7 ブリドニクにて(3)
季節が春から夏になる頃には、頭がザラザラしてきてた。
髪の毛が生え始めてきたんだ!
同じように、体中にぶつぶつあったあばたもすっかり消えて、真っ白なすべすべの皮膚になっていた。
(あたし きれいになってる!!)
そう思ったら、なんだか、胸がギューッて締め付けられた。それと同時に、鼻の付け根のところもギューって痛くなって、涙が出てきた。
またあたし歪んじゃったのかな・・・・・・?
どこか体がおかしくなったのかもしれない。
「アルさん、なんか胸が苦しいの! 締め付けられる感じがする。 またどこか歪んじゃった? 」
アルさんに心配で聞いたら、
「それは、『うれしい』っていう気持ちだよ。涙が出るくらいうれしかったんだね」
そう言って、アルさんはザラザラした頭をなでてくれた。
「ほんとだ。 しっかりした髪の毛が生えてきてる。
マルルカ、がんばったからだよ!」
そしたら、また涙が出て止まらなくって、声をあげて初めて泣いた。
心が締め付けられて苦しくって、アルさんにギューって抱きついてまた泣いた。
アルさんは、頭をポンポンしてくれて、やさしく抱きしめてくれた。
胸の奥からあったかいものが広がってきて気持ちがすごく落ち着いてくる。
アルさんの腕の中でしばらく泣いたら、気持ちがすっきりとした。
そしたら、急に自分のしたことが恥ずかしくなって、慌てて離れる。
恥ずかしくて、しばらくアルさんの顔を見ることができなかった。
それからのあたしの成長は、ものすごく早かった。
魔力開放と魔力循環は、ずっと意識してやってたせいか、あっという間に髪の毛も肩に届くくらいまで伸びて、背丈も少しずつ伸びてきてる。
家の中にあるものが、少し小さく感じられてきたから、あたしが大きくなってるのがわかる。
なんだか気持ちがぴょんぴょん跳ねるように、見るもの触れるものすべてが、あたしに喜びやうれしさをくれる。
おっぱいも・・・・・・ちょっとふくらんできた。
ハリーが大きいおっぱいが好きって言ってたのを思い出して、なんか恥ずかしくなった。
ここに来てからは、よく笑うようになったと思う。
一緒にご飯をつくったり、掃除や片づけをしたり、庭の手入れをしたり……
きっと誰もがやっているような何でもないことを、あたしは何にもしてきたことがなかった。
アルさんに教えてもらって、ちょっとずつできることが増えてくる。
一緒にやっているととっても楽しい。
アルさんとあたしは、いつも夕ご飯を食べるとポロ茶を飲む。
この時間は、アルさんは、薬草のこともそうだけど、おとぎ話やいろんな昔のお話を教えてくれた。それは、あたしにとって、すごく新鮮で、とってもおもしろかった。知らないことを知るのはとっても楽しい。アルさんは、本当に何でも知っている。
メザク様に魔法を教えてもらったときは、つらかっただけで全然楽しくなかったのに・・・・・・
そして、「女の子は自分のことを不細工とか言っちゃいけないよ」って アルさんがいつも言う。
伸びてきた髪の毛をとかしていると、少しは女の子なんだって、自分でも思えるような気がした。
髪の毛をとかすなんて、生まれて初めてだ!
あたし、どんな顔をしてるんだろう? 水がめを覗き込んで、自分の顔を見ようとしたけど、よくわからなかった。 普通の顔っていうのはわかる。
水色のエプロンドレス 少しは似合うようにきっとなってるよね?
魔法のことは、魔力の開放と循環だけしか教えてもらってない。それに、ここにきて魔法を全く使っていないことに気が付いた。
っていうか、アルさんが魔法を使ってるのも見たことがない。
火種はずっと絶やさないように大切にしているし、水だって、毎日、井戸から汲んでくる。薬草畑のも魔法を使って、ポポポン!!なんてしてない。水を毎朝あげて、雑草を抜いて丁寧にお世話をしている。
「アルさん、アルさんは魔法を使わないの? 魔道具もないけど面倒じゃないの?
あたしちゃんと小さな火とか出せるよ? お水も作れる。一応賢者って言われてたし・・・・・・
でも、ごはんもお茶も時間をかけて作るからなのか、とても大事なものを分けてもらってる気がする。
お風呂も沸かすのは大変だけど、入るときすごくうれしいの。お湯のあったかさが体に染みてくる感じ」
そう言ったら、「いいことに気が付いたね。それは感謝の気持ちだよ」って、アルさんが教えてくれた。
「僕たち命のある者は、他の命を糧にしてるんだよ。だから命を捧げてくれたモノに感謝するんだ。どんな命でも決して粗末にしちゃダメだよ。これはとても大事なことだから忘れちゃいけないよ」
アルさんは、ニッコリと笑ってそう言った。
あたしは、命をいただいていることに感謝する気持ちを教えてもらった。
アルさんに教えてもらって、初めてパンを焼いたのだけど、火が強くて焦げた匂いの硬いパンになっちゃった。それでもアルさんは、笑いながら「初めてにしては上出来だ!」って言ってくれて、焦げたパンを2人で食べた。
あたしはここの暮らしが大好きになっていた。
夜になっても少し蒸し暑いと思える夏の日、いつものようにポロ茶を飲んでいた。
「色なしか・・・・・・おもしろい」
アルさんは、目を細めてあたしをじっと見た。
「色なし?」
「あぁ、君の今の姿を見せてあげよう」
いつものアルさんとなんか違う気がする。
「そろそろ次の段階に入る準備ができたんだ。
びっくりするかもしれないけど、僕を信じてね。マルルカ」
アルさんは指をパチンって鳴らした。
その瞬間、あたしは、記憶にある最後に訪れた部屋にいた。
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