトは黙って聞いてくれた。
それから、しばらくしてオルトはフッと息をつくと、気づかないくらい微かに笑みをこぼした。
「アメリア様、あなたがお望みのものはここにはございませんよ。あなたの願いから一番遠いところにいらしたようですね」
「えっ? どういうこと? だって私には神の力があるのよ? その力を存分に生かしてくれるところは、ここタミネアの王宮以外ないと思うのだけど……
大神殿かと思ったら、さほど重要な力だと思われなかったみたいだし……」
オルトの言っていることがわからない。
「タミネア王は、『神の力』を重用したのです。アメリア様個人を――ではございません。あなたに神の力がなければ、セフィス様の血筋でなければ、王様が謁見するはずもありませんよ。あなたのレイス殿とメイ殿に会いたいという願いと、国の思惑が一致しただけのこと。
あなた個人の自由など、国が叶える筋もございません。
あなたのドレスや宝石、そしてこの王宮の居室……これらは、国があなたに提供したもの。ならば、あなたは、それに見合ったものをお返しする義務がございます。
ですから、私もアメリア様のお力のお手伝いをして差し上げているというもの……
ご理解いただけますか? 」
私は、どん底に突き落とされたような気分になった。この世で私だけが持っている唯一の力――神の力があれば、みんなが喜んでくれて、私の願いはなんでも叶うと思っていたのに……
オルトの言葉に涙も出ない。
「『神の力』がある限り、あなたはタミネア王宮から出ることは叶うわけがない。もっとも、メイ殿に神の力があれば、アメリア様――あなたは用済みとして、あなたの願い通り王宮を出され自由になることもできましょう。でも、それは王がお決めになること……あなたにそれを選ぶ権利はございません」
私が浅はかだった……
大神殿の神官様は、私の神の力を特別に必要としていなかった。
神の力を軽くあしらわれたみたいで、ちょっと不愉快になったけれど、特別扱いされなかったから、私は神殿に留まるのも出るのも自由だったし、出るのを引き留められもしなかった。
あの方は、行く当てのない私に、ただ、居場所を提供してくれようとしただけだったように思う。
ここ王宮では、神の力、セフィス様の血筋だから……私を特別なものとして受け入れてくれた。
だから、私の自由がなくなったんだ!
神の力を国の力、王の力とするため…… 特別だと思われれば思われるほど、私に自由はなくなる。
私、ぜんぜんわかってなかった。
もう遅い・・・・・・私は本当に何も知らなかった。ぜんぜん考えてなかった。
よく考えれば、レイスもメイも私を家族として受け入れる保証なんてなかったのに。ぜんぶ独りよがり……
私ひとりで勝手に夢をみて――
自分のことが、自分の周りが何も見えてなかった・・・・・・
遠くでさえ視ることができる――神の力 遠見を持っているのに……
なんだかおかしくて笑ってしまいそう・・・・・・
体中の力が全部抜けてしまって、立っていることすらできずに、そのまましゃがみ込んでしまった。
「アメリア様、あなたの望むものは、一番の願いはなんですか?」
オルトは、私に静かに問いかけた。
私の望むもの――私は家族が欲しい!
神の力を持つセフィスの巫女ではなくて、アメリアとしての家族が欲しい!
王宮には人はいっぱいいるけど、こころが満たされた感じがしない。
みんな丁重に接してくれるけど、どこかよそよそしくて、一緒に大笑いしたり泣いたりなんかしてくれない。
ねえさんの世界が視えなくなってから、ずっと私はひとりぼっち……
里を出たけれど、ぜんぜん満たされた感じがしない。
一番幸せだったとき――とうさんがいて、かあさんがいた。そしてねえさん……。ねえさんの子どもレイスとメイの成長を視ているのがとってもうれしかった。
この王宮でねえさんの子どもと暮らす? それって幸せ?
「オルト…… 私、ねえさんの子ども――レイスとメイに一目でいいから会いたい。
できることなら、会って思いっきり抱きしめたいの!
ここじゃない、どこかで…… それが私の一番の願い。
私がいることを、レイスとメイに知ってもらいたいの! 私があの2人を小さいときから知っているように……
それが叶えられたら、後はなぁんにもいらない・・・・・・
今の私には、神の力遠見があってもちっとも幸せじゃない。
遠見で視るだけでは、誰も私の存在に気づいでくれないのよ!!
私の声や思いがちっとも伝えられない……」
オルトは私の願いを聞くと、近くにあったテーブルのランプの灯りひとつをフッと消すと、もう一度私に問いかけた。
「アメリア様、あなたの願いが叶う方法はありますよ。聞きたいですか?」
テラス窓からそそぐ月の青い光に浮かび上がったオルトの冷たい笑顔は、なぜか私のこころを芯から凍らせた。




