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11 ブリドニク(2)

「マルルカ、私は戻らなくてはならないから、ここでお別れだ。

 1週間後、オルトが迎えに来るから、それまではスザンナの言うことはちゃんと聞くんだよ。それから、私との約束は守ること! わかるよね?」


「アル兄様、ありがとう。約束は絶対守る!

 スザンナさん、私のこと受け入れてくれてありがとう。

 絶対、迷惑はかけないから!」


「気にしなくていいのよ。娘は親に迷惑をかけて成長するもの。

 メイもきっと喜ぶわ」

 スザンナさんは優しく私を抱きしめてくれた。



「突然の出来事ばっかりだったから、マルルカの身の回りの支度を少し整えてくるよ」

 そう言って、私たち3人はブリドニクのメインストリートへと向かった。


 ブリドニクのメインストリートは港から街の一番大きな広場に向かう幅広い道だ。

道の両側には、いろんなお店がひしめき合って並んでいる。港の近くにはフィッシュマーケットがあって新鮮な魚介類がたくさん並んでいる。レストランや食堂の人、街の人たちでにぎわっている。


 中央の広場からブリドニクの東門と西門への階段道が始まり、ブリドニクで暮らす人たちの家が軒を連ねている。広場の中央には大きな水汲み場がある。さらには、左側にはブリドニクで一番大きな教会があり、右側にはブリドニクの役所があるため、いつも大勢の人がいる場所だった。住人がやってきておしゃべりをしたり、噂好きの人たちが集まるような場所にもなっていた。

 

「大きい教会ね。ここもエクレシア教会なの?」

「この教会はセフィス教の教会だよ。休日になると、ブリドニクの人たちは近くの教会にお祈りにいくんだ。それからマルルカ、ここでは迂闊に神様のことを話しちゃいけないよ。面倒なことに巻き込まれる危険があるから気を付けるんだよ」

「面倒なこと?」

 アル兄様は、簡単にセフィス教のことを教えてくれた。


 セフィス教は、セフィスという神様を信じる一神教だけれど、長い歴史のある宗教なので、いろいろな場所に広く布教されるうちに、セフィス様に対する考え方が少しずつ変わっていき、いろいろな宗派ができてきた。一番信徒が多いのはセフィス教で力もあるため、セフィス教は自分たち以外のセフィス様を信じる人たちを「異端」とみなし、弾圧することもあるのだという。

 また、良い行いをした人や奇跡を起こした人たちを聖人、聖女と認定して称える一方、堕落していると認めた人たちには刑を執行したりもする。

 それらを見つけたり、執行する人たちを「審問官」として、セフィス教の本部からあちこちに派遣しているのだという。

 

「だから神様のことを口にしちゃいけない。もちろん、魔法を使うのは絶対ダメだ。わかるよね?」


「わかった…… こっちのノージスは神様なのにひどいことするのね。ヤービスのエクレシア教会の人たちはみんなの安全を守ってくれているのに・・・・・・」


「マルルカ、 神様がそうしてるんじゃない。どちらも神様を信じる人間がやっていることだ。神の御名の下、戦争もする。『聖戦』と言ってね・・・・・・

 ノージスとヤービスは全然違う世界だということを忘れちゃダメだよ。

 知らないということは悪いことじゃない。ただ、愚かな結果を招くこともある。

 わかったね。マルルカ」


 アル兄様は真剣な顔をして私をじっと見た。



「マルルカの身の回りの物を揃えてきたよー」

 いつの間にか、オルト兄ぃが買い物をしてきたらしい。

(私も一緒に選びたかったのに・・・・・・)

 オルト兄ぃをちょっと睨む。


「ちょっと話を聞いてきたんだよ。マルルカ怒るな・・・・・・

 埋め合わせはちゃんとするから」

 オルト兄ぃは、たいして気にするふうでもなく、話をつづけた。


 マックス・シェルドンは、ブリドニクの有力者の一人で、ブリドニクで商会を商っているという。漁業が中心だったブリドニクが発展し始めているのも彼の功績が大きいと言われている。学校や孤児院、教会などに多くの寄付をしているので、表立って彼を悪く言う者はおらず、「シェルドンさんは、神様のような人だ!」と心の底からそう思っている人も少なくない。


 だが、かなりの女好きらしい。孤児院では気に入った女の子がいれば行儀見習いと称して屋敷に連れて行ったり、学校では優秀な生徒を真っ先に自分の商会に斡旋してもらうよう手を回しているとも言われている。


 街の主だった人たちはシェルドンを支持し、ほとんど彼のめいに従うのだという。めいと言っても、ちょっとした情報提供やいやがらせ程度のたぐいだから、激しく抵抗する人もいなくて、面白おかしく協力するらしい。従わないほうがもっとひどい目に会うのがわかっているから・・・・・・。裏ではもっとあくどいこと、たとえば人殺しなどを依頼されている人たちもいるのではないか? とひそかに言われていた。

 嫌がらせをされて困った人たちが教会に相談しに言っても、シェルドンが直接何かをしたわけではないから、何の解決にもならず慰められて帰って来るだけだ。ましてや多額の寄付を受け取っている教会が彼を貶めるはずもない。


 スザンナさんのことは、シェルドンの息のかかった男たちが、「スザンナに色目を使われた、誘われた」などとあちこちで言い始めたらしい。それを聞かされた男の妻たちが怒ったことで、噂がますます煽られて、スザンナの店での買い物も避けられていったのだという。


「マルルカが手伝える話じゃないよ。何かあったら、すぐ帰って来るんだ。

 わかったね」


 オルト兄ぃが、珍しく真剣な顔をして私を見た。

 オルト兄ぃの話を聞いても、私はよくはわからなかったけど、スザンナさんがとっても困っていることはわかった。

 それにしても、こんな短時間でこんな話を聞いてくるオルト兄ぃ・・・・・・

 どうやって聞いてくるんだろう??

 

「守り石は絶対離しちゃダメだよ。いいね、マルルカ」

 アル兄様は私にそう言うと、守り石のペンダントに手をかざした。ほんの一瞬光ったように思えたけど、見たけど何も変わったところはなかった。


 それから3人でスザンナさんのお店に行く。


「マルルカちゃんは責任をもってお預かりするから。

 危険な目には合わせないから!」


 スザンナさんは兄様たちにそう言うと、「マルルカちゃん、ブリドニクのおかあさんだと思ってね」

って言ってくれて、私をぎゅっと抱きしめてくれた。


 アル兄様とオルト兄ぃはスザンナさんに丁寧に挨拶をすると、「無理をしちゃダメだよ!」って私に念押しをすると、森のおうちに帰っていった。




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