17 すてきなプレゼント
エリザさんがお店を訪れてから、街の人たちからの嫌がらせは嘘のようになくなった。
スーおばさんやメイちゃんがお店に買いに行っても、ちゃんと新鮮な果物や野菜を売ってくれるようになったし、悪い噂もピタッと止まった。
街の女の人たちも「勘違いだったようだよ、悪いことしちゃったね」と言って、前のようにスザンナさんのお店に買いに来てくれるようになった。
シェルドンさんは、あれからお店に来ることもなくなった。
「マルルカちゃんがエリザ様に言ってくれたからだよ! すごいよ、マルルカちゃん」
メイちゃんはそう言ってくれたけど、スーおばさんは少し困った顔をしていた。
「これからは、言い方に気をつけないとダメよ!
何かあってからじゃ遅いのよ。取り返しのつかなくなることだってあるわ。
あなただって私の大切な娘なんだから!」
スーおばさんはきつく私に注意すると、それから、「あなたに何もなくて本当に良かった!」って
優しく抱きしめてくれた。本当にわたしのことを心から心配してくれてるんだって思ったら、なんだか温かい涙が出てきた。
スーおばさんとメイちゃんと一緒に、私はとっても穏やかな時を過ごしていた。
スーおばさんからお料理を教えてもらったり、刺繍をしたり、メイちゃんと街の中を散歩したりして過ごした。
港にも行ってみた。船がたくさんあって、のんびりと男の人たちが船の手入れをしていた。漁師さんたちは朝早くから漁に行くらしい。朝はすごく活気があるってメイちゃんが言ってた。
フィッシュマーケットにも行った。いろんな種類のお魚が並んでいる。
私たちが買ったのは、貝類や小さなお魚。スーおばさんはトマトと一緒に煮込んでおいしい魚のスープを作ってくれた。
お店がお休みの日には、スーおばさんとメイちゃんと一緒に朝から教会にお祈りに行った。
教会の中に入るのは初めてだ。ヤービスでも教会に行ったことはない。
お店の近くの教会は、ブリドニクで一番大きい広場にある教会だ。大きな扉を開けると、祭壇のきれいなステンドグラスが目に入る。ステンドグラスは一重の白いバラがモチーフになってきれいな模様を作っていた。外の明かりを受けて優しい光で祭壇を照らしている。
教会の中は、けっこう人がいっぱいいて、みんな真剣に神父様のお話を聞いている。私たちも中ほどの席に座って、神父様のお話に耳を傾けた。
セフィス教は、良い行いをすれば、その次に生を受けたときに幸せになれるって教えているらしい。だから良い行いをしましょうって。今つらい思いをしている人は、前世で悪いことをしてきた罰だから、セフィス様に祈りましょう、そうするとセフィス様の祝福を受けて魂が救われるらしい。
私だったら、今、幸せになったほうがいいのに……って思うけど。
それを言ったらきっとまた怒られると思って、黙っていることにした。
それから、一人ずつ祭壇の前に行き、神父様から祝福を受ける。
神父様が跪いて手を合わせている人たちの頭に手を置いて、「神の御名の下に、祝福を」と言う。
私もまねっこをして同じように跪いて手を合わせてみたけど、神父様に頭の上に手を置かれても特別何も感じなかった。アル兄様のときには、ぽかぽかしてとても気持ちよかったのに・・・・・・
アル兄様が、神父様をやったほうがぜったい効果がある! と思った。
「気持ちが清らかになるでしょ? マルルカちゃん」 スーおばさんが言った。
そうは思えなかったけど、「うん、すっきりしました」って私は言った。きっと正直な気持ちを言ったらスーおばさんが悲しい気持ちになると思ったから。
思ったことを何でも口にしちゃいけない。なぜか「神は方便さ。嘘と騙し」って言ってたアル兄様の言葉を思い出した。アル兄様は神様を信じてないのかな?
あっと言う間に約束の1週間が過ぎて、オルト兄ぃがスーおばさんのお店にやってきた。
「マルルカ、ちゃんとスザンナさんの言うことを聞いて、いい子にしてたか?」
オルト兄ぃは私を子ども扱いしていると思う。アル兄様もだけど……。
「マルルカちゃんは勇気のある子だわ。私を助けてくれたのよ。ただちょっと怖い物知らずのところがあるから、ハラハラしたけど!」
スーおばさんは笑いながらオルト兄ぃに言った。
それから、オルト兄ぃは持ってきた薬草茶やサボンをスーおばさんに卸し、次に必要になりそうなものを聞いていた。
1週間だけだったけど、このお店を離れるのがちょっと寂しい。
いろいろと不便なこともあった――1回しか行水できなくて体を拭くだけだったり、広場まで水汲みに行かなくっちゃならなかったり、それにミルクティと硬いパンの朝ごはんだったけど、とっても楽しかった。
刺繍だって覚えたし、お料理だって少しできるようになった!
「マルルカちゃん、またいつ来てもいいのよ。あなたは私の大事な娘、家族なのだから」
スーおばさんはそう言って、私をギューっと抱きしめてくれた。
「スーおばさん! ありがとう。 大好き!
メイちゃんも大好き!!」
「これはマルルカちゃんに……」
スーおばさんはそう言って、私に淡いピンクのリボンを渡してくれた。よく見ると、同じ色の糸で一重のバラがリボンに刺繍してある。
「とてもきれい!! もらってもいいの?」
「マルルカちゃんに似合うと思って刺繍したのよ。これはメイから・・・・・・」
スーおばさんがピンクの一重のバラを刺繍したハンカチも渡してくれた。
メイちゃんが刺繍してたのって、私のハンカチだったのね! 心がぽかぽかしてきて涙が出てくる。
「すごくうれしい。 本当にありがとう。私お返しできるものがないわ」
「あなたが私たちを助けてくれたお礼よ。いえ、大事な家族への思いを伝えたかっただけ」
スーおばさんはそう言って、私の涙をぬぐってくれた。
刺繍を教えてもらったからわかる。使う布や糸を選んで、モチーフを考えて、一針一針丁寧に糸を通していく。喜んでもらえるかな? 使ってもらえるかな?って思いながら手を進めていく。
刺繍は愛情がいっぱい詰まった贈り物。
「マルルカ、最高の贈り物をもらったんだね」
もらっていないオルト兄ぃまで嬉しそうにしている。刺繍ってみんなを幸せにするんだぁ。オルト兄ぃに私が刺繍した手ぬぐいをプレゼントしたらもっと喜んでくれるのかな? そう思うと、早く渡したくなってきた。
「スーおばさん、本当にありがとう。私を娘のように思ってくれて……
私、おかあさんができたみたいだった」
スーおばさんはもう1回ギューっと私を抱きしめると、「あなたのブリドニクのおかあさんだから!」って笑って言った。
「オルト兄ぃ、このピンクのリボンを私の髪に結んでくれる?」
オルト兄ぃは、しょーがないなって言いながら、とてもきれにリボンを結んでくれた。




