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2つの世界の物語 ~魔力の化け物と呼ばれた少女の物語~  作者: 星あんず
第3章 とまどいの一歩(前編)
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22 みんなでご飯……

 結局、ジャイロさんは、森のおうちに泊まることになった。

 残念ながら、ジャイロさんがいると魔法が使えないから今日の湯あみはなしだ。


 お風呂場で行水の準備をしているとレイスさんが入って来た。なんだかレイスさんのことを意識してしまって、ちょっと緊張してドキドキしてしまう。――もぉー、ジャイロさんが変なことを言うから!!


「マルルカさん、今のうちにお話ししておきます。

 ジャイロは、嘘は言ってないです。おれ、なんとなくわかるみたいです。言葉と心が一緒だと、その人が鮮明に視えて、言葉がはっきりと聞こえるんです。

 たぶん、嘘だとにじんで視えるような気がします。

 そんなに長くはできませんけど・・・・・・でもマルルカさんの本当の姿を視たときほどじゃないです。あのときは、全魔力を使ったのに一瞬しかわかりませんでしたから。

 ……俺、先に外の片づけしてくるけど、水汲みは任せて! 魔法使えないでしょ?」


 レイスさんは小さい声でそれだけ言うと、私が応える間もなくすぐに出て行った。



「水汲んできてやるよ! この湯舟に水を入れたらいいんだろ?

 力仕事は任せな!」


 レイスさんとすれ違うようにして、今度はジャイロさんがやってきて、ニカッと笑うと足元にあった桶を持って井戸のほうへと行ってしまった。


 悪い人じゃないのかもしれない。

 でも、ぜったい、御使い様のことについて、私が何か隠してるって思ってる。――気を付けなくっちゃ!


 お風呂場の準備を整えると、今度は夕ご飯の準備だ。

 オルト兄ぃが保存箱にいっぱい食料を準備しているから、まったく買い物に出なくてもいい。保存箱には魔法がかかっているから、食べ物はいつも新鮮! これはたぶん気づいていないはず!

 簡単なところで、オルト兄ぃが作った魚の燻製がまだあるから、それに野菜スープを作ればいいかな? あのクリーミィなマッシュポテトは作れないから、ジャガイモをふかしてバターをたっぷり乗せよう!

 足りないようだったら、朝焼いたパンもあるし・・・・・・・



 私がごはんの準備をしている間に、ジャイロさんが水を汲んで、レイスさんがお湯を沸かしてくれた。先に2人にお湯を使って行水してもらうことにする。


「マルルカも先に行水済ませてしまってー。台所はおれが残りをやっておくからー」


 レイスさんが私に声をかけてくれた――けど、今、呼び捨てしたよね!?

 私の名前―― また、ドキドキしてきたぁー


 ジャイロさんが来て数時間のうちに、なんだか森の家の空気――いや、レイスさんの雰囲気が変わってしまった気がする。ある意味、ジャイロさんは恐ろしい破壊力の持ち主!


 料理はほとんどできているので、お湯が冷めないうちに行水を済ませると、テーブルの上には、夕ご飯の準備がセッティングされていた。


「なんか、酒はないのか?」


「兄のワインくらいしかありません! うちは食堂でも居酒屋でもないんです!」


 もう、ジャイロさんにはきっぱりと言わなくっちゃ!!


「ワイン代も払うから、1本開けてくれよぉ レイスも1杯くらい飲みたい気分だろ?」


「ほんとっ そうだね! ジャイロがいなきゃ、飲みたい気分なんかにならなかったよ」


 ジャイロさんは子どもが母親におねだりするような表情で、手を合わせてお願いしてくる。レイスさんは、すっかりジャイロさんのペースにはまってしまってるよ。

 なんか、憎めないっていうか、しょうがないなぁっていう気持ちにさせる。



 オルト兄ぃのワインを1本とグラスを2つ、テーブルにセッティングすれば、夕ご飯は完了!


「おい! おまえんとこの飯…… どこの王侯貴族様のだぁ……」


 テーブルに着くなり目を丸くして、一口料理を口にいれたジャイロさんが呆れたように言う。


「え? 残り物に野菜スープとジャガイモをゆでただけですけど……

 足りないようだったら、朝のパンもありますから」


 何を言っているかさっぱりわからない。スーおばさんのところだってスープやゆでたジャガイモ、パンだったし――王様って私たちと変わらないごはん食べてるのかなぁ?


「ふつうジャガイモにこれだけ上等なバターをたっぷり使うか? さらには胡椒まで!

 スープにも胡椒やハーブが使われている――まぁ、ハーブは自前だろうが……

 それにこのさなかの燻製! あり得ないだろう これ!! どんだけスパイスが使われてるんだ!

 そして、そして、このワイン――そんじょそこらで手に入れられるシロモンじゃねぇ。

 さらにはワイングラスときたもんだぁ

 おかしいだろぉよぉー!!」


「「……どこが?……」」


 私とレイスさんは2人で顔を見合わせた。ジャイロが何をわめいているのか、さっぱりわからない。


「まぁ、たしかにここの食事はすごくおいしいですけどね! メイも絶賛していたし」


 レイスさんがとりあえずジャイロをフォローするように苦笑いしている。



「おまえら、バターの値段知ってるか? そこらへんの肉や魚より高いぞ! そのうえ、このバターは口に入れた瞬間にミルキーで芳醇な香りを放つ。それに、ピリッとした黒胡椒の爽やかな辛みとわずかな塩味がジャガイモの甘みを見事に引き出している。ホクホクしたジャガイモを溶けたバターが絡めとっていく。

 このゆでたジャガイモ1個が、どんだけの値段になってるかわかるか?

 胡椒一粒は黄金一粒って言われるくらいだぞ! まず、庶民には手に入らない。

 この食卓に使われてるかねが恐ろしいんだよ!!」


 ゆでたジャガイモをこれほどまでに語れる人はまずいないだろう……

 ジャイロさんの絶叫に近い、料理のうんちくが続いた・・・・・・


 スパイスってそんなに高いものだったの? でも絶対入れたほうがおいしいし……

 オルト兄ぃのおかげで、知らないうちに、私はずいぶんと舌が肥えてしまったみたいだ。

 ずっとこれまで物の値段、お金のことを気にしたことが全くなかったことに気づいた。


 オルト兄ぃ、私の教育がまだ足りなかったみたいだよ……。

 お金のこと、教えてくれてなかったよね?

 ちゃんと知ろうとしなかった私も悪いとは思うけど・・・・・・

 買い物することもあまりなかったし…… もうちょっとブリドニクでちゃんと知っておけばよかった。


 でも、完璧なはずのオルト兄ぃなのに! って思うと、なんだか小さな傷をみつけたみたいで、ちょっとうれしくなる。

 だって、オルト兄ぃは完璧すぎるんだもの!!



「おまえ・・・・・・、何者(なにもん)だ?」


 ジャイロの目が鋭く冷たく光った。


 私が、考え事をしている間、ジャイロさんはずっと私を見てたみたいだ。

 やっぱり、コワイ・・・・・・ジャイロさん・・・



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