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2つの世界の物語 ~魔力の化け物と呼ばれた少女の物語~  作者: 星あんず
第3章 とまどいの一歩(前編)
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21 とっておきのコーヒー

「マルルカって言ったな…… 詳しく話を聞かせてくれねぇか?

 茶はもういい。なんか違うもんあるか?」


 なんなの? この人・・・・・・

 でも、それほど怒る気になれない。不思議な人だ。


 もうお昼を過ぎた時間になっている。

 私はオルト兄ぃのコーヒーがあったことを思い出して、久しぶりにいれることにした。

 好きかどうかはわからないけど、お砂糖とミルクも準備して、ビスケットも軽く温める。


 コーヒーのローストされたナッツのような甘い芳ばしい香りが、満開に花が咲いたように部屋中に広がる。


「おい! なんでコーヒーがこんな薬屋にあるんだよ!!

 それも相当の品物(もん)だぜぇ…… なんなんだよ。ここは・・・・・・」


 淹れたてのコーヒーの香りにジャイロさんは、大声で叫んでる。

 そりゃぁ、オルト兄ぃの好きな物だから、妥協するはずはないよね。



「コーヒーがお好きでよかったです。お茶以外と言われても、果汁かコーヒーくらいしかないので・・・・・・」


「いや……すまん。

 まさか、コーヒーが、それもこんな上等な高級品が出てくるとは思わなくってよぉ――悪かった」


 ジャイロさんは、本当に申し訳なく、今までにないくらいに小さな声で言うと、カップを静かに持ち上げて、満足げにコーヒーの香りを楽しんでいた。それから一口、口に含むと目を瞑り、ゆっくりとその風味を心ゆくまで味わっているようだった。


「すばらしい!! 豊かで芳醇な香りとまろみ、バランスのとれた苦みと酸味には雑味がまったくない!

 なんというコーヒーなんだ!!

 これはどこで手に入れた? ブリドニクだから、どこかの商船が持ち込んでいるのか? 

 お願いだ! 教えてくれ!! 頼む!!」


「いえ…… それは、オルト兄ぃ――2番目の兄が好きな物なので、私にはわかりません」


 そんなことを言われても本当に困る。


「2番目の兄? さっきのメイを連れてった兄貴と違うのか? そいつはここにいるか?」


 ジャイロさんは、ようやくコーヒーから頭が切り替わったようだ。

 よかった・・・・・・


「いえ、2番目の兄は、アル兄様のおつかいで、同じ時期に出かけていきました。どこにいったかは知りません」


「ちくしょー! いねぇのかぁ…… こいつをどこで手に入れたか教えてもらおうと思ったのによぉー」


 あっ・・・・・・まだ、頭の中がコーヒーだったんだ。

 どうもジャイロさんと話をしているとペースを崩されてしまう。


 それから私は、スーおばさんのこと、メイちゃんのこと、今まであったことを全部話した。もちろん、御使い様のことは……本当のことは話せない。


 しばらく考え込んでいたジャイロさんだったけど、私の顔をまじまじと見ると真剣な顔をして聞いてきた。


「おまえ、御使い様を見たのか? ブリドニクの出来事は本当にあったことなのか?

 俺は信心が薄くてよぉ、その話を聞いても信じられないんだよ。

 でも、誰に聞いても同じ話だ。

 熱に浮かされたような顔で夢見心地で語りだす奴、感激の涙を流す奴、

 興奮のあまり祈りだす奴なんかばっかりだ。

 そんなのを何人もみてきた。

 ただな……おまえも同じ話をするが――反応が冷めてるんだよ。

 他の奴とまったく違って……」



「私―― その、途中で気分が悪くなって、オルト兄ぃに介抱されてたから・・・・・・

 はっきりとは・・・・・・だからかもしれませんね」


 心臓が飛び出るかと思った。すごく驚いた顔をしちゃったかもしれない。

 どうしよう・・・・・・

 この人、やっぱり油断できない人だ!!

 まだ私のこと見てる。――つい、視線をそらしてしまう。



「マルルカさんが怖がってるじゃないですか! ジャ、ジャイロ!」


 レイスさんが声を張り上げて、ジャイロさんの視線を私から外そうとしてくれている。

 今日はなんだかレイスさんがとっても頼もしくみえる! ずっと私を守ろう!ってしてくれてる。


「はい、はい! 悪かったよ……

 ところでさぁ、相談なんだが、今日、ここに泊めてくんない?」


「ジャイロォ! ダメ! 絶対ダメェー!!

 今の時間なら、ブリドニクの門が閉まる前にちゃんと街に入れますから!」


 レイスさんが珍しく顔を真っ赤にして怒鳴っている。


「いやぁ、街に入りたくないんだわ…… 

 レイスを連れて王都に行くつもりなんだが、森を突っ切って行くからさー

 おまえも野宿はいやだろ?」


「ダメったらダメ!! マルルカさんをたった1人で、置いていけませんよー!!」


「ふむ……そんじゃぁ、マルルカも連れて行くベー

 レディも同行させる旅なら、余計に野宿はよろしくないだろ?

 てかさぁ、マルルカ、お前の兄貴ら、よく他の男に妹を預けられるなぁ

 それとも兄貴公認の仲なのか?」


 えぇぇぇええー!! そっちぃ?

 私はそんなの考えたこともなくて――いやいや……私はレイスさんの魔眼の開放と制御を任せられていたわけだし・・・・・・

 それに、アル兄様の守り石だってあるし!――いや、そもそもレイスさんが私に悪さなんてしないよ!!

 頭の中がぐちゃぐちゃになってきた――

 私は口がパクパクして、言葉が出てこない。なんて言ったらいいかわからない!


「そ、そ、そんなこと、あ、ありません!! 

 マルルカさんとお兄さんは、俺を助けてくれて・・・・・・」


 レイスさんは顔を真っ赤にして、なんとか誤解を解こうとがんばってる。




「まぁ、どうでもいいや! 男一人増えたってどうってことねーってことだな!

 そうゆうことで、今日はよろしく!

 俺、ちょっとだけぇーからよ、今日は2人とも安心して寝な!

 よし! 畑は手伝うぜ――約束したからな!」


「ジャイロォッー!!」


 レイスさんが絶叫した!


「ったく…… 今度はなんだよぉー ・・・・・・

 あっ! 金の心配か? それは俺に任せておきな。親分からたっぷりもらってるからよ。

 身の回りのもんだけ持ってきな! 

 おっと、忘れるとこだった。マルルカ、あのコーヒー持ってきてくれ。

 頼む! 分けてくれー 金なら払うから!!」


 レイスさんの絶叫がまるで聞こえなかったように、ジャイロさんはそれだけ言うと、畑のほうへとスタスタ歩いて行ってしまった。

 レイスさんは、完全に頭を抱えてしまっていた。

 私はなんだか心臓がバクバクして止まらない。


「おーい! 俺は何をすればいい?」


 外からは、呑気なジャイロさんの声が聞こえてきた。




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