12 隠れ里(3)
「「スザンナ・・・・・・」」
思わぬ人――両親に声をかけられてびっくりして、スザンナとアメリアは振り向いた。
「!! とうさん! かあさん!・・・・・・あの・・・・・・」
いつの間にか、両親も吊り橋のたもとのところまでやってきていた。
両親がいることに驚き慌てる二人は、必死に言い訳を考えるが言葉がみつからない。
そんな子どもたちを両親は咎めることもなく、二人のそばにやってきてやさしく抱きしめた。
「あなたがたがやろうとしていたことは、わかっていたわ・・・・・・
ずっと同じ毎日だもの、子どもの様子がおかしいのに気づかないわけがないでしょう?」
「もう、いいさ! 俺たちは・・・・・・スザンナ……お前だけでも、外へ……
もう、本当にいいんだ!! 俺たちの使命は間もなく終わるから!
スザンナ、アメリアの生きる力になってくれ!!」
母親はくすりと笑い、2人を軽くにらむ。父親は言いたいことが山ほどあるのに、何から言ったらいいか戸惑うように、口ごもる。
それでも両親は、何かを決めたように、すっきりとした顔をして、スザンナに優しく笑いかけた。
スザンナは、両親の姿を見て、声を聞いていたら涙が止まらなくなってきた。そんなスザンナに、両親は数食分の食事と水筒、それから父親が岩塩を取りに行くときに使っていた灰色のマントを渡してくれた。
「どれくらいで山を下りれるのかはわからないけど、山の中で夜を迎えなければならないはずだから、このマントを持って行って! 夜の山では役に立つから。
これくらいしかしてあげられなくて、ごめんね」
「このマントがないと、とうさんが困っちゃうじゃない! 受け取れないわ!」
「いいんだよ! 岩塩を採りに行くのは来年でいいんだ。
それより、俺の着古しで悪いな。
かあさんに、新品を織ってもらえたらよかったんだが・・・・・・」
「ううん! とうさん、かあさん、ありがとう・・・・・・
そして、ごめんなさい」
「私たちは、アメリアの視たスザンナの世界の話をたくさん聞かせてもらうから。
ぜったい、幸せになるのよ!
さぁ いってらっしゃい!! スザンナ!!」
スザンナは、温かく送り出そうとしてくれている両親、アメリアに深く一礼すると、吊り橋に一歩、そっと足をかけた。それから、数歩、橋の状態を確認するようにしてゆっくりと足を進めると歩みを止める。そして、もう一度、里のほうへと振り返った。
「とうさん、かあさん、アメリア・・・・・・ いってきます!
いつか、かならず帰って来るからー!」
3人に向かって声をあげると、大きく手を振った。それから振り返ることなく、吊り橋を、足元を確認しながらゆっくりと歩みを進め、とうとう渡り切った。
対岸にたどり着いたスザンナが里を振り返る。
なぜか、たった今、確かに渡って来たはずの吊り橋は、消えてなくなっていた。
驚いて、峡谷の端にしゃがんで、吊り橋があったと思われる場所で手を振ってみる。
でも、スザンナの手に触れるものは何もなかった。
「私は、もう2度と里に、みんなのところには帰れない・・・・・・
本当にひとりぼっちになっちゃった・・・・・・」
月と星の明かりだけが、スザンナの心に寄り添ってくれているようだった。
そして、その月と星もまもなく消えようとしている。
あと少しで、夜が明ける。
スザンナは峡谷の底を流れる川を道しるべにして、できるだけ峡谷に沿って歩き出した。
太陽は上ったばかり。日の傾きを確認しながら歩く。
1日目では、人の住むような里をみつけることはできなかった。
夜は、父親のマントにくるまって体を丸くして眠った。里の匂いがスザンナを安心させ、深い眠りへと誘った。
2日目もあまり変わらない景色だったが、山をだいぶ下りてきたように感じられる。渓流沿いに歩みを進めることができた。
水の流れもだいぶ穏やかになったようで、川の音が心地よく聞こえる。川辺に降りて、ずっと歩き続けてきた火照った足を水につけると、冷たい水が足にしみる。よく見ると膝から下には、細かい傷がたくさんできていた。生い茂った草や木の枝で、知らず知らずのうちに、切っていたのだろう。
これ以上ひどくならないようにと、丁寧に足を洗う。
飲み水は補充できたけれど、里から持ってきた食料は、ほとんど残っていなかった。
(明日、人の住む里にたどり着くことができればいいけど・・・・・・食べ物を探さなくては・・・・・・)
スザンナは、ゆでたジャガイモを1つ口にした。残っているのは、硬い干し肉が2切れだけだった。
そして3日目、太陽が一番上に上がる頃、丸太小屋を1つみつけた。
人がいるに違いない!!
スザンナは、ドキドキしながら小屋に向かって歩き始めた。
「すみません。誰かいますか?」
扉を叩き、声をかけるが何も聞こえない。廃屋ではなさそうだが、しばらく使っていないようで、小屋の周りには雑草が生い茂っていた。
思い切って、扉に手をかけてみると、ギィーっという音と共に扉が少し開いた。
隙間から小屋の中を覗く。
誰もいない・・・・・・
(やっぱりしばらく使われていないようだわ。今日はここで休ませてもらおう。
食べる物も探さなくてはならないし・・・・・・
屋根のあるところで、休めるのはありがたいわ)
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「とうさん、かあさん、姉さんが丸太小屋をみつけたわ!!
人のいるところまで下りられたみたいよ!!」
アメリアは作業の合間をみては、スザンナの視界に入っていた。
距離は離れているだろうけど、視える景色は鮮明で、スザンナが見ている景色がそのまま視える。自分が、里に残っているのを忘れそうになるくらいだ。
夕飯のときには、アメリアはスザンナの景色を両親に細かく伝えた。姉さんの姿を確認することはできないけれど、傷だらけの足を視たときには、思わず足に手をかけそうになった。
以前よりも、3人でよく話をするようになった。話題はスザンナのことばかりだった。
里では、両親とアメリアの3人の新たな生活が始まった。
スザンナのいない繰り返しの毎日が・・・・・・




