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10 ブリドニク(1)

 宿を出てから、アル兄様は口を開かず無表情でいるのに、オルト兄ぃは少し楽しそうにしているように見える。

 街のメイン通りから1本外れたところにあるスザンナさんのお店が見えてきた。扉が開いていて、掃除したばかりのようでお店の外の通りは水で濡れていてきれいされていた。


 急ぎ足でお店の中に入ろうとする私の手をオルト兄ぃがひっぱり、足を止めた。


「オルト兄ぃ?」

 どうして?って言おうとした私を見ると、シーッと唇に指を当てる。



 店の中から低い男の声が聞こえてくる。

「スザンナ、昨日はガレタんとこのレストランで、若い男に色目を使ってたそうじゃないか。娘と一緒に食事をしながら、お前さんもよくやるねー。デイビッドが亡くなって1年、男の肌が恋しいんだろ?」


「でたらめなこと言わないでください!! シェルドンさん!

 昨日の方は薬を卸してくださっている方です」


「でたらめ? この街のみんなが言っていることじゃないか。よその亭主にまで色目を使ってるっていう噂だよ。男好きのお前さんが1年も男日照りじゃぁ、がまんできっこないってよぉ。こっそり男を引き込んでるんじゃないかっていう噂もあるさ。

 街の男たちからもお前さんから誘われて困っちまうっていう相談も来るようになってっさぁ。

 俺もこうやってお前さんの相談に乗ってやろうって言ってるんじゃないかぁ」


「相談するようなことはありませんから! お店も開いていますから、もうお帰りください」


「この店は、客も減ったって言うじゃないか。

俺の言うことを素直に聞いていりゃぁいいものを・・・・・・

俺を頼れば、こんな小さい店は人に任せてスザンナにはいい思いをさせてやるって言ってるのによぉ」


「もう、お帰りください!」


「気が変わったらいつでも相談しに来な。俺もお前さんが困ってるのも見てられなくてねぇ。

また来るさ!」

 男はいやらしい笑い声を残して店から出てきた。

 


「おっと、失礼・・・・・・」


 大きい指輪を何個もつけている貴族然とした恰好の髭面の男が、アル兄様とオルト兄ぃを上から下まで見下ろすように尊大な態度をとって、私たちとすれ違い帰っていった。


「あら・・・・・・いらしてたんですね。お恥ずかしいところをお見せしてしまいました」

 スザンナさんが私たちに気がつくと、悲し気に深いため息をついた。


「あの人がメイちゃんの言ってたシェルドンさん?」


 私の声にスザンナさんはうなずいた。


「マルルカちゃんに話せることじゃないし、大した問題じゃないのよ。心配しないで」

と私に言った。


「心配しないで」って言われても、私にだってスザンナさんが困っていることくらいわかる。

「あたし、お店番手伝っちゃダメですか?」

 私は思い切ってスザンナさんにお願いしてみた。


スザンナさんがシェルドンさんと顔を合わせるのがいやなら、私がお店の番をしたらいいと思った。


「マルルカ!」

 アル兄様が少し声を荒げ、スザンナさんは驚いた顔をしている。


「マルルカちゃん、それは絶対ダメよ!

気持ちはとっても嬉しいけど、あなたにまで危険が及ぶ」


スザンナさんがとても怖い顔をして首を強く振った。


「私・・・・・・アル兄様とオルト兄ぃにいっぱい助けてもらった。だからここにいるの。

私が店番をしている間、スザンナさんが少しでも気持ちを落ち着けることができるのならって……

 私、ちゃんと商品のこと覚える! ちゃんと1回で覚えるから!

 シェルドンさんからスザンナさんを少しでも守りたいの。毎日おうちから通うから……

 お願い アル兄様!!」


 アルさんとオルトがいたから、助けてくれたから、今、心の底から生きてるって思えるし、生きていることに感謝している私がいる。

 1人でがんばってもダメだったら誰かに助けを求めてもいい。誰かがいれば・・・・・・

 アル兄様は、何もわからないのにかかわるなって言ってた。

 でも・・・・・・私が店番をしたら、スザンナさんはシェルドンさんの顔を見なくても済むじゃない!って思う。


「マルルカちゃん、あなたが危ないわ。本当に私は大丈夫なのよ。心配しないで」


 スザンナさんは困ったような本当に心配そうな顔をして私を見ている。

 アル兄様とオルト兄ぃも、ちょっと怖い顔をしている。


「少しの間だけでもスザンナさんがお店に降りてこなくてもよければ、悪い噂をする人も少しは減ると思うの。見えない人の噂はできないでしょ? 

 だから、お願い! 私に手伝わせて」

 アル兄様は本当に困った顔をして、私の頭をポンポンした。



「スザンナ、マルルカがここまで我を通したことは一度もないんだよ。

 迷惑かもしれないけれど、1週間だけマルルカを預かってくれないかい? この子はちょっと世間慣れしていないところもあるから、ダメなときには厳しく叱ってほしい。

 ダメかな?」


「ここにいたらマルルカちゃんまで危険が及ぶかもしれないのよ? アル、本当にわかっている? 

 シェルドンの怖さを知らないからそういうのよ!

 ダメなものは絶対ダメ!」


 スザンナさんはアル兄様を激しく睨んでいる。


「この子は、意外と頑丈でね。 多少のことじゃびくともしないよ。

 それに赤ん坊のときに母親を亡くして、母親を知らずに育ってしまった子なんだ。

 1週間だけ、スザンナのそばにおいてあげてほしい。ということではどうかな?」


「アルったら、人が悪いわよね。そんな風に言うなんて・・・・・・

 でも本当に危ないの・・・・・・マルルカちゃんが危ない目に会うのよ?」


 スザンナさんは、「こんなこと言いたくなかった・・・・・・」と言って、仕方なさそうに自分の身に起こっていることをポツポツと話し始めた。



 男の名はマックス・シェルドン。このブリドニクの有力者の1人である。

 1年前、スザンナの夫デイビッドが亡くなってから、事あるごとにスザンナの店を訪れては、優しい慰めの言葉をかけてきた。そのうち、スザンナの面倒を見てやるからと言っては、この店を手放すように言ってくるようになってきたという。デイビッドが残してくれた店を守りたいスザンナがそれに応じるはずもなく、やんわりと断り続けていた。


 1か月ほど前、店を閉めた後のこと。シェルドンが店の2階にあるスザンナの自宅にまでやってきて、無理やり関係を迫ってきたのだという。激しく抵抗するスザンナと、メイの帰宅でなんとか難をのがれたのだが、しばらくすると、根も葉もないひどい噂が街中に流れるようになった。


 ブリドニクの生まれではないスザンナに友だちと呼べる親しい人はおらず、噂はどんどんとひどいものになっていった。はじめは「色目を使われた」というくらいだったが、そのうち「関係を迫られた」と言い出す男たちまで出てくる。最近では、その男たちの妻がスザンナに軽蔑した冷たい視線を送ったり睨まれたりするようになった。中には怒鳴り込んでくる女もいた。


「ひどい!!」


「こんな恥ずかしい話を聞かせたくなかった。ごめんなさいね。

そのうち噂も消えるでしょうから、今は我慢するしかないのよ」

 スザンナさんは寂しげに笑った。


「そんな・・・・・・我慢するなんて・・・・・・ 私はがんばっても我慢しても何も変わらなかった。

一人で我慢してたら何も解決しないってアル兄様に教えてもらった! 

 スザンナさん、お願いだから! 私をそばにいさせて!!

 アル兄様、お願い!!」


 スザンナさんはふっとため息をついて、私を優しく見つめた。


「マルルカちゃん、本当に危ないのよ? わかってる?

 アルもわかってるの? 本当にわかる?」

 アル兄様をじっと見る。


「マルルカがここまで言うのは、初めてだよ。マルルカの覚悟を信じよう。

 スザンナ、迷惑かもしれないけどマルルカの願いを聞いてくれないか?」


 アル兄様は、私を呆れたように見て、また頭をポンポンした。


「・・・・・・わかったわ。1週間だけよ! それ以上は絶対ダメ」

 スザンナさんは、私に根負けしたように声を落とした。


「マルルカちゃん、1週間だけ私の娘になってね。私が絶対あなたを守るから!」

 そう言うと、私の手をぎゅっと握った。




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