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2つの世界の物語 ~魔力の化け物と呼ばれた少女の物語~  作者: 星あんず
第3章 とまどいの一歩(前編)
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10 隠れ里

スザンナのお話です。

 タミネア王国は、クローネ王国の北東の内陸に位置する山岳地帯にある小国だ。豊富な水源と森林を有するが平地は少ないため、小麦などの農産物はわずかしか収穫できず、食料は広大な穀倉地帯を有する大国のクローネ王国頼みだった。

 タミネアに暮らす人たちは、セフィス様が選ばれた地であるという国に誇りをもっていた。セフィス様は人びとを苦しみから救うために、平穏な地としてこの国を選び、降臨され、人びとを導いたと言われている。

 高地にあるタミネア王国は、天に一番近い国だと思われていた。だからこそ、セフィス様は世界中のあらゆる場所の様子を手に取るようにお知りになることができ、御業(みわざ)を施し、この世界をお創りになったのだという。タミネアの人びとは、今でもセフィス様は山の頂から世界を見守っていると信じている。


 そんな王国の奥深く、峡谷をいくつも越えたところに隠れ里はあった。タミネアの人たちにさえも知られることなく、外部との接触もまったくない孤立した里だった。この里に生まれた者はこの里を一度も出ることなく、ここで生を終える。それが掟だった。


 里では、自分たちはセフィス様の子孫なのだと語り継がれていた。

 そして、里の者がこの里の中だけで生を終えなければならない理由、それは、セフィス様と同じような神の力を持つ者が時折り生まれるからだった。決して、この里以外に知られてはならない秘密だった。


 セフィス様は、自分と同じ血の流れる者がこの地を守ることこそが、世界の安寧につながるとして、自分の家族や血縁者とともに、この地にお隠れになったと、里では伝えられていた。


「神の力は、特別な力。

 この血の流れる者が最後のひとりとなり、我らの血が途絶えるまでこの里を守りぬくことが、里の使命。

 決して外部と交わってはならない。この里を知られてはならない」


 それが、セフィス様が言い残した言葉として、里では伝えられていた。





 長い年月のうちに、生まれる子どもはわずかとなり、里の人びとは少しずつ減り、今ではたった4人の一家族になっていった。スザンナとアメリアの姉妹、そして2人の両親だけが暮らしていた。


 自分たちが食べるだけの畑を耕し、暮らしに必要な家畜の世話をして、糸を紡ぎ、機織りをする。日の出と共に起きて祈りを捧げ、日の入りと共にセフィス様に感謝をして床につく。合間をみては、両親はセフィス様の言葉と世界の成り立ち、文字を教える。

 4人の暮らしは、毎日がその繰り返しだった。この里にセフィス様がお隠れになったときから、里で延々と繰り返されていたことだった。

 そして、その繰り返しも、この4人のうちの誰か、たぶん姉妹のうちのどちらかで、終わりを迎えることは明らかだった。


 4人の中では、妹のアメリアだけに神の力が宿っていた。

 アメリアの神の力、それは、彼女が触れた者の眼を通して、その者の見ている景色を共有できることだった。セフィス様の神力と比べられるはずもないが、確かに神の力だ。

 セフィス様の神力は、景色を共有するだけでなく、その者を通じて、どんなに遠く離れていても、その者のいる場所の音を聞き、会話もできたといわれている。また善悪を見定め、人びとを正しい道に導かれたのだと伝えられていた。


 アメリアができることは、家族の視界を通じて、みんながどこにいるかを知ることくらいだけだった。それでも、父親が怪我をして動けずにいたときに、父の視る景色を通じて場所を特定しすぐ助けることができたから、アメリアにも救いの力があるのだと家族は信じていた。

 スザンナとアメリアの家族は、訪れる終焉の時を、自分たちのうちの誰か一人が迎える日がくることを感じながら、祈りと共に穏やかに暮らしていたのだった。





 いつもと変わらない日常……

 事が動いたとき、両親は外の畑で作業をしており、家の中にいるのはスザンナとアメリアだけだった。


 スザンナとアメリアは仲の良い姉妹だった。肩までの長さのこげ茶色の髪をもつ2人の後ろ姿は、両親でも間違えるくらい、よく似ていた。

 2人が違うのは瞳の色。

 スザンナはこげ茶色の聡明な印象のすんだ瞳を持ち、アメリアは紫水晶のような透明感のある瞳だった。


 成人とされる15歳までに神の力を宿さなければ、力を持つことはないと伝えられていた。アメリアは12歳のときに神の力を宿したが、2つ上のスザンナは、1年ほど前に15歳の誕生日を迎えたときも、神の力が宿ることはなかった。スザンナには力を宿す前兆なようなものもなかったから、もう宿すことはないだろうと、両親に告げられた。

 スザンナはほっとしたような、ちょっとがっかりしたような、複雑な気持ちになったものだった。



 そんな思いを時々思い出しながら糸を紡いでいる姉のスザンナに、妹のアメリアが声を潜めて問いかけた。


「姉さん、姉さんは外の世界、セフィス様の御創りになった世界を1度でもいいから見てみたいって思ったことはない?」


「そりゃぁ、何度もあるわ。里の外の世界ってどんなんだろう? たくさんの人が暮らしているのかしら? 外の里はどんなんだろうって……」


 スザンナは糸車を回していた手を止めて、天井を仰ぎ、それから、ふっとため息をついた。


「でも、私たちは許されていないわ。この世界を守るのが私たちの役割……」


 スザンナは独り言のようにポツリと言うと、アメリアに視線を移して、寂しく笑った。


「姉さん…… 里を出ない?」


 スザンナより2つ下のアメリアが真剣な顔をして、スザンナの顔をじっと見ていた。スザンナはアメリアの突拍子もない問いに、一瞬何を言われているのか、理解できずにいた。


「……なにを……何を言ってるの? アメリア!! そんなのできるわけないじゃない!」


 スザンナは声を小さくして、アメリアをたしなめるように返事をするのが精いっぱいだった。


「姉さんか私か・・・・・・どちらかで、この里の役目は終わるの。

 私には神の力が宿っているから、この里を絶対出てはいけないのはわかる。

 でも…… でも、姉さんなら、この里を出ても影響はないと思うの!」


 アメリアが何かを決心したかのように、スザンナにすがるようにして言葉をつづけた。


「私が・・・・・・、私がこの里を最後まで守る。

 姉さん、お願い! 里を出て!

 里を出て、私に外の世界を見せてほしいの!

 私たちがずっと守ってきた外の世界を・・・・・・

 外の世界を見ることができたら、私、一人っきりになっても寂しくない」


 スザンナは、自分たちが守っている世界を見たい! というアメリアの気持ちを痛いほど理解できた。


 一目でも外の世界を見ることができたのなら、どんなに生きる力になるだろう・・・・・・

 アメリアの力になりたい・・・・・・ いや 私が外に出たいのだ……


 スザンナもアメリアと同じことをずっと思っていたから・・・・・・


 それでも、スザンナはすぐに答えることはできなかった。


 スザンナは止めていた糸車をカラカラと回し始めて、また糸を紡いでいった。

 


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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よろしくお願いします。

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