21 とっておきのコーヒー
「マルルカって言ったな…… 詳しく話を聞かせてくれねぇか?
茶はもういい。なんか違うもんあるか?」
なんなの? この人・・・・・・
でも、それほど怒る気になれない。不思議な人だ。
もうお昼を過ぎた時間になっている。
私はオルト兄ぃのコーヒーがあったことを思い出して、久しぶりにいれることにした。
好きかどうかはわからないけど、お砂糖とミルクも準備して、ビスケットも軽く温める。
コーヒーのローストされたナッツのような甘い芳ばしい香りが、満開に花が咲いたように部屋中に広がる。
「おい! なんでコーヒーがこんな薬屋にあるんだよ!!
それも相当の品物だぜぇ…… なんなんだよ。ここは・・・・・・」
淹れたてのコーヒーの香りにジャイロさんは、大声で叫んでる。
そりゃぁ、オルト兄ぃの好きな物だから、妥協するはずはないよね。
「コーヒーがお好きでよかったです。お茶以外と言われても、果汁かコーヒーくらいしかないので・・・・・・」
「いや……すまん。
まさか、コーヒーが、それもこんな上等な高級品が出てくるとは思わなくってよぉ――悪かった」
ジャイロさんは、本当に申し訳なく、今までにないくらいに小さな声で言うと、カップを静かに持ち上げて、満足げにコーヒーの香りを楽しんでいた。それから一口、口に含むと目を瞑り、ゆっくりとその風味を心ゆくまで味わっているようだった。
「すばらしい!! 豊かで芳醇な香りとまろみ、バランスのとれた苦みと酸味には雑味がまったくない!
なんというコーヒーなんだ!!
これはどこで手に入れた? ブリドニクだから、どこかの商船が持ち込んでいるのか?
お願いだ! 教えてくれ!! 頼む!!」
「いえ…… それは、オルト兄ぃ――2番目の兄が好きな物なので、私にはわかりません」
そんなことを言われても本当に困る。
「2番目の兄? さっきのメイを連れてった兄貴と違うのか? そいつはここにいるか?」
ジャイロさんは、ようやくコーヒーから頭が切り替わったようだ。
よかった・・・・・・
「いえ、2番目の兄は、アル兄様のおつかいで、同じ時期に出かけていきました。どこにいったかは知りません」
「ちくしょー! いねぇのかぁ…… こいつをどこで手に入れたか教えてもらおうと思ったのによぉー」
あっ・・・・・・まだ、頭の中がコーヒーだったんだ。
どうもジャイロさんと話をしているとペースを崩されてしまう。
それから私は、スーおばさんのこと、メイちゃんのこと、今まであったことを全部話した。もちろん、御使い様のことは……本当のことは話せない。
しばらく考え込んでいたジャイロさんだったけど、私の顔をまじまじと見ると真剣な顔をして聞いてきた。
「おまえ、御使い様を見たのか? ブリドニクの出来事は本当にあったことなのか?
俺は信心が薄くてよぉ、その話を聞いても信じられないんだよ。
でも、誰に聞いても同じ話だ。
熱に浮かされたような顔で夢見心地で語りだす奴、感激の涙を流す奴、
興奮のあまり祈りだす奴なんかばっかりだ。
そんなのを何人もみてきた。
ただな……おまえも同じ話をするが――反応が冷めてるんだよ。
他の奴とまったく違って……」
「私―― その、途中で気分が悪くなって、オルト兄ぃに介抱されてたから・・・・・・
はっきりとは・・・・・・だからかもしれませんね」
心臓が飛び出るかと思った。すごく驚いた顔をしちゃったかもしれない。
どうしよう・・・・・・
この人、やっぱり油断できない人だ!!
まだ私のこと見てる。――つい、視線をそらしてしまう。
「マルルカさんが怖がってるじゃないですか! ジャ、ジャイロ!」
レイスさんが声を張り上げて、ジャイロさんの視線を私から外そうとしてくれている。
今日はなんだかレイスさんがとっても頼もしくみえる! ずっと私を守ろう!ってしてくれてる。
「はい、はい! 悪かったよ……
ところでさぁ、相談なんだが、今日、ここに泊めてくんない?」
「ジャイロォ! ダメ! 絶対ダメェー!!
今の時間なら、ブリドニクの門が閉まる前にちゃんと街に入れますから!」
レイスさんが珍しく顔を真っ赤にして怒鳴っている。
「いやぁ、街に入りたくないんだわ……
レイスを連れて王都に行くつもりなんだが、森を突っ切って行くからさー
おまえも野宿はいやだろ?」
「ダメったらダメ!! マルルカさんをたった1人で、置いていけませんよー!!」
「ふむ……そんじゃぁ、マルルカも連れて行くベー
レディも同行させる旅なら、余計に野宿はよろしくないだろ?
てかさぁ、マルルカ、お前の兄貴ら、よく他の男に妹を預けられるなぁ
それとも兄貴公認の仲なのか?」
えぇぇぇええー!! そっちぃ?
私はそんなの考えたこともなくて――いやいや……私はレイスさんの魔眼の開放と制御を任せられていたわけだし・・・・・・
それに、アル兄様の守り石だってあるし!――いや、そもそもレイスさんが私に悪さなんてしないよ!!
頭の中がぐちゃぐちゃになってきた――
私は口がパクパクして、言葉が出てこない。なんて言ったらいいかわからない!
「そ、そ、そんなこと、あ、ありません!!
マルルカさんとお兄さんは、俺を助けてくれて・・・・・・」
レイスさんは顔を真っ赤にして、なんとか誤解を解こうとがんばってる。
「まぁ、どうでもいいや! 男一人増えたってどうってことねーってことだな!
そうゆうことで、今日はよろしく!
俺、ちょっとだけ強ぇーからよ、今日は2人とも安心して寝な!
よし! 畑は手伝うぜ――約束したからな!」
「ジャイロォッー!!」
レイスさんが絶叫した!
「ったく…… 今度はなんだよぉー ・・・・・・
あっ! 金の心配か? それは俺に任せておきな。親分からたっぷりもらってるからよ。
身の回りのもんだけ持ってきな!
おっと、忘れるとこだった。マルルカ、あのコーヒー持ってきてくれ。
頼む! 分けてくれー 金なら払うから!!」
レイスさんの絶叫がまるで聞こえなかったように、ジャイロさんはそれだけ言うと、畑のほうへとスタスタ歩いて行ってしまった。
レイスさんは、完全に頭を抱えてしまっていた。
私はなんだか心臓がバクバクして止まらない。
「おーい! 俺は何をすればいい?」
外からは、呑気なジャイロさんの声が聞こえてきた。




