19 クローネ王の思惑
クローネ王国の王宮、王の執務室。
大国の王の執務室とは思えないほど質素なつくりだった。重厚な机と椅子に装飾はなく、さほど広くない部屋の一面は作り付けの本棚になっていて、さまざまな分野の本が無造作に置かれている。中央にあるテーブルは整理された様子もない程、様々な報告書で埋め尽くされていた。
この部屋には、ごく限られた者、王の最も信頼する家臣3人しか足を踏み入れることができなかった。クローネ王国宰相や大臣たちでさえもこの部屋の存在を知らず、掃除のメイドも知らなかった。この部屋を片付ける者はその3人だけだったが、彼らもたいていは王の命により陰で動くことが多くため、むさくるしいだけの部屋となってしまっていた。
「タミネアの者までもがプーレフェミナの子を探しているだと?
それも2人!? メイという娘だけではなく、レイスという青年もいる……か……」
クローネ王こと、モタニオス・クローネはその家臣の一人である男の報告に耳を疑った。
教会から上がってきた報告では、娘が1人――とだけあった。
教会が故意に隠したのか?・・・・・・
いや―― 教会の内通者からも子どもが2人いるとの報告はなかった。教会もまだメイという娘を見つけていないという。
それよりも、タミネアの動きが早すぎる。教会さえまだ知り得ない情報をなぜ手にすることができるのだ…… そしてなぜ、タミネアが動くのだ……
クローネ王は眉間に深いしわを寄せて考える。が、すぐに次の命を男に下した。
「教会がもう一人の子の存在を知らなかったとしても、まもなく知ることになろう。
だが、与しやすい娘を見つけ出すことを最優先にしているはず・・・・・・
娘のほうは、表でこれまで通りに探し、我は青年の存在には気づいていないことにする。
ジャイロ、 お前は、レイスという青年を、なんとしても教会より先に探し出せ! 絶対だ!」
「王様、 了解!」
ジャイロと呼ばれた男は、大国の王にかける言葉とは思えないほど軽い調子で答えると、そのまま部屋を出て行った。
クローネ王には、セフィス教の存在が無視できないほどのものになっていた。
セフィス教の横暴は目に余るものがある。神という名の脅しで民の信心につけこむ。
王国の貴族たちは、国と教会の両方を天秤にかけて私腹を肥やす。最近では教会裁判という名のもとに、民を裁く。目に余る程に―― 我が民を勝手に裁き、王国の民を減らす。
やりすぎだ―― 国をないがしろにする行為が許せないほどに・・・・・・。
教会が、セフィス教が、これ以上好き勝手に動くのは国としては好ましくないのだ。
教会が独断でブリドニクの女にプーレフェミナ(清らかな女性)の称号を与えた。そしてその者の娘を担ぎ上げて、さらに力を増大させようとする企みは十分に予測できる。ブリドニクの出来事はセフィス教にとって、勢力を拡大させる絶好のチャンスなのだ。だからこそ、これを、国の上に君臨しようとするセフィス教を阻止しなければならなかった。クローネの国のために、民のために。
そしてもうひとつ、タミネアの思惑を早急に知る必要がありそうだ。
なぜ我がクローネの出来事に首を突っ込む!
場合によっては、厳しい決断――戦いを視野にいれなければならない。
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「こんにちはー ここは森の薬屋かい?」
レイスさんと一緒に薬草畑の世話をしていると、アル兄様と同じ年位? 20歳前半位?の黒髪の男の人が声をかけてきた。
「はい、そうですけど…… 何かご入用ですか?」
「あぁ、よかった! 街からけっこう離れているところにあるんだねぇ。たどり着けるか、ちょっと不安になっちゃったよ」
男の人はそう言って、ホッとした様子で人懐こい笑顔を浮かべた。
「ブリドニクの街に初めていらした方ですか? こんなところまで足を運んでいただいてすみません。
何をお求めでいらっしゃいますか? 家の中にお入りになりますか?」
ここに来る人はブリドニクの人、おじさんが頼まれてくることが多いから、若い人は珍しいなぁと思いながら、男の人の爽やかな笑顔についつられて私も笑顔になる。
「あぁ、うれしいねぇ。
ちょっとここまで来るのに疲れちゃったから、少し休ませてもらえるとありがたい」
私は作業の手を止めて、家のほうへと案内した。レイスさんは、私と男の人の会話の横で手を止めることなく作業をしていたけど、男の人が家のほうへと足を向けると、その後を追うようにして男の人の後ろに続いてきた。
私はミルカ茶を準備することにした。疲れをとってくれる薬草茶だ。ミルカの花びらのお茶は紅色がきれいで少し酸味がある。夏の間咲き誇っていたミルカの花びらを乾燥させて作る。
「いやぁ、これはおいしいねぇ。疲れも一気にふっとぶよー!」
男の人はそう言うと、おいしそうにカップに入ったお茶を味わっていた。
「何をお求めですか? お求めになりたいものがあればいいのですが・・・・・・」
男の人はいつまでもお茶を飲んでいるので、私は話を切り出した。
男の人は、カップをテーブルに静かに置くと、私の隣にいたレイスさんのほうに顔を向けて、静かに言葉を放った。
「君がレイス君、プーレフェミナ・スザンナの子、レイスだよね?」
レイスさんは男の言葉に驚き、怯える表情で目の前にいる男の顔をじっと見た。緊張で体がこわばっているのが、私でもわかる。
「あ、あなたは・・・・・・誰・・・・だ・・・・・・」
やっとの思いで声を出すレイスさん…… それでも私を守るようにして一歩前に出た。
私も彼の言葉に血の気が引く思いがした。この世界にきて、しばらく忘れていた緊張感だった。その感覚に戸惑ったものの、ヤービスで冒険者をしていたときの敵と対峙していた頃の冷静さを取り戻そうとしていた。
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