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2つの世界の物語 ~魔力の化け物と呼ばれた少女の物語~  作者: 星あんず
第3章 とまどいの一歩(前編)
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7 レイス兄さん(2)

 メイちゃんの兄、レイスさんは少し不思議な感じがする まだあどけなさの残る青年だった。

 メイちゃんと3つ離れていると言っていたから、私より1つ上だ。15歳になると大人として扱われるようになるけれど、レイスさんは少し頼りない感じもする。

 

 スーおばさんと同じこげ茶色の髪の毛はぼさぼさだけど、少し動くたびに前髪から見える瞳は優しい色をしている。メイちゃんと私より頭一つ分大きい。


「どこから話せばいいか・・・・・・」


 レイスさんは考えあぐねるように視線を左右に動かした。


 しばらくして、少しだけ背を丸めて、申し訳なさそうにオルト兄ぃの勧めたビスケットを1枚口にする。それからお茶をゴクゴクと飲むと、やっと落ち着いたかのように、私たちにぽつぽつと話し始めた。


 レイスは、12歳から画家見習いとして王都にある工房で働いていた。絵を描くことが大好きだったから、親方や兄弟子から言いつけられるどんな下働きでも、楽しくてしょうがなかった。キャンバス貼りや下地作りでキャンバスに触れているだけでもうれしくて、もくもくと作業に没頭できた。大きなキャンバスづくりをさせてもらえるようになったときには、自分が大きなキャンパスに絵を描く姿を想像して、ワクワクしっぱなしだったという。

 しばらくするとバックの風景を任せてもらえるようになり、親方からもその才能を認められ、かなり目をかけてもらえるようになっていた。


 そして、とうとう、レイスが肖像画を描くチャンスが巡ってきた!

 親方が、ある男爵の肖像画を、「やってみるか?」とレイスに言ってきたのだ。レイスの兄弟子たちを飛ばしての声かけだった。


 画家は、スポンサーがついて一人前だと言われる。貴族から肖像画を頼まれるようになって、独り立ちできるのだ。気に入ってもらえれば、肖像画以外にも様々な仕事が依頼されるようになる。貴族の邸宅や教会の壁画の作成などに名指しされるようになれば、一流画家の仲間入りだ。


 レイスは親方の見守る中、男爵の肖像画を描き始めた。

(チャンスをくれた親方に応えよう! 心を込めて描こう!)そう思いながら一心不乱に手を休めることなく描いた。


 ところが、描き進めれば進めるほど、肖像画の男の姿はどんどんと歪んだ醜悪な姿になっていった。

 親方の顔はどんどんと曇り、とうとう筆を止めるようにレイスに言った。


 結局、レイスはそのチャンスを生かすことができなかった。レイスは肖像画を描けなかった。どんなに描いても、モデルとなる人物とはかけ離れてしまう。

 肖像画を描けないのは、一人前の画家になれないことを意味する。


 スランプ…… この言葉で片付けるには余りにも致命的だった。

 

 絵筆をおき、最初に工房にきたときのように下働きを続けながら悩み苦しんでいた時、メイからの手紙が届いたのだった。


 手紙はレイスをさらに悲しみのどん底にへとつき落とした。


 レイスは親方に暇をもらえるように頼んでみると、親方は、「少し絵から離れてもいいかもしれんな…… また戻ってこい!」と声をかけてくれた。

 レイスは涙が止まらなかった。


 すぐにブリドニクに戻る勇気も持てず、王都の中をあてどもなく彷徨っていた。何もする気が起きなかった。初めて酒を飲んだ。飲みなれない酒におぼれて、部屋にも戻らず、道端で眠り込んでしまうことすらあった。


 そんな自暴自棄になっていたとき、「ブリドニクに御使い様が降臨された!」、「プーレフェミナ・スザンナ」という噂話を酒場で耳にした。


「プーレフェミナ…… スザンナ……?」

 ぼーっとする意識の中、一人つぶやく。


「清らかな女性、神に選ばれし女性! っていう意味らしい。スザンナっていう女性が降臨された御使い様の導きでセフィス様のもとへと導かれたっていう話だよ。

 王都中はブリドニクで起こった奇跡の話で持ち切りだよー!」


 隣に座っていた男が、得意げに教えてくれた。


「こっからが面白いのさぁ そのプーレフェミナ・スザンナ様には子どもがいるらしくてよー 教会も、王国も、先を争って血眼になって探してるらしいぜ。

 どっちが先に見つけるかって、賭けをする奴もいるくらいだ」


(ブリドニク…… スザンナ…… 神に導かれた? かあさんは死んだ……

 かあさんのことに違いない! メイ!! メイはどうしてるだろう!?)


 レイスは一気に酔いが冷めた。


 それからは、人目に付かぬよう、隠れるようにしてブリドニクに戻る道を急いだ。

 道中聞こえてくる話は、どこに行ってもブリドニクの話ばかりだ。隣の国も俺たちを捕まえようとしているという話まで出てくる。いったい、何が本当で何が嘘なのか……

 レイスは不安な気持ちに押しつぶされそうになった。もっと早く、なぜすぐにメイのところに行かなかったんだろう…… メイに会えなかったらどうしよう……

 

 ブリドニクの東門に着いた頃には、王都を出て5日後の夕刻になっていた。割と大きな商隊が慌てるように東門に入るのが見えたので、それに紛れるようにしてブリドニクの街の中へと入ることができた。

 自宅へ行ってみたが、灯りはついていない。メイは森の薬屋というところに、まだいるだろうか……

 ブリドニクの街ではシェルドンがメイを探しているという話も聞こえた。まだ、メイは見つかっていないみたいで、レイスはほっとした。

 いや…… もしかしたらすれ違ったか? 王都に向かっていたらどうしよう。



 レイスは、取り急ぎ街の中に宿を取り、翌朝西門へと向かった。幸い、西門の門番はレイスの知らない者だったから、薬を買い付けにいく商人のふりをしたら門を通してもらえた。メイがまだ森の薬屋にいることを願って、森への道を急いだ。



 メイちゃんは、話の途中から、レイスさんが今、ここにいるのを確かめるようにして、レイスさんの手をずっと握っていた。



「メイ…… 遅くなって・・・ごめん・・・・・・」


 レイスさんは、辛うじて聞き取れるくらいの小さな声で、メイちゃんに謝っていた。


「いいんだよ。兄さんも大変だったんだね…… あたし、ちっとも知らなかった。

 でも、こうやって会えて、本当によかった!!」




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