27 巫女の神の力
レイスさんがセフィス様――神様の子孫?
私は、ラケムさんの報告が途中から耳に入っていなかった。
たぶんレイスさんも――そうだと思う。
レイスさんは途中からずっと下を向いたままで、今もまだ、手がブルブルと震えているのがわかる。
「おれが……セフィス様の子孫だって??」
私も何か言いたかったけど、何を誰にどういったらいいのか、何を聞いたら誰が教えてくれるのか、ぜんぜんわからない。頭がついていけてない。
「セフィスの巫女アメリア様が、君と同じ色のこげ茶色の髪と紫水晶のような瞳をしていたんだよ。 そして、君は僕がそう見えたんだよね?」
ラケムさんの問いかけに、レイスさんは現実に引き戻されたような顔をして、円卓を囲む人たちをぐるっと見渡すように視線を向けると、また下を向いてしまった。
それから少しして、何かを決心したかのように、ラケムさんを見ると大きくうなずいた。
「おれ……視えるんです。魔力っていうか……その神の力が・・・・・・
その人の本当の姿っていうか、嘘かどうかがわかるっていうか・・・・・・
ラケムさんからは神の力が視えませんでした。でも、その、かあさんとよく似たアメリア様っていう人の姿は視えたんです。
でも、これはぜったい誰にも知られちゃダメなことなんです!
お願いですから、ぜったい誰にも言わないでください!!」
あぁー レイスさん……言っちゃった!!
頼むから私の魔法のことは言わないで…… 神様に祈るしかない。
誰に? セフィス様に?――子孫のレイスさんに祈る? 間違ってないよね。
余計に頭がこんがらかってくる。
レイスさんの発言に、ここにいる全員が驚いてしばらく誰も口もきけないような状態になってしまっていた。軽口を叩くあのジャイロさんまで・・・・・・
「ということは……ラケム――いや、お前はセフィスの巫女 アメリアなのか?」
「違いますよー! 王様、僕は正真正銘、ラケムです!」
「では、レイスが言っている本当の姿がわかるというのが嘘……か?」
クローネ王がラケムさんとレイスさんの両方を見比べるようにして見ている。
「あぁーなんて言ったらいいんだ! ラケムさんは本当にラケムさんで、嘘なんかついていない!
でも、ラケムさんに、そのアメリア様っていう人の痕跡――影っていうか、そんなのが視えるんです!」
レイスさんはきれいに撫でつけられていた前髪をぐしゃぐしゃにかきむしって、頭を抱えてしまった。
やっぱり、前髪がないと落ち着かないのかなぁって、ちょっと思ってしまう。
これまで、一言も発することなく、ずっと視線を円卓から外すことなく腕組みをしてじっとしていたリーシェさんが、おもむろに顔を上げた。
女の人だけど、ラケムさんより男っぽい感じがする。癖のあるオレンジ色の髪は無造作にまとめられていて、クリーム色の厚手の絹のローブを羽織っているけど、ドレスを着ているようではないみたいだ。この場にいる人たちに合わせて、普段の恰好のまま、急いで高価なローブを羽織って来ただけっていう感じ。
ラケムさんのほうは隙がないように身支度を整えている。さすが、王様の名代で他国の王様との謁見を任せられる人なんだと思う。
「ちょっと待って…… 今までの話を簡単に信じるわけにはいかないけど、本当だったとして、神の力が視えるレイス君が、ここに神の力は視えず、アメリアの姿だけが視えた――っていうことは
・・・・・・ラケム!
あんた、そのアメリアの神の力っていうやつに干渉されたっていうことなんじゃないの?
アメリアの神の力遠見は、他人の視界を使っている――つまり、今、ラケムの目を通して、この場所を見ているっていうことじゃないの?
試しにラケム、目を閉じるか、あんたの視界を防ぐかしてみて」
リーシャさんが考えをまとめるようにして口を開く。
ラケムさんはしばらく考えていたが、「わかった、やってみるよ」と言うと、みんなの前で目を閉じてみせた。
「レイス君、どう? アメリアの姿は視える?」
「!! 視えなくなった!」
レイスさんは目をパチパチとさせると驚いたような声で叫んだ。
「ふむ……本当に神の力っていうのはあるようね。
ラケム、次は目を開けて、耳を塞いで。音が聞こえないように耳栓か何かしてくれない?」
リーシャさんは、ラケムさんの視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚のすべてを順番に、いろいろと組み合わせて試していった。
「反応するのは、視覚だけみたいね。アメリアの遠見は視界だけが共有されるってこと……レイス君が嘘を言っているようにも見えない。
どうやら、神の力っていうのは本当にあるようね。
っていうことは、レイス君がここにいるのは知られたけれど、会話の内容はタミネアには伝わっていない――そう考えてもよさそう。
さらには、干渉された人に毒を飲ませたり、傷をつけても、アメリアは影響を受けないってことね。ようは、間接的には害を及ぼせないっていうことよ。
ラケム、あんた、しばらく目を閉じるか、どっか違うとこ見ててくれない?
これ以上、あっちに情報をくれてやる必要はないから!」
このリーシャさんって、平然とすました顔をしてコワイことを言う人だ。
もしかして、アメリア様って言う人を害しようとか殺そうとか考えているの?
セフィスの巫女、神様の子孫だって言ってる人を……
ジャイロさんの友だちって、なんだかみんなコワイ人のようだ。
「でもよぉ、アメリアの神の力が干渉した者の視界を共有しているとして、どうしてレイスとメイの名前までわかったんだ? メイはともかくレイスの名前なんか教会すら知らなかったじゃねぇか。名前も視えるっていうことか?」
ジャイロさん、相変わらず冷静だ。
「あの、もしかしたら・・・・・・
かあさんが、時々、壁に紙を貼ってたんです。『レイスの誕生日』とか、書いて・・・
それって、かあさんがアメリア様の神の力を知ってて教えてたんじゃないのかな……
かあさん、自分のこと俺たちになんにも言ったことがなかった。
とうさんは知ってたかもしれないけど、もう死んじゃったし・・・・・・」
「でも、おまえ、母親にもアメリアの影が視えてたんだろ? だったら干渉されてたのは、わかってたんじゃないのか?」
「視えるようになったのは、最近だから…… それまではぜんぜん・・・
マルルカが視えるように力を貸してくれたんだ」
あぁぁあああー!!!
レイスさん、何てこと言ってるのぉー!!




