16 マックス・シェルドン
「エリザめー、俺の邪魔をしおって!」
スザンナの店での今朝の出来事を思い出すたびに腹が立つ。後少しで、スザンナをモノにできるものを。
マックス・シェルドンはブリドニクの中腹にある屋敷に帰って来るなり、召使いがいるのも無視して、壁を思いっきり蹴飛ばした。「酒だ!」と怒鳴ると、リビングのソファに深く腰掛けて頭を抱え込んでしまった。
「ちくしょー…… せっかくうまくいっていたものを……」
運ばれてきた酒を煽るように飲む。
シェルドン家はブリドニクで唯一家名を与えられた網元の家だった。その家の一人娘エリザの婿として迎えられたのがブリドニクの漁師の息子だったマックスだ。エリザは美人だし色っぽかったから、野心家で女好きのマックスにとってこの結婚は最高の結果だった。
マックスは漁師の息子として網元の家に婿入りしたけれど、漁師を生業にするつもりはまったくなかった。
ブリドニクの豊かな漁場と豊穣な土地と森、そして入り江のような地形は天然の要塞だ。ここは絶対繁栄する! マックスの勘は見事当たった。
ブリドニクの小麦は質がいいため、隣りの街ではよく売れた。少しずつ販路を広げて王都にまでブリドニクの小麦の名が知れるようになった。それを知った領主や王国から援助金を受け取り、ブリドニクの街を整備していった。領主がブリドニクへの道を整備すると、たくさんの人がブリドニクへ小麦をはじめ、魚の加工品などを買い付けに来るようになった。もちろん、新鮮な魚料理はここでしか食べることができない。それに伴うように街は発展し始めて、セリス教が大きな教会を立てたり、領主や国が役場を立てたりして、どんどんと街にお金が流れるようになったし、人も増えてきた。
最近は、ブリドニクの港を漁港としてだけでなく、交易船が停泊するような港にしようとしている。
そんなマックスに水を差すようなことを言う男が一人いた。スザンナの夫であったデイビッドだ。
「街の発展を急ぐな。ブリドニクの街と自然の美しさこそ宝だ。水の確保を確実にして、それで賄えるだけの街の大きさにしなければならない」
デイビッドの言うことは正しかった。
港に接するわずかな平地の開発だけなら問題なかったが、接している3方の丘を開拓して、木々を伐採し始めると水不足の問題が生じた。街の中の井戸の水が少なくなってしまった。丘を開墾すれば遠くの山から水路を作るしかなかった。東西の入り江の自然を残して北側の丘を開拓しながら水路を作った。それに10年もの歳月を要した。
デイビッドは西の森のそばで薬草を数種類ほど育てている男だった。それを煎じて飲んだり、傷のある患部に貼ったりすれば、痛みを和らげてくれるから、街の人には重宝がられていた。街の一角に小さな店を作って薬草を売り、ちょっとした茶器や手ぬぐいを仕入れて、小さな商いをしている男だった。
そのデイビッドが連れてきた嫁がスザンナだった。
スザンナは清楚な少女のような女だった。マックスはスザンナのような女は初めて見た。素朴さと清らかさを持ち合わせたスザンナを汚してみたい、自分の色に染めてみたい、そう感じさせる女だった。その思いは、スザンナが子を持っても、何年たっても変わることはなかった。
他人の女房に手を出したことはこれまでもないし、一人の女にこんなに執着したのは、マックスにとって初めてだった。
デイビッドの息子が画家になるために、12歳になって家を出て行った。それでもスザンナに対する想いは変わらないし手に入れたいと思った。スザンナは素朴さと清楚さに加えて、ほんの少し色気を感じるいい女になっていた。
マックスは決めた。デイビッドを殺ると・・・・・・!
デイビッドはブリドニクの発展に陰ながら助力してくれていたが、ここまで発展した街には、彼の助言はマックスにとっては邪魔でしかなかった。
マックスは隣街のゴロツキにデイビッドの殺害を依頼し、その報酬を払うといって、ゴロツキも毒入りワインで殺した。後は、悲しみにくれるスザンナを慰め、手に入れるだけ……のはずだった。
しかし、慰めの言葉もスザンナにはまったく効果がなかったから、少し痛みを伴うがほんの少しだけ嫌がらせをすることにした。これで、スザンナは落ちる! と・・・・・・
「まったく、なんでスザンナに関してはこうもうまくいかないんだ!」
作戦をまた、練り直すしかない。
それにしても、スザンナのところにいたマルルカという少女、あれも上玉だ。2人まとめて面倒をみてやることにしよう。スザンナの娘メイもいたな・・・・・・
さて、どうするか・・・・・・
マックス・シェルドンは、嬉しそうに酒の入ったグラスを揺らして酒の香りを楽しんだ。




