30 騙しあい
「到着いたしました、リーシャ様
ただ、何分にお迎えする準備が間に合わなかったとのことで、しばらく馬車の中でお待ちくださいとのことです」
外から御者が声をかけてきた。
(ちゃんと迎える準備をしなくっちゃならないのか…… 初めてお城に来たときは歩きだったから知らなかった。確かに、帰って来る時間なんかわからないものね)
外の様子を見てみたけれど、昼と夜のせいか、なんだかお城の正面の印象が違う気もする。
少しして馬車の扉が開かれた。
「レイス様、お疲れでございましょう。
今日は、御身の安全のためこちらでご滞在されるようにと、王様の仰せがございました」
「レイス様、当家の主、カバロ・バンクスでございます。
我がバンクス家にレイス様をお迎えできましたこと、身に余る光栄に存じます」
御者の言葉の後に、太り気味の乏しい髪の毛とは反対に、ごてごてと着飾ったカバロ・バンクスが恭しく馬車の中に向かって深く頭を下げた。
(えっ? お城に着いたんじゃなかったの? バンクス家?)
「バンクス伯爵のお宅で過ごすとは聞いていませんでしたね」
「リーシャ殿、レイス様を当家にご案内していただき感謝いたしますぞ。
貴殿が当家でお静かにご滞在いただければ、御身も安全というもの」
「騒げば……?」
「これは、これは……愚かなことをお聞きになる。
私どもは、リーシャ殿とそのお友だちも歓待させていただくつもりでしたからな。
貴殿おひとりでは、いささか分が悪いのでは……?」
「はーん、なるほどねぇ……
だがよ、残念ながら、ここにはレイス様はいないのさ!
今頃お城でおねんねしてるぜ」
(マルルカ、俺がいいっていうまで馬車から出るなよ!)」
馬車の中から下りてきたのは、ジャイロとラケムの2人だった。
「!! ちくしょー おまえら、謀ったな!」
「伯爵様も、言葉が悪い。ジャイロほどではないが・・・・・・
先に仕掛けたのは貴殿では?
私たちはそれに乗らせてもらっただけですよ。王国の埃を落とすのにちょうどいい」
「あの騒ぎを起こし、その後、手際いいほどに馬車が店のまん前で待っていたらおかしいだろう? 王族でもあるまいし…… 御者もしゃべりすぎる」
ラケムとジャイロは馬車の入り口を守るようにして、剣を抜き構える。
「いやぁ、さすがに王の犬どもだ。鼻が利く。
だが、こちらは最初から3人を相手にしても過剰な人数を教会から回していたのでね。
あなたがたが死ぬまで、十分におもてなしできると思いますよ。
コラモ出てこい!!」
バンクス伯爵に呼ばれて出てきたのは、弟のコラモ・バンクス――ブリドニクにいたあの審問官だった。
「兄上、もう私の出番ですか?
仕方がないですね
レイス様がいないこの場では、あなたがたに、セフィス様から最高のプレゼント――死を遠慮なく差し上げることができるというものです。
3人とも殺して構わん!! 王の犬どもを殺れぇ!!!!」
コラモ・バンクスの号令と共に、20人あまりの精鋭の教会騎士が屋敷から飛び出してきた。
「おい、ラケム、俺は、お前に背中を預けられるか?」
「まぁ、そこそこは・・・・・・ あまり期待されても困りますけどね!」
「出てきた奴らだけじゃねぇよ――50人はくだらねぇな・・・・・・
確かに2人に過剰なおもてなしだよ」
2人は互いに背中を合わせるように、かかってくる教会騎士と剣を交えていく。
小手調べと1人、2人と剣を合わせてくるが、相当の手練れを揃えたようだ。
ジャイロは剣を持ち構えると、切りかかって来た1人の刃を上にいなしそのまま剣を振り下ろす。倒れそうになる奴を、後ろからくる奴に向かって、そのまま思いっきり足で蹴飛ばしていく。
一方ラケムは、振り下ろされる剣を寸でかわし、向かってくる相手の喉を一突きすると、そのまま返す刀で横から切りかかってくる男の頸動脈を見事に切り付けていく。すべて一太刀で、無駄のない流れる水のような動きで教会騎士を倒していった。
「ラケム、お前もなかなかやるじゃねぇかぁ!」
「・・・・・・僕は体力がないのでね。 さすがにこれは・・・・・・」
馬車の入り口を守りながらの、たった2人での守りの戦いはさすがにきつい。
教会騎士たちを切り付けるほどに、その刀は血で濡れ、返り血を浴び続ける2人の周囲には生臭い匂いでむせ返る程だった。
足元はすでに血で染められ、足元を取られかねない。切り倒した敵のからだが足元にいくつも転がっている。相手の教会騎士からしても一斉には攻めにくい状況にはなっている。しかし敵の数は減ったようにはまったく見えず、かえって増えているような気配すらある。
「きりがねぇ・・・・・・このままじゃ、詰むな・・・・・・」
ジャイロがボソッと言葉を放った時・・・・・・
「弓を出せぇー!! みんな撃ち殺してしまえぇぇええー!!」
焦ったようなコラモの大声で、20人あまり弓を持った兵が馬車をとり囲むようにして現れた。
「戦争だな、こりゃ――味方もろとも・・・・とはな・・・・・・」
ジャイロとラケムは、何かに吹っ切れたような―笑みを浮かべていた。
自分の死を覚悟した笑みだった。
私は、馬車の外で、ジャイロとラケムが激しく剣を振るう音を聞いていた。
ジャイロさんもラケムさんも強い――でも、たった2人で50人、100人と、延々と倒し続けられるはずがない。これじゃぁジリ貧だ!
どうする? 手を出していいの?――魔法を使ってもいいのか……
約束を破ったら、私はアル兄様に殺されるって言われた。
でも……このまんまだったら、2人とも殺されてしまう!
守り石に守られている私を守る必要なんかないのに……
それを伝えていたら、2人とも少しは戦いやすかったんだろうか?
私って、いのちをかけて戦っている2人に守られるほどの価値ってある?
私が、あの時、ブリドニクで勝手に動いたせいだ……
そうじゃなきゃ、レイスだってこんなことにならなかった。
そして、ジャイロさんだってラケムさんだって――ここで、戦う必要もなかった!!
今起きていることは・・・・・・一切起こらなかったこと。
だったら私が2人を守る! 守らなくっちゃならない!
馬車の中で小さくうずくまっていると、なんだか、バカげたお芝居を一人でずっとしているような気分になった。
こころの奥で何かがふっきれたように、覆っていた靄が晴れていくような感覚だった。
体中の感覚が研ぎ澄まされ、今、馬車の外で繰り広げられているすべてのことが手に取るようにわかる。
迷うことなくすっと立ち上がり、馬車から出ると同時に片手を天にかかげて叫んだ。
【ウインド・ガード】
ジャイロとラケムが死を意識した瞬間……
飛んできた弓矢はすべて吹き飛ばされた。
そのまま2人の前に立ち、言葉を放つ。
【フラッシュ・ディスチャージ】
あたり一帯に閃光が走り、弓部隊も含め、その場にいたすべての者が倒れ意識を無くした。
「おまえ・・・・・・マルルカ・・・・・・??」
ジャイロさんとラケムさんが、銀色に輝く姿にもどった私を茫然と見ていた。
バンクス伯爵家次男でセフィス教審問官、コラモ・バンクスは、全身がけいれんして意識が途切れる一瞬、まぶしい光の中に見た。
「み・つ・か・い・さ・まぁ……」
木曜日に更新する予定でしたが、今日更新させていただきます。次は土曜日の更新予定になると思います。




