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2つの世界の物語 ~魔力の化け物と呼ばれた少女の物語~  作者: 星あんず
第1章 はじまりの1歩
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3 マルルカ回想

 最期に見えたのは、ハリーとデレクのとびっきりの笑顔と夜空に浮かんでる三日月。


 真っ暗な奈落の闇に吸い込まれていく。



 ハリーとデレクと3人で、魔王を倒すために出たこの旅が、今までで生きてきた中で一番あたしが幸せな時だったと思ってた。


 生まれた時から膨大な魔力のせいで、あたしを産んだ親は、あたしを孤児院に捨てていったらしい。泣くたびに、あたしの中の魔力が暴走して周囲に魔力の嵐を起こし、被害を及ぼしていたと聞く。孤児院では扱いきれず、当時、当代一の賢者と呼ばれていたメザク様にあたしは預けられた。

 ようは孤児院からも捨てられたっていうこと……。


 赤ん坊のときにはメザク様の結界の中に閉じ込められ、物心つく頃には、自分の魔力を抑え込む方法を教え込まれた。もともと膨大な魔力があったのに、年を重ねるごとに魔力はどんどん増えていく。体の奥からどんどん沸き立つ魔力を抑え込むのに体力全部を奪われていた。だからちっとも体はおおきくなれなかったんだって思う。


 抑え込んでいる魔力が体中暴れまわってるみたいにフツフツと熱を持って、あたしはいつもフラフラ。

 ちょっとでも気を抜くと抑えきれなかった魔力が、嵐が吹き荒れるみたいにあたしの周囲の物を破壊する。

 メザク様から魔法を教えてもらえるようになった頃には、今度は、抑え込んでいる魔力を使えって言われた。それは水がめから直接カップに水を注ぐようなもので、そうそうできるもんじゃない。

 最初はぜんぜん魔力のコントロールができなくて、火種を作ったつもりでも一部屋燃やしてしまったりして、メザク様の結界の中で魔法の練習をした。だからいつも自分の魔法で自分を傷つけることになった。毎日、体がボロボロになっていた。


 支援魔法や回復・治癒魔法を教えてもらう頃には、中級から上級の攻撃魔法も教わっていて、結局、自分の体を自分の魔法で傷つけていた。でも、それを自分の治癒魔法で癒して、ダメージが強くならないように自分に支援魔法を使う。そうやって、魔法をいっぱい覚えていった。

 ぐっすりと寝る時間なんかなかった。熟睡すると魔力が暴走するから、ちょっとした物音とかですぐに目を覚ました。


「マルルカにはいくらでも詰め込めるよ。楽しいねぇ」って、メザク様はヒャヒャヒャって笑っていた。

 あたしは、メザク様のただの実験動物だった。


 14歳になった今でも、6歳くらいの子どもと変わらない大きさ。さらに、無理やり魔力を抑え込んでいるせいか、身体中ぶつぶつとあばたができていて、髪の毛だって、フワフワとした産毛のような毛しか生えてこなかった。

 人の形をした なにか……にしか見えなかった。



 ときどきメザク様を訪ねてくる人たちがあたしの姿を見ると、誰もがギョッとした顔をする。


「こいつは魔力の化け物じゃよ。おとなしい子じゃから気にせんでもいいさぁ。

 身の丈を超える魔力を持つ者はこうなるんじゃよ。興味深いだろう?」


 メザク様はいつもそう言って、来る人来る人にあたしを見せた。

 あたしを見る人の目には驚きと好奇心、口元にはあざけりと冷笑、失笑……


 人の目が怖くて、外に出るのが怖くて、メザク様の家の中から出ることはほとんどなかった。

 こんな醜い姿なんて誰にも見られたくなかった。




 1年前、ハリーとデレクがメザク様に魔王討伐の同行をお願いにきたとき、メザク様はあたしを連れて行くように言った。

「爺さんのわしより、若いこいつのほうが魔力も体力があるだろう。精鋭の魔法使いや神官10人、いや100人連れて行ってもこいつ1人には適わんじゃろうて。なんせ魔力の化け物だからな……」


 たしかにメザク様の魔法は、すべて教えてもらっていたし、いっぱい魔法を使っても魔力がなくなることなんか、一度もなかった。

 あたしが魔力の化け物だから……




 ここから連れ出してくれるハリーとデレクは、あたしには神様に見えた。

 この人たちの力になろう! って心から思った。


 メザク様との暮らしは、毎日つらくて苦しかったんだと思う。

 そう思えるようになったのは、ハリーとデレクと冒険の旅をして、いろんなところに行って、一緒に戦ってくれてたから。

 

 冒険の旅は、楽しかったなぁ……

 2人が戦いやすいように支援魔法をかけて、傷ついたらすぐに回復魔法をかける。

 たくさんの魔物たちに囲まれたときには、あたしが範囲攻撃魔法で大方やっつける……


 そうやって、3人でうまく連携がとれるようになっていった。



 あたしの体のぶつぶつやポヤポヤの髪の毛が見えないように三角帽子やローブを揃えてくれたのはハリー、「腹いっぱい食え」って言ってくれたデレク。

 なんかとっても安心した。


 夜は、ベッドで眠れる心地よさ、

 食べたことのない料理や、それに甘いお菓子!

 メザク様は毎日激マズスープだけだったから・・・・・・


 それに、「マルルカはすごいなぁ~」って2人ともとってもほめてくれた。

  


 旅の途中で会う女の子はみんなかわいかった。あたしもかわいいドレスを着てみたいなぁって、何度も思った。 でも、こんなあたしに似合うはずなんかない。

 そんなの自分でもわかってる・・・・・・


 ハリーに醜い、不細工、ちんくしゃって言われても、しょうがないって、自分でも思う。



  




 メザク様、ちゃんと食べてるかなぁ?


 いじわるだったメザク様の顔を最期に思い出したのは、なんでだろう???




 真っ暗闇の中にのまれて、あたしは意識を手放した。








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