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2つの世界の物語 ~魔力の化け物と呼ばれた少女の物語~  作者: 星あんず
第3章 とまどいの一歩(前編)
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11 隠れ里(2)

「姉さん、お願い! 里を出て!

 里を出て、私に外の世界を見せてほしいの!」


 アメリアの言う姉への願いは、スザンナの思いでもあった。

 でも、それに応える勇気は、まだスザンナにはなかった。



 それから、スザンナとアメリアは言葉を交わすこともなく、スザンナは食事の準備に取り掛かり、アメリアは家の掃除をして、両親の帰宅を待っていた。


 いつもと変わらない毎日・・・・・・

 セフィス様に祈りを捧げて、質素な食事をとる。すっかりと日が暮れる頃には、4人は眠りにつく。


 両親の寝息が規則正しくなったころ、まったく寝つけずにいたスザンナは、そっと寝床から抜け出して外へと出た。



「姉さん、私の願いを叶えてくれる?」


 アメリアも眠れずにいたのだろう…… 少し時間をおいて、家の外へと出てきた。

 

「・・・・・・私が里を出ても本当に大丈夫なの? この世界は大丈夫なの?

 あなたや、とうさん、かあさんに迷惑はかからないの?」


 スザンナはアメリアに振り返って尋ねる。


「この世界が大丈夫かなんて・・・・・・

 里を出たことがない私たちに、わかるわけないじゃない。

 姉さんが出る前の世界と出た後なんて、比べようなんかないもの!!

 でも、とうさんとかあさんのことは私にまかせて! 絶対に姉さんが泣くようなことにはならないから。約束する!」


 スザンナの不安な気持ちを吹き飛ばすかのようなアメリアの笑顔が、月明かりに輝いていた。



「・・・・・・わかった・・・・・・。私は里の外に出る。

 外の世界を見てみる!

 アメリアにも、私の視る世界を見せてあげたい。私が体験することをアメリアにも知ってもらいたい!

 そして、いつか必ずこの里に帰ってきて、いっぱいアメリアに話を聞かせてあげる!!」


 スザンナは自分に言い聞かせるように、静かにそして力強く答えた。

 アメリアの紫水晶のような瞳に、月の光に照らされて喜びの色が映る。


「・・・・・・姉さん・・・・・・ありがとう・・・・・・

 これで、私も覚悟を決められる!

 里を、この世界を、私の命の尽きるまで守るから!

 姉さん、いろんなところにいって、いろんな景色を私に見せて!!」


 2人は、入り口のそばにあるベンチに腰掛けて、上弦の月を見上げた。

 スザンナとアメリアの願いが大きく叶えられていくような月の様だった。



「私とあなたがどんなに離れていても大丈夫なの? 景色は見える? 話はできる?」


「わからない…… 話はできないけど、里の中だったら、自分がそこにいるかのように感じることができるわ。視たいと思えば、姉さんの視界がそのまま私の視界になるの。

 とうさんが、山深くに入っていっても、同じように視えた。

 でも、他の人の視界の中に入ってしまうと自分の視界はなくなってしまうから、その間は、私は動けないし、何もできないのだけどね」


 アメリアは自嘲するようにクスっと笑う。


「アメリアが私の景色を視ているとき、私はあなたを感じることはできる?」


「どうかしら・・・・・・ 姉さんはこれまで私を感じたことはあった?」


「・・・・・・なかった・・・・・・と思う」


「じゃぁ、そういうことよ!」



 アメリアはそう言うと、立ち上がって大きく伸びをする。つられるようにしてスザンナも立ち上がると、月明かりに照らされたアメリアの後ろ姿を目に焼き付けるようにして、いつまでもみつめていた。




 スザンナが「里を出るのだ!」と思うと、2人の姉妹には同じことの繰り返しの毎日でも、とても貴重な時間に思えた。


 両親とも普段よりも多くいろいろな話をしたし、心の底から笑った。会話を楽しむという気持ちなど、これまで一度も感じたことがなかったのに。

 もちろん、姉妹にとっても、2人で一緒にいることこそが、かけがいのない大切な時間だった。


 スザンナは、大切にとっていたほんの少しの染め糸を使って、両親とアメリアのそれぞれの胴結びに、薄黄色の糸で小さな刺繍を施した。セフィス様の花・・・一重の薔薇の花を・・・・・・


 いつか、刺繍を施した胴結びを作ってみたいと思って、スザンナが大切にしまっていた糸だった。

 糸を染めるときに色を定着させるために岩塩を使うから、糸を染めるのは、里で暮らす家族にとって、とてももったいないことだった。

 岩塩は、里からさらにずっと奥の山に入っていかなければ採ることができなかったし、採掘するには危険も伴った。でも、岩塩は、里の生活では、なくてはならない貴重なものだから、少なくとも1年に1度は採りにいかなければならなかった。


 スザンナの染めた糸は、岩塩を運んできた袋の底に残っていた塩を集めて、やっと染めることができたわずかな糸だった。




 そして、明日が満月という日の夜、まだ夜が明けないうちに、スザンナとアメリアはそっと家を出た。一度も足を向けたことのない里の外への道を、言葉を交わすことなくひたすら足を進めた。

 どれくらいで、人びとの暮らす里に着くのかもわからない。でも、スザンナに不安はなかった。これから見ることのできる外の世界に思いを馳せた。


 少しして、里を守っている峡谷にかかる吊り橋の前までやってくると、2人は足を止めた。

 セリス様がお隠れになって以来、誰も渡ったことのない橋だ。

 もしかしたら、崩れているのではないか……? と心配になったが、手入れされていないはずなのに、吊り橋は老朽化することなく、そこにあった。


 セフィス様が、もしかしたら、この時を預言なさっていたのかしら?……


 そう信じられるほど、橋は落ちる心配がまったくない、しっかりしたものだった。



「姉さん…… 元気でね! いっぱい、いっぱい、いろんなところに行って!!」


「アメリア…… 里を出る私を…… ごめんね……」


 スザンナはそれ以上、言葉が続かなかった。

 どちらともなく、お互いのぬくもりを忘れないようにしっかりと抱き合った。

 それから、アメリアがスザンナの頭を抱えるようにして、自分の額をスザンナの額にしっかりとくっつけた。




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