13 隠れ里(4)
「里が見える! 家がいくつも見えるわー! 人が・・・人がいるわぁー」
スザンナが人里をみつけてたどり着いた時には、アメリアは思わず大きな声で叫んでいた。
「すごい!! こんなに人がいるなんて!! 家が大きいー」
アメリアはスザンナが見せてくれる世界に夢中になった。視界を共有する時間が長くなると、全身の力が抜けてぐったりとなってしまう。
「アメリア、それは神の力が不足したんだよ。ほどほどにしないと、命が尽きてしまうよ」
アメリアが視界を共有できる時間はさほど長くないようだ。1日1時くらいが限度らしい。それ以上の時間を共有していると、次の日は動けなくなってしまった。
アメリアは、ほんの少しの時間だけ視界を共有するようにして、回数を増やすようにした。
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スザンナがアメリアに初めて見せた最初の里は、タミネア王国の外れの小さな集落に過ぎなかった。小さな家が30戸ほどで、外から訪れる者もほとんどいない、林業を生業にしている集落だった。
それでも、スザンナやアメリアにとっては、大きな里だった。
この集落にたどり着いたスザンナは、胸がふるえた。
(外の世界・・・・・・私は今、ここにいる・・・・・・)
簡素な生成の貫頭衣に胴結びをしめた格好に、灰色のマントだけをまとい、荷物もなく、傷だらけで集落の中を茫然として彷徨うスザンナの姿は、集落の者たちには奇異に見えた。
「娘! どこにいく! どこからきた!」
集落で一番強いと言われている男が近づいてきて、いぶかし気な顔をしてスザンナを見定めるようにながめた。
「あの・・・・・・スザンナっていいます。
私、山から下りてきて・・・・・・あの・・・・・・」
スザンナは、どう話したらいいのか、何も考えていなかった。正直に話すわけにはいかない。
どうしたらいいのだろう……思案しているそのとき、スザンナのお腹が盛大にグーっと鳴った。
「お前、腹がへってるのか!?
着の身着のままって恰好だし…… しゃーねーなぁ…… まずは何か食わしてやらぁ・・・・・・
ここで死なれたら、目も当てられねぇや」
男はそういうと、スザンナについて来いと合図すると、すたすたと歩き始めた。
スザンナは男の歩幅に追いつこうと必死に足を運ぶが、体力が限界だったこともあって、足がもつれてうまく歩けない。しまいには派手に転んでしまった。
「しゃーねぇなぁ・・・・・・」
男は頭を掻きながらスザンナのところまで戻ってくると、ひょいと担ぎ上げて、ある家の中に入っていった。
「おい! ばばぁ! なんか食いもん出してくれや」
男が入っていった家は、この集落でたった1軒、雑貨屋と食堂を兼ねているところだった。
「何言ってんだい! とっくの昔にお日様は傾いてるだろー 食堂は終わりだよ!
・・・・・・おや、まぁ・・・・・・お前、人さらいになったのかい?」
恰幅のいい女が出てくるなり、スザンナを抱えている男に驚いて声をかけた。
「んなことするわけねぇだろーが! ・・・・・・まぁ、頼むわ!」
男はそう言ってスザンナを下ろすと、数枚の硬貨をおいて出て行ったのだった。
こうしてスザンナは、この集落に受け入れられ、雑貨屋兼食堂の手伝いをしながら、しばらくこの集落で暮らすこととなった。
スザンナが気立てのいい娘だったこともあってか、集落の者たちもスザンナにあまり深く問いただすこともなかった。
集落で暮らすようになって1年が経とうとする頃、スザンナはお世話になった集落を出て旅をすることに決めた。
(外の世界をもっとアメリアに見せなくっちゃ! アメリア見てる?)
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姉さんと話をしている人はみんな笑顔だ。楽しそうに姉さんとみんな話している・・・・・・
赤いスカートかわいいな! 姉さんの姿を見てみたい。
スザンナが里を出てから、2年、3年と月日は流れていった。
スザンナはアメリアにいろいろな景色を視せた。
見たことのないおいしそうなごはん、最初に見た家よりももっとおおきな家、もっと大きい集落、里(街というらしい)。
色とりどりの服や髪飾り。
これが、私たちが守ってきた外の世界・・・・・・
アメリアは、時間ができれば、スザンナの景色を見ていた。
さらにスザンナが旅を進めていくと、街の建物の形も変わっていった。
人があふれるくらい大勢いる。家は石づくりで、2階や3階まである!
この大きい街では、薬草を並べているところで働いているようだ。
(姉さんは、薬草に詳しかったからぴったりだね・・・・・・)
4年、5年・・・・・・
最近、よく同じ男の人の顔を見る。誰だろう?
男の人と一緒に旅をしている!
ここは湖? でも空と水がくっついてる・・・・・・これは海よ!! 海なのだわ!!
姉さん、すごい・・・・・・ 本当にすごい!!
外の世界はとてつもなく広い!
いつも同じ男の人がそばにいる・・・・・・
家の壁に、「デイビッドと結婚しました」と書いて貼ってあった。
これは、姉さんから私たちへのメッセージだ!
姉さん、結婚したのねー
あぁ、姉さんと話ができたらいいのに! おめでとうって言いたいのに・・・・・・
私の神の力は、本当に視るだけなのね。
アメリアは、ずっと両親にスザンナの景色を伝えていた。
スザンナが結婚したらしいことを両親に言うと、顔をくしゃくしゃにして父親は泣いた。
3人で、スザンナの結婚をお祝いした。
子どもが産まれたことを言うと、「スザンナは私をおばあちゃんにしてくれたのねぇ」と、母親はコロコロと笑った。
子どもが産まれると、壁に、名前が書かれた紙が貼られていた。
レイス・・・・・・メイ
スザンナの子どもたちの成長は、3人をとても幸せな気持ちにしてくれた。
スザンナが里を出てから10年が経ち、20年が過ぎた
隠れ里は、父親と母親は相次いで亡くなり、アメリア1人だけになっていた。でも、アメリアはあまり悲しい気持ちになることはなかった。
私には姉さんがいるから! 外の世界があるから!!
咎める者もいなくなった今、アメリアは神の力が続く限り、取り憑かれたようにスザンナの世界を視ていた。力がなくなると倒れる、その繰り返しの生活を送っていた。
その日も、神の力が回復したからスザンナの世界を視る・・・・・・はずだった。
「姉さんの景色が視えなくなった・・・・・・外の世界が見えない!!!」
うゎぁぁああああああああ――!!
外のつながりが切れたアメリアは孤独のどん底に突き落とされた。
ひとりぼっちはいやぁああ――!!




