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12 ブリドニク(3)

「スザンナさん、よろしくお願いします」


「娘がそういうことを言うもんじゃないわよ。おかあさんって呼んでももいいのよ」

 スザンナさんはクスっと笑う。


「お・か・あ・さ・ん・・・・・・」ちょっと恥ずかしい。


「おばさん、スーおばさんでもいいですか?」


「ウフフ…… 好きに呼んでいいのよ。ちょっとからかっちゃったわね

 メイは教会に勉強をしに行っているけど、お昼過ぎには帰って来るわ。

 さっそくだけど、マルルカちゃんにはお店にある商品を少し教えておくわね」


 それからスーおばさんからいろいろとお店の主な品物について教えてもらった。

 私は絶対忘れない! と思って、真剣に頭の中に叩き込んでいく。メザク様の修行やオルト兄ぃの特訓を思うとこれくらい全然大丈夫だ。スーおばさんはとっても優しく丁寧に教えてくれる。


 午前中は、傷薬を買いに来た人が1人だけしか来なかった。


「最近はお客さんが減っちゃったのよ。アルの薬やお茶を買いに来る人くらいかな……

 アルのお薬はとてもよく効くし、この店にしか品物を卸していないから、必要な人が買いに来てくれるのよ。それがなかったら、本当に大変だったと思うわ」


 スーおばさんはポツリとつぶやくように言った。




 お昼を過ぎるとメイちゃんが帰ってきた。


「マルルカちゃん!! どうしてまだいるの? アルさんもまだいるの?」

 メイちゃんがキョロキョロしている。メイちゃんがアルさんを大好きなのは私でもわかる。本当にメイちゃんってかわいい。


「マルルカちゃんは1週間だけうちの子になったのよ。メイも面倒見てあげてね」


「そうなの? マルルカちゃん、うちにいるの?? 一緒にいるの?

 やったー! やったー! ずっと一緒だ!!」

 私がコクンとうなずくと、メイちゃんは飛び跳ねて喜んでいる。


「メイ、ちょっと静かにしてちょうだい。

 マルルカちゃんと一緒に夕ご飯のお買い物に行ってきてくれる?

 少しだったら、2人で寄り道してもいいわよ。特別よ」

 メイちゃんはずっと飛び跳ねている・・・・・・


「スーおばさん、アル兄様から、これ私の食費と面倒をかけるからって・・・・・・」

「これは受け取れないわ。娘からお金を取るって変でしょ?」

 私がアル兄様から預かっていたお金が入った封筒を渡そうとすると、スーおばさんは受け取らないで、首を振りながら笑いながら言った。


「マルルカちゃん、早く行こうよ! 私がこの街を案内してあげるから~」

 メイちゃんはもうお店の外で待っている。


「メイはしょうがない子ね。これは、今日買ってきてほしいものを書いたから、メイと一緒に買い物をお願いね」

 スーおばさんは、私にメモとお金を渡すとメイちゃんと私を送り出してくれた。




 メイちゃんと一緒に近所の八百屋さんに入った。

 新鮮な野菜がお店いっぱいに並んでいる。時間がまだ早いから品物がいっぱい揃っているそうだ。


「おばさん、ジャガイモとニンジン、それとりんごをちょうだい」

「はいよー。 これでいいかしら?」

 お店の奥のほうからおばさんがやってきて、野菜をメイちゃんの持っている買い物かごに入れてくれた。


「メイちゃん、これしなびてるよ。 リンゴは傷んでいるとこあるし、ジャガイモは芽が出てる」


 おばさんがメイちゃんのかごに入れてくれた野菜はどれも古くて、お店の前に並んでいる新鮮な野菜とはまったく違うものだった。


 シーッ! メイちゃんは私に口を閉じるように言って、

「ありがとー じゃぁまたねー」と、八百屋のおばさんにお金を払ってから元気よく声をかけると、私の手を引っ張って速足で店を離れた。


 お店のあった通りから一本道をずれて人通りの少ないところで足を止めると、くるっと振り返り、私を睨みつけるような顔をする。その目には涙があふれてて、今にも零れ落ちそうなのを必死にがまんしているメイちゃんがいた。



「……ここ最近こうなの。

 ……売ってくれるお店はまだいいほう。ぜんぜん売ってくれないお店もあるから。

 絶対、シェルドンさんが裏でいじわるしているのよ! あたしだってわかる!

 おかあさんは、こんなこと他の人に言っちゃいけない、知られちゃいけないって言うの。

みんなこころが痛い思いをしているから、もっと良くないことが起きるからって。

 私たちががまんすればいいって……


 でも、おかあさんだってものすごくつらい思いをしている。だって毎晩、泣いているんだよ。

 あたしがベッドに入ってからしばらくすると、毎晩 おとうさんの名前を呼んで、泣いてる……

 街の人は誰も私たちを助けてくれない。おかあさんだって、心の中じゃぁ、誰かに助けてほしい、わかってほしいって思ってると思うの。

 そうじゃなきゃ、昨日、マルルカちゃんたちと外にご飯なんか食べにいかなかった!

 マルルカちゃんを家に入れなかったと思う!

 マルルカちゃん、お願い! おかあさんを助けて!!」


 メイちゃんは一言話始めると、涙をぽろぽろ流しながら堰を切ったように話した。明るくて元気な女の子だなって思ってたけど、こんなにおかあさんのことを心配して、つらい思いをしてたなんて……

 私はぜんぜん思いもしなかった。

 おかあさんに心配をかけたくなくて、少しでもおかあさんに元気になってもらいたかったんだ。


 メイちゃんもすごくつらい思いをしている・・・・・・胸が締め付けられるように痛い。

 私、何にもわかってなかった。


 アル兄様もオルト兄ぃもメイちゃんたちがこんな思いを抱えてるってわかってて、「かかわるな、何かあったら逃げてこい!」っていったの?


 悪い魔物がいたらやっつけてきたように、悪い人もやっつけられたらいいのに……

 私が助けてあげられるはずもなかった。


 私ができることってなんだろう……?



「メイちゃん。私何もしてあげられないかもしれない・・・・・・ 

 でも、私だったらきっと新鮮な野菜やお肉を買ってこれると思う!!

 今できることは……それくらい」


「・・・・・・マルルカちゃん! お願い! 私の代わりにお買い物をお願い!」

 メイちゃんは顔を上げて私の手をぎゅーっと握って最高の笑顔をくれた。

 メイちゃんの笑顔がうれしい。



 私はメイちゃんから買い物かごを受け取ると、少し離れたパン屋さんに一人で買い物にいくことにした。


「あら、見かけない子だねー?」

 パン屋のおばさんが私に話しかけてきた。


「最近こっちに来たの。お使いでパンを買いに来たんだけど、ライ麦パンはまだありますか?」

「あるよー。1つでいいのかね? こっちのパンはおまけだよ!

 またきておくれね」

 おばさんは、ふかふかの小さな白パンを1つおまけしてくれた。


「メイちゃん、ライ麦パン買えたよー 白パンもおまけしてもらっちゃった。

 これからは、私に買い物を任せて!」


「すごい!! マルルカちゃん、ありがとう!

 ちょっと前まではみんなすごく優しかったんだ・・・・・・」


 メイちゃんはすごくうれしそうに笑ったのに、すぐに笑顔が消えた。


 それから、私は違う八百屋さんで新鮮なリンゴと野菜を買いにいく。パン屋さんの時と同じように最近越してきたのだと話すと、リンゴを1つおまけしてくれた。


 みんな意地悪な人になんか思えないのに・・・・・・




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