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19 でっちあげ魔女 本当の悪魔?

 私がお風呂から上がる頃には、すっかりと夕ご飯ができていた。

 メイちゃんの様子を窺うと、私がよく知っている、いつもの明るくて元気なメイちゃんだった。

 叫びながら入ってきたメイちゃんは夢だったんじゃないか? って思うくらい……


メイちゃんを入れて3人で食事をする。

 ここにメイちゃんがいるのって不思議な感じ。


「すごい! これ、オルトさんが全部作ったの? お店で食べるみたいなごはんだよー」


 おかあさんのことも、助けてっても一言も話さない。


 何? これ・・・・・・オルト兄ぃの魔法?

 こんな魔法ってあるの?

 でも、オルト兄ぃが魔法をかけてるのは全然わからなかった。

 

「メイちゃん、おかあ……」

 メイちゃんにおかあさんのことを聞いてみようとしたら、オルト兄ぃは私を睨んで首を振った。話したらダメみたい。

 ニコニコとくるくる表情を変えながら、「おいしぃー」ってよく食べて、よくしゃべる、いつものメイちゃん。


 食事を終えて、私は片づけをしてお茶をいれるのに席を立った。片づけとお茶をいれるのは私の役割だ。


「メイちゃん、どうしてここにきたのか教えてもらおうか?」


 ポロ茶をオルト兄ぃとメイちゃんに差し出して私が席に着くと、オルト兄ぃがメイちゃんに話しかけた。


「お願い、おかあさんを助けて! 街の人たちは誰も助けてくれなくて……

 あたし、マルルカちゃんたちしか思い浮かばなくって……」


 メイちゃんは見る見るうちに涙をあふれさせて、オルト兄ぃの問いに答えるように、泣きながら話し始めた。


「今日、教会の審問官が来たの…… おかあさんをつかまえるって!」

「えっ!!? なんで?」


 私は思わず持っていたカップを落として割ってしまった。

 審問官っていう人は堕落している人を罰するって、アル兄様が言ってた。


 あんなに優しいスーおばさんなわけないじゃない!! 

 教会にだって毎週お祈りに行ってるのに!

 絶対間違ってる!!


「マルルカ、落ち着いて。メイちゃんの話を聞こう」


 オルト兄ぃは私にそう言うと、私が割ってしまったカップをさりげなく魔法で消して、何もなかったようにしている。

 メイちゃん、オルト兄ぃが魔法を使ったことに全然気が付いていない!

 私もオルト兄ぃと同じように何もなかったように席を立って、もう一度、自分のためのポロ茶をカップに入れてきてメイちゃんの隣に座った。


「おかあさんがね、悪魔のおまじないをしたって言うの・・・・・・

 魔女なんだって・・・・・・魔法を使ったからって」


 えっ? 私のせい? 私が自分で気づかないうちに刺繍に魔力を込めちゃったから?

 それを審問官の人が察知したの?


 どうしよう・・・・・・ 体の震えが止まらない。

 オルト兄ぃにそっと視線を送ると、オルト兄ぃは私の考えていることがわかったのか、違うと言うように目をつぶって首を振った。


「悪魔のおまじないって、何をしたって言ってたの?」


 オルト兄ぃがメイちゃんに静かに声をかける。

「昨日の夜、教会の裏の墓地のおとうさんのお墓で、おかあさんがおとうさんの魂を呼ぶおまじないをしてたって言うの! 

 おかあさんがしていないって言っても信じてもらえなくて・・・・・・

 審問官の人が、おとうさんのお墓にあったっていう、魔法の模様を書いた紙を見せて、『デイビッドと書いてあるのが証拠だ』って。

 そのうえ、おかあさんの部屋から、おまじないの言葉を書いた紙が出てきて・・・・・・

 おかあさん、泣いちゃって・・・・・・そのまま連れていかれた・・・・・・」


 メイちゃんは、ずっとうつむいたまま、ポロ茶のカップを握りしめて泣いていた。


「近所の人が大勢集まってきたから、『おかあさんを助けて!』ってお願いしたけど、誰もなんにも言わなくて・・・・・・

 八百屋のおばさんが『もうだめだ。早くお逃げ!』ってこっそりあたしに言ったの。あたし行くところもないし・・・・・・ひとりぼっちになっちゃった」


「メイちゃん、つらかったね。よくわかったから、今日はもうおやすみ。

 あした、おかあさんに会いに行こうね」


 オルト兄ぃが声をかけると、メイちゃんは無表情にコクンとうなずき、すっと立ち上がった。そのままお部屋を教えているわけでもないのに、だまって私の部屋に入っていった。



「オルト兄ぃ! どうなってるの? メイちゃんに魔法をかけたの? 

 でも、あんな魔法、私知らない」


「マルルカは知ってるはずだよ? だって魔王城でアル兄ぃにかけられてたでしょ?」

 私がアル兄様にかけられた?


 あぁ…… 鏡の間のときのこと……

 あのときは怖くて混乱してて……でも、アル兄様の声だけは、聞きたくなくてもはっきりと頭の中に響いてきた。そのうちずっと声を聞いていたい、私のためだけに声を聞かせてほしい……


 恐怖と狂気・・・・・・ 


 アル兄様の声に抗うことができなかった。

 辛うじてわずかに心の底に残っていた正気。


「思い出した? ある意味、あれとおなじさ! 

 

 あぁ、勘違いしないでね。

 なんとか正気でいられたのは、アル兄ぃの魔法のおかげだからね!

 マルルカの心を守ってくれてたんだよ。 

 アル兄ぃの本当の姿を目にして正気でいられる人間はいない。みな魅了され狂う」


 え? アル兄様が私に魅了をかけたわけじゃなかったってこと?

 だから、本当の姿では都合が悪い、暮らしにくいって言うことだったんだ・・・・・・


 私は本当に、アル兄様のことを何も知らない!


 私は改めて、オルト兄ぃの顔をじっと見る。

 アル兄様もそうだけど、オルト兄ぃも、さらっととんでもないことを言う。

 オルト兄ぃは、あいかわらず、いたずらっ子のような面白そうな顔をしてニヤリと笑った。


「アル兄ぃと違うのは、僕がメイちゃんの湧き出ていた感情をちょっと食べてた!

 それで、メイちゃんの気持ちが落ちついたってことだよ。

 ついでに、眠るベッドを教えてあげただけ」


 オルト兄ぃは、手品の種明かしを自慢げに言う子どものようにケラケラ笑っている。


「感情を食べた?・・・・・・」


 夜になって気持ちいい風が入ってくるのに、じんわりと汗ばんでくる。

 魔王城のときのことを思い出したから? 心がざわざわしてきた。

 これ以上、この話をオルト兄ぃに聞いたらダメだ!! 怖い・・・・・・



「スーおばさんは魔女・・・・・・なの?」


「いや、違うよ。魔力なんかもっていない。ノージスに暮らす普通の人間だよ。

 悪魔のおまじないも魔法の模様なんてものも、この世界にはないさ。

 どんなものかは知らないけど、大方、教会の誰かが適当に作ったんだろう!

 力のない者に、死んだ人間の魂なんか呼べやしないよ。

 もし仮に呼べる者がいたとしても、僕にはすぐわかる。


 だから、スザンナさんが悪魔のおまじないをしたっていうのは審問官のでっちあげだよ。

 罠をしかけられたんだろうね。きっと」


「そんな・・・・・・! スーおばさんはどうなっちゃうの?」




「魔女だと言われれば、魔女裁判にかけられる。そして確実に魔女と認定されて処刑される」



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