14 それぞれの夜
「セフィス様とは魔眼持ち、スザンナは魔眼の継承者だった……ということですね」
オルトは空になったアルのグラスにワインを注ぐと、一礼して席についた。
「そうだね。
セフィスは、元はヤービスの世界、イストリア王国の間者だった奴だよ。イストリアの王に隷属魔法を刻まれてソラン王の側近にいたイストリアのネズミだった男だ。
そいつが、この世界ノージスで神になった。おもしろいだろう?
オルトがまだいないときのことだよ」
「主様もかなりのいたずら好きだったのですね・・・・・・」
口元に笑を浮かべているアルに対して、オルトは少し呆れたように苦笑するしかない。
「セフィスはやりすぎたんだよ。この世界を自分のものにしようとしたのさ・・・・・・
ヤービスでは魔眼持ちといっても能力者でしかない。
能力者は、魔力があっても特異の能力にしか使えないからねー
間者として利用されるのが関の山だ…… だから、ノージスに連れてきあげたのだけどね。
ここには能力者を縛る者も魔法もないから――
でもそのうち、セフィスは仲間を作って、あちこちで好き放題にやり始めたんだよ。
僕との約束を破ったのさ!
『殺さないでくれ!』っていうから、みんなまとめて結界の中に生を終えるときまで幽閉した。ノージスのあちこちで汚い魔力を使われちゃぁ困るからね!
結界の中で魔眼を使っても協力者がいなければ、何もできない。
彼らの魂は刈った。それが罰だ。
でも、ちゃんと希望は叶えてあげたんだよ。生も全うさせてあげたし、名前だけは神様として君臨させてるでしょ?
その代償を、彼らの子孫が負っていたということだ。生涯を結界の中で終える――
セフィスは自分の罪を自分の子孫に押し付けたんだよ」
アルはテーブルに肘をついてグラスをクルクルと回し赤紫の液体が揺れるのを楽しそうにしてみていた。
ふいに手を止めると、笑みを消してグラスの向こう側からオルトに厳しい視線を向けた。
「レイス、メイ、そしてアメリア…… この3人で終わりにしよう。
お前の好きなようにことを終わらせてよい。
魔力やその残滓が漂えば、新たな能力者が産まれる可能性もある。
それは許さない」
「オルティウス、確かに主様の言葉を承りました」
「里の結界が消えたから、おそらくアメリアは隠れ里を、あの結界を出たのだろう。
元々、魔力の残滓を拡散させないための結界だったし、セフィスが干渉していない者や魔力のない者、弱い者は出ることができたからね……
アメリアの魔力は少ないから、タミネアの出方を見極めてからでもさほど影響はない。
レイスの魔眼の本質はまだわからないから、ここに引き留めておいたほうがよい。
少し遊びすぎた私が悪いのだけど・・・・・・申し訳ない。オルト」
「もったいないお言葉でございます」
オルトは席を立つと、片膝をつき深く一礼をした。
「今は、アル兄ぃとオルト兄ぃだよ、 オルト」
アルはグラスから視線を外すと、今度はオルトに人懐こそうな笑みを向けた。
その笑みに返すようにオルトは立ち上がると、アルの言葉に同意するようにいたずらっぽい表情を浮かべる。それから一度も手にしていなかったワイングラスを目の高さにかかげて、アルに捧げるようにしてから初めて口をつけた。
「んじゃぁ、アル兄ぃ、レイスの魔眼の開放はマルルカに任せない?
ほら、レイスがアル兄ぃと僕の姿を見ると壊れちゃうでしょ?
僕は先に、アメリアのところに行ってくるよ!」
オルトの提案にアルはほんの少しだけ思案をする。
「そうだねぇ・・・・・・ うん そうしよう!
きっとマルルカは、またおもしろいことをしてくれるよ!
それに、マルルカの魔法を洗練させるのにもいい練習にもなる。
じゃぁ、僕は、メイちゃんと街に行ってこようかな?
そのほうが面白そうだ!」
オルトとアルは、子どものように無邪気にたくらみを楽しんでいた。
すべてのできごとは、「無限に在る者」たちの一時の戯れでしかなかった。彼らの気まぐれと思いつきで世界は大きく動く。その采配が世界の正義になる。
そんな二人のたくらみをまったく知らないで、マルルカはぐっすりと眠っていた。
メイとレイスの兄妹も無事に会えた喜びと安心感とで、久しぶりの家族のぬくもりをいだきながら早々に眠りについていた。
月の見えない夜空を見上げている者がただ一人……
アメリアは、タミネアの王宮から真っ暗な夜空を見上げていた。
厚い雲に覆われて、星も見えない空を・・・・・・




