31 マルルカの告白
【リムーブ】
アメリアの刻印がラケムの額に視えた。
視えるものなら取り去ることができる!
「おまえ……マルルカか?
・・・・・・これは――全部お前がしたことが?」
ジャイロの問いに、コクンと頷いた。
「殺してはいない――みんな気を失っているだけ・・・・・・」
そう答えると、みんなの見慣れた茶色のマルルカに戻った。
「ジャイロ、話は後だ! 私は城に報告に行く。
この者たちを捕らえるほうが先だ!」
ラケムは、今、目の前で起きたことが信じられず戸惑ったものの、すぐにこの現状を見ると冷静に判断していった。
ラケムが馬を探しに行こうとしたとき、……外が騒がしい。
「ラケム様―! ジャイロ様―」
伯爵家の外門から名前を呼ぶ声が聞こえた。
そこには王国の騎士、一団隊がすでに詰めかけているのが見えた。
「おぉー、お二人ともご無事でー!!
まぶしい光が上がったので・・・・・・よかった! 本当によかった!!
後は我々騎士団がいたしますので、まずは城に戻りください!」
「なぜ? こんなに早く…… なぜここがわかった?」
「王様がバンクス伯爵家に直行せよとご命じになられました」
「あいつが?」
「王様が??」
ジャイロは、――ラケムも、これ以上考える力は残っていなかった。
生きている! 一時は自分の死が見えた二人には、確かに休息が必要だった。
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「二人とも、そしてマルルカ――本当によく生きていてくれた……」
昨日呼ばれた部屋には、王様の他、ジャイロ、ラケム、リーシャ、レイス、そしてマルルカの6人がいた。
クローネ王は感極まったように、ラケムとジャイロの姿を認めるや否やそばに行き強く抱きしめた。
「おっさんに抱きつかれてもなぁ……」
「ジャイロ、お前のへらず口を聞けるのがこんなにうれしいとは、思いもせんかった。
まずは、よくぞバンクス伯爵を捕らえた! これでもう奴は言い逃れできぬ。
さっそくだが、昨夜のことを聞かせてもらえるかな?」
ラケムは昨夜の出来事を報告した――最後に起きたことは除いて……
ラケム自身、何が起きたのか正確に理解できていなかったのもあるが。
「それだけの数を相手に、よく生きていたものだ……
お前たちの腕を、我が過小評価していた……ということか……」
「それについては、後ほど改めて報告させていただきます。
王様、先にお尋ねすることをお許しいただけるのであれば――
なぜ、報告が届かないうちにバンクス家に騎士団を送っていただけたのでしょうか?」
「リーシャじゃよ。あの冷静なリーシャがな――慌てたようにすっ飛んできて、お前らが危ない! と喚いたのだよ。
8割がた、バンクスの屋敷にいると……
その前に、教会騎士に動きありの第1報が届いていてな。
リーシャの見立てにかけてバンクスに一団隊を送ったのだ。
あれほど血相を変えたリーシャを見るとは思わなかったよ」
ラケムの問いかけに、王はからかうような眼差しでリーシャを見るが、彼女はそれに反応することなく淡々と話した。
「教会派の中でバンクス伯爵が、今回の件で一番動いていたからね。城の門兵に一人、バンクスの手の者がいたのよ。レイスが城に入った今日、この早さのタイミングで事を起こしたから、教会上層部までは報告を上げていないって思ったわ。
だから、教会騎士がいたと聞いた時はちょっと想定外で驚いたけどね……
それよりも、ラケム…… 目を瞑るか、壁を見てろって、私言ったよね?」
「リーシャさん、ラケムさんからはアメリア様の姿が視えなくなっています」
レイスの発言に、リーシャもクローネ王も驚く。
「マルルカが……痕跡を消してくれたのでしょう。
そして、これからお話させていただくことが一番重要なことかと……私たちが、あの場面で死なずに済んだ――大ぜいの者が生きている理由です」
ラケムがマルルカのほうに顔を向けると、それに応えるかのようにマルルカはラケムを見て頷き、それから集まっている全員の顔を一つひとつ確認するようにして見ると、静かに話し出した。
ブリドニクであったできごと――二人の兄のことや別の世界のことを除いて、話せることは話した。
「今回起きたことのすべての責任は私にあると思います。レイスやメイちゃんがこんな状況になってしまったのも、ジャイロさんやラケムさんが命を落としそうになったのも……全部、私のせい!!
私を守る必要なんかなかったのに…… 誰も私を傷つけることができない――加護があるから……
それをちゃんと伝えてたら、2人ともあんなことしなかったと思う。
レイスだって、追われることなかったのに…… きっとメイちゃんと2人で静かに暮らせてたはず……
みんな、ごめんなさい。本当にごめんなさい。
ずっとだましていたつもりはなかったんですけど……」
そう言うと、銀糸のようなサラサラとした長い髪と銀色の瞳をもつマルルカの姿になってみせた。
「「「「・・・・・・」」」」
「・・・・・・御使い様でいらっしゃいますか?」
クローネ王が恐る恐る、声を発した。
「これが私――マルルカです。御使い様じゃありません。嘘をつきました。ごめんなさい。
使っちゃいけないって言われた力を使ってしまいました。
自分でやってしまったことは、ちゃんと責任を持ちますから……
謝って済むことじゃありませんけど、混乱させてしまってごめんなさい。
もうここには、みんなと一緒にいることはできませんから、ここでお別れします。
最後に、どうかお願いです。この話は決して誰にも言わないでください」
みんなに深く一礼して、そのまま部屋を出て行こうとするマルルカの腕を、ジャイロは掴んだ。
「おい、待てよ!
お前、その力を使って、使っちゃならない力を使ってまで俺たちを守ってくれたんだろ?
助けてくれたんだろ?
俺たちの礼の一つも受け取らねぇで、どっかにいくつもりか?」




