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27 教会裁判

「さて、このスザンナは、常日頃より、敬虔なセフィス教信者として教会へ通い、セフィス様に祈りを捧げ加護を受け、心穏やかに暮らしていたと聞く。

 ところが、スザンナの夫は亡くなり、他の男も多く誘惑していたとも聞いた。さらには先日、死者を呼び出そうと悪魔と契約して、教会の墓地で悪魔のまじないを行ったというではないか! 

 

 男を死なせ、誘惑する、まさに、男を破滅に導く女である。そして安らかに眠る死者を呼び戻すなど、これらを魔女の行為と言わずになんと言うだろう! 

 まさに、神への冒涜に等しい悪魔の行為である!

 私、審問官は、セフィス様の慈愛に満ちたこの世界の平穏を守るため、セフィス様の御名の下、ここに、女、スザンナの教会裁判を正しく執り行うものとする!」


 誰一人声を出せず、身動きすらできない異様に張りつめた雰囲気のなか、審問官は高らかに声を上げた。


 スザンナをよく知る者は、心優しい朗らかな彼女が魔女であるはずがないと思う。だからといって、自分の身の危険を顧みず反対の声を上げることもできない。そして傷だらけの彼女を見るのもつらすぎて、顔を上げることができずにじっと足元だけを見つめる。


 ある者は、目の前で繰り広げられている状況に何かを期待するような目で見ている。

 また、ある者は、この街に魔女だなんて! と、露骨に嫌そうな顔をしている。

 かわいそうと同情の目を向ける者、大方、められたんだろうよ! と、冷たい視線を向ける者、さまざまだった。




 マックス・シェルドンとエリザ・シェルドンもこの中にいた。


(どうしてこうなった! エリザの仕業か!? なぜ、ここまでするのか! )

 マックスは、わざとらしく同情的な表情を作っているエリザを苦々しく思った。


(自分が次の手を打たないうちに、ここまでやるとは…… 

 一人の女に、スザンナに執着していた自分を許さないつもりなのだろうか? )


 マックスは、隣にいるエリザという女をそら恐ろしく思う。


(舞台の上で縛り付けられたスザンナはぐったりしている。

 傷だらけで抵抗する気力もないのか、あるいは意識を失っているのかもしれない。


 あぁ、スザンナ! なんとかして君を助けてやりたい!

 何か方法はないものか…… だが、こうなっては、もう私でも助けることはできない。

 あぁぁぁあー なぜ、もっと早くにエリザの行動に気づかなかったのか……)


 マックスがどんなに悔やんでも、すでに遅すぎた。




 マックスが苦痛の表情を浮かべている横で、エリザは悲しみにくれる表情をつくりながらも、口角が上がるのを抑えきれずにいた。ハンカチで涙を抑えるふりをして口元を隠す。


(よそ者のくせに、私から男を奪うからこうなるのよぉ…… スザンナ)


(このブリドニクでシェルドン家の一人娘である私には、手に入れられぬものは何もなかった。

 ブリドニクの男もそう……デイビッドを除いて!

 みんな誰もが私を欲していたのに、「俺は漁師じゃないからエリザとは釣り合わないよ」と、デイビッドは笑いながら私から去っていった。

 私から声をかけてあげたのに!!! 本当に好きだったのに……

 その後、しばらくしてデイビッドが連れてきた女がスザンナ! 

 まさか、マックスまでスザンナに執拗に追うなんて思いもしなかった。


 私がちょっと肌を見せるだけで、審問官様さえ、私のお願いをきいてくれるのよ。

 思い知るがいいわ…… 女の格の違いを!

 私から男を奪った罰を死んで償うがいいわ! スザンナ)


 これから起こることに笑いが止まらないくらいに、エリザの心は躍っていた。




 マルルカは、スザンナの姿を見たとき、声を上げることすらできなかった。オルトから魂のないただの肉体だと言われてはいたが、抵抗することもなく丸太に縛り付けられて、大衆の目にさらされているスザンナを目の前にすると涙が出てきた。


 声を出しちゃいけない! そう思って、あわてて口を押える。


(なんにも悪いことしてないのに! どうしてこんな目にあわされなくっちゃいけないの?? ひどい……ひどすぎる!!)


 オルト兄ぃがぎゅっと手を握ってきた。

 あっ! また、魔力が暴走しそうになったんだ…… 

 気持ちを落ち着けよう。 


 マルルカは、ふーっと大きくゆっくりと息をする。体の中でざわざわしていた魔力が少し落ち着いた。



 集まった街の人たちが、それぞれの思いをこころに秘めたまま、教会裁判は行われようとしていた。



「私は、この女が魔女であるという証拠を皆に見せることにする。

 ひとつは、この女の肩にある魔女の印!

 遠くからは見えないだろうが、明らかにこれは、女が悪魔と契約を交わした印であることを、審問官である私が確認した」


 審問官はそう言うと、まったく動かないスザンナの肩をむき出しにした。

 舞台の一番前にいた男が身を乗り出すようにしてスザンナの肩をじっと見ている。


「ほんとうだ!! 確かに、右の肩に黒いほくろのようなものがある!」


 男が集まった人たちに聞こえるように叫ぶと、広場はざわざわとしてきた。

 審問官は、男の声に満足そうにうなずく。


「そして、遠くからも見えるこの女の姿、この傷ついた体こそが魔女であるという証なのだ!」


 審問官は後ろに控えていた審問官に目を向けると、ひとつの鞭を手渡された。


「この鞭は、セフィス様の加護を確認するものである。本当に悪魔と契約しているかどうか、最後に確認するものだ。セフィス様に信仰を誓った者を傷つけることは決してない、神の試練である。


 私はセフィス様に、加護ある者を傷つけることのないように祈ったのちに、セフィス様の鞭でこの女の体に聞いた。

 女の体は傷ついてしまった…… 

 私は、さらに一晩中、セフィス様に祈りを捧げた。魔女でないのなら、鞭で打たれた傷をお治しいただくようにと…… 傷は、このとおり治ることはなかった。

 その結果が、今、皆の目の前にある この女の体なのだ!」


「魔女だぁ……」 誰かがつぶやいた。

 それが伝染するように、集まった人たちのあちこちから声があがり、それはうねりのように広場に広がっていった。


「魔女だー! 魔女をこの街から追い出せー!」

「よそものの女めぇ! 魔女めぇ!! 夫を殺し、俺たちをたぶらかしやがって!!」

「女を殺せ! 魔女を殺せ!!」



 広場は異様な殺気におおわれていた。

 審問官は、街の人たちの叫び声に煽られたかのように高揚し、頬を赤く染めて、手にしていた鞭を両手で空高く掲げたのだった。



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