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2つの世界の物語 ~魔力の化け物と呼ばれた少女の物語~  作者: 星あんず
第3章 とまどいの一歩(後編)
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33 王の命《めい》

「お前の兄ちゃんの飯かぁー 悪くねえな!」

「オルトさんの作るごはんは本当に絶品です!」


 ジャイロとレイスの頭の中は、オルト兄ぃの作るごはんしか頭にないようだ。

 ジャイロはあれほど怒っていたのを忘れたのか?


「ゥオホン! 今起きた出来事は、他言無用! いいな?

 さっそくだが、リーシャ。おぬしには、とらえているバンクス伯爵兄弟の尋問を任せる。

 教会と教会派貴族の全貌をつかめ。宰相クリフトとうまく連携しろ」


「了解。もう私に言うことがなければ、さっそく取り掛かりたいんだけど?」


 リーシャが今にも席を立ち去りたい様子だ。王は大きくうなずくのを見たリーシャは、王が言葉を発するより前に、立ち上がり部屋を出て行った。



「ジャイロは王都の様子を…… 昨日の騒ぎの後、王都に変わりはないか見てくるのだ。特に教会や王国に対する評判に耳を傾けてくれ。こちらがセフィス教に起こす行動とそのタイミングを見極めるのにかかっているからな――重要だぞ!

 総大将軍ザクテルと協力して市井の情報を集めろ。

 アル殿が教会に向かうという言葉を信じれば、メイも教会側にいる可能性が高いであろう。アル殿が安全を約束してくれたのだ。メイの捜索は打ちきりだ。

 いいな……レイス。

 少しの辛抱だ。必ず妹と会わせると約束する」


「りょーかい!」

「わかりました。王様!」


 ジャイロは王の命を受けた割には緊張感はなく、レイスは、自分を納得させるように大きくうなずいた。

 


「そして、ラケム、おぬしには極秘でタミネアにもう一度行き、セフィス真教大神官にお会いしてきてほしい。マルルカ殿を連れていけ。これは賭けだ。

 もし、神の名の下、我らに正義があるというのならば……良い方向に動くだろう。

 今はそれしかわからぬ」


「承りました。マルルカ殿の安全に最善を尽くし、必ずやお会いしていただけるよう尽力いたします」


「私は大丈夫です! 兄様の加護があるから……傷つけられることはないと思いますから。それから、私はただのマルルカと・・・・・・」


「確かに、そうだった……。傷つけようとする者が傷を負う。

 私がマルルカに守られる立場か・・・・・・レディに守られるのも悪くない」


 私の言葉にラケムさんは酒場での出来事を思い出したかのように、フフっと笑った。



「王様! おれは・・・・・・おれは何をしたらいいですか? マルルカと一緒に行ってもいいですか?」


 まだ役割をもらえていないレイスは、王様に懇願するようにして言った。


「レイス…… おぬしは絵描きなのであろう? ならば、絵を描け!

 悪いが、今は城から出してやることはできぬのだよ。王宮全部とはいかないが、この城の中は自由に動いて構わない。

 もし、タミネアのアメリア様の痕跡のある者、あるいは怪しそうにみえる者がいたら知らせてほしい。

 我のそばにいろ。

 そして、好きなだけ絵を描け!! 道具は手配してやる」


「……わかりました。マルルカ……気を付けて! それからごめん」


 レイスは少しがっかりしたように肩を落とすと、私に頭をぺこりと下げた。


「レイス……もう、いいよ。私こそごめんね。ちゃんとレイスに言わなかった。

 ・・・・・・私、レイスの絵、好きだよ! あのブリドニクの西の森の絵、とっても生き生きしてた。だから、また大好きな絵を描けるようにがんばって!」


「そうだね。おれ、また絵が描けるようにがんばるよ!」


 私の言葉にレイスはちょっとはにかむように笑った。

 レイスのことを変に意識してて、ドキドキしたりハラハラしたり、怒ったりしてたのに、今は自然にレイスと向き合えている。レイスもたぶんそう…… 

 隠しごとがなくなってきたから……かもしれない。


 そして、ここにいる人たちも!

 とっても偉い人たちかもしれないけど、それよりも私を受け入れてくれた人たちだって、心から思えた。

 ここにいる人たちを、私は守る! そう決めた!




**********************



 クローネ王宮外れに、人目を避けるようにして無骨で堅牢なつくりの建物があった。貴族や王族で、王国に害成す者、反旗を翻す者を収容する場所である。


 リーシャはあれから部屋を出ると、まっすぐにこの場所を目指した。バンクス伯爵兄弟を尋問するために……



 コツコツコツ・・・・・・

 建物の地下牢への階段を降りる。一段降りるごとに、空気が淀み、湿った空気が足元からまとわりつき、からめら取られていく。この場所に入った者を離さないという意思を持っているような感覚に陥る。

 現クローネ王の御代になってからは一度も使用されなかった場所――果たして、幾人がここに収容されることになるのか……リーシャの頭をよぎる。


 リーシャはひとつの地下牢の前に立った。


「カバロ・バンクスだな?」


「おぉ、リーシャ殿! 貴殿は私を誤解しておりますぞ。

 私は常に、クローネ王国に忠誠を誓っております。

 先日の出来事は、愚弟の依頼を断れず、仕出かしてしまったこと!!


 私は、いったん弟の依頼を受けたと見せかけて、すぐさま、城へレイス様をお連れするつもりだったのです。まさか、弟があそこまでやるつもりだったとは、思いもしませんでした。

 知っていたのなら、弟の願いなど聞きいれておりませんでした。

 私の身内への甘さ故、招いたこと・・・・・・

 王様ならわかっていただけるはず! 王様におとりなし願います」


 カバロ・バンクスは延々と無実をリーシャに訴えた。この男は、尋問の専門家に任せるほうが先だろう――と思う。ほとんどこの男の話は聞いていなかった。時間の無駄だと思う。

 適当なところで切り上げて、もうひとりの男が収容されている牢へと向かう。




「コラモ・バンクス……だな?」


「あぁ……

 私は2度も御使い様を目にしたのだよ。2度ともセフィス様に対立する立場として……

 この意味することをお前はわかるか?……セフィス様は教会をお見捨てになったということだよ!


 今になってみれば、散々、私はセフィス様を利用したのだからねぇ……お怒りになったんだろう。

 審問官の私が信じていたもの――セフィス教の地位と名誉、高みに上ることこそがセフィス様に近づくこと、一番愛される者になれると信じていたよ。


 神のいない教会は、何を祭ってたんだろうねぇ・・・・・・

 2度も御使い様にお会いした……いや、罰を受けたのは私くらいだろう。ここまで拒絶されたら、子どもでもわかるさ…… 神に一番愛されていなかったと」

 

 それっきり、コラモは口を閉ざし、暗い地下牢の中で頭を抱えたまま身動きひとつしなかった。


 この男は時間をかければ面白いことを話すのだろう。


 それにしても、マルルカの姿を目にした時には、私でも確かに驚いた。あれは、女神だと言われたら信じてしまいそうな容姿だ。…… 

 自分の恰好を見てみる……白の木綿のかぶるだけのシャツにひざ下までのドレススカート。それに防寒用のケープをかぶっているだけ。着飾る時間がもったいないと思っている。……見た目も大事ということか……


 リーシャの思考は、一瞬ずれた。




次は、アメリアのお話に移ります。

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