1 魔王討伐後(1)
「マルルカ、気が付いたか?」
目をあけると、しゃがみ込んであたしの顔を心配そうにして覗き込んでいるデレクが目に入った。
「マルルカ、大丈夫か?」
ハリーがこちらに歩いてくる。きれいなブロンドの髪も汗でぐっしょりとしている。
ハリーはサラサラの髪をいつも自慢していて、すぐに、「俺の周りにそよ風を吹かせろ」って魔法を命令してくるのに…… 今やってあげたら喜ぶだろうなぁ・・・・・・
どうでもいいようなことを思い出してしまう。
「ハリー、もうウインドを使う魔力も残ってない」
ゆっくりと体を起こしてみたけど、ぜんぜん力が入らない。
「いいさ、それより、早くここを出よう。
何かお宝がないか少し辺りを探してみたけど、めぼしいのはなかったからね」
そう言って、ハリーは手にしていた数本の回復薬ポーションを見せた。
「本物らしい。まぁ、今の俺たちじゃぁ、低級回復薬でもありがたいってことだ」
ハリーはポーションを1口飲むと、デレクに1本渡した。
「デレク、マルルカを担いでくれるか? こいつはちっこいから、それほどお前の負担にはならないだろうよ」
「あぁ、魔気が消えたとはいえ、この城には長くいたくねぇな。気味がわりぃや……
まだ魔人がいるかもしれんし・・・・・・。もう、戦う力はねぇからよ」
デレクは受け取ったポーションを流し込むようにして飲むと、座り込んで動けずにいたあたしを大きい背中にひょいと担ぎ上げた。
「あたしにもポーションちょうだい」って言いたかったけど、やめた。
だって、デレクにおんぶされているだけだし・・・・・・
ハリーの見つけきたポーションは今は貴重だ。
あたしの体力も魔力も、すっからかんのからっぽ。そのうちに回復してくるよね……
今は自分の足で歩くことすらできない。ましてや魔法がなきゃ、子どもの背丈しかないあたしは、2人の歩くスピードになんかついていけない。
あたしは、魔法が使えなきゃ足手まといのちっちゃな子どもとおんなじ。
「魔物の気配が消えたとはいえ、用心していくぞ。俺が前をいくからデレクはついてこい」
ハリーは鞘に納めた剣をもう一度抜くと、先に歩き出した。デレクもその後を追うように、あたしを片手で担いだまま、剣を持ってハリーに続いた。
デレクの硬い鎧におんぶしてもらっても、ゴツゴツしてて居心地はあんまりよくない。
――でも、この鎧がデレクをずっと守ってたんだもんね。文句言っちゃだめだね。
デレクの髪って、意外と柔らかいなぁ。こげ茶でツンツンした髪だったからもっと硬いと思ったよ。
デレク汗臭いなぁ、魔力がすこしもどって、2人ともきれいにしてあげたら喜んでくれるかな。
あっ あたしもきっとそうだよね・・・・・・
あれこれ頭に浮かんでは消え、浮かんでは消えて・・・・・・
デレクの背中でいつの間にか意識を離した。