16 ドゥラ・シュカ(2)
「魔王との戦いで自分の命を犠牲にしたっていうあの少女賢者なのか?」
なんて言っていいかわからない……
「そうと言えばそう……」
私は魔王との戦いの真実をドゥラに話した。その後アル兄様に命を助けてもらったことも…… もちろんノージスでの話はしない。
「あいつ!! そんなことまでしたのかよ! 絶対許せん!!
枢機卿様、お願いだ。あたしに力を貸してくれないか? 頼む!」
「いいだろう。面白くなりそうだ」
アル兄様が言うには、ドゥラとハリーはすでに闇と光の剣に取り込まれているという。たとえ、ハリーから光の剣を奪い取り返したとしても、もう遅いのだと。どちらかが一方命を落とせば、もう一方も命を落とすことになる。
「あいつを殺ったら、あたしも死ぬのかよ!」
ワイングラスを持つドゥラさんの手がブルブルと震えていた。そして本当に悔しそうに一気にワインを煽るようにして飲んだ。
「シュカラートの光と闇の剣は所有者を分けてはいけなかったんだよ。
2人が助かる方法はひとつだけある。シュカラートの神殿で2人が光と闇の剣を介在させて、互いの光と闇の調和をさせる。それから剣の所有を放棄することだ」
「ハリーがあの剣を手放すとは思えないわ。1年一緒に冒険の旅をしていたからわかる。『この剣は俺にこそふさわしい』っていつも言ってたから」
「光の剣は人の虚栄心や欲を煽るからね。それに闇の剣の所有者の力をも奪っているから、調和すれば、当然闇の剣の所有者から奪った力も返ることになる。本来の自身の力だけに戻る。本人にしてみれば、今よりも弱くなることだから嫌がるだろうさ」
「そうだったのか! どうりで前よりも弱くなったはずだ。Bランク冒険者だったはずなんだが、まともに戦えず、今はDランク程度にまで落ちているんだよ。小物の魔物1匹すら倒せやしない……くそっ!!」
ドゥラさんは空になったグラスになみなみとワインをつぐと、一気に飲み干し、またワインを手酌でついでガブガブと飲んでいた。
ドゥラさんの気持ちを思うと胸が痛くなってくる。どれだけ悔しい思いをしてきたのか。剣を奪われ裏切られ、さらには自分の力さえも奪われていく。そして、誰の目にも止まらず、いるってことを認識してもらえないなんて…… あまりにも辛すぎる。
「ドゥラさん、私手伝うよ! ドゥラさんがちゃんと元に戻れるように。
デレクのことも心配は心配だけど、どっかで、どうでもいいっていう気持ちもある。
うん! それが私の正直な気持ち」
そうだ…… デレクだってハリーと一緒に私を谷底に突き落としたんだ。そんな人のことまで心配する優しい気持ちは持てない。デレクを助けられたらそれはそれでいいけど、何としてでも助けたいなんて思えないよ……
「方法は自分たちで考えたらいい。時間はあまりかけていられないだろうから、シュカラートまでは君たちを転移させてあげるよ。
それからドゥラにはこれを渡そう。両腕にはめるといい。人に認識されないままでは不便だろう?」
アル兄様は、金色のアームレッドを2つ取り出すとドゥラに渡した。アームレットには細かい文字や模様が刻まれていて、遠目で見ると繊細な彫刻が施されたきれいな装飾品にしか見えない。
「これは、剣の闇の力を中和する力を持っている。光の剣の作用を妨げる力はないけれど、闇の中に飲み込まれるのを防ぐくらいはできる」
「枢機卿様、ありがとうございます! 本当に本当にありがとうございます。
…… 2人があたしに気づいてくれたおかげで救われたよ。
なんで、マルルカはあたしのことがわかったんだ? それからもう、「さん」付けはやめてくれ。ドゥラでいいよ」
ドゥラさん……ドゥラにアームレッドを着けるのを手伝っていると、ドゥラは不思議そうに聞いてきた。
「そんなこと聞かれてもわからないわ。他の人がドゥラに気づいていないなんて思ってなかったから。ただ、ドゥラさんが近づいてきたら周りの音が全く聞こえなくなったの。ミームが話しかけてきたことで、周りの音が聞こえるようになったんだけど、それもわからないし…… 兄様、何でかしら?」
「マルルカは魔力を察知できるようになっているから、闇に取り込まれているドゥラを認識できたんだよ」
今のドゥラさんと接することは、闇の中に入るっていうことらしい。だから周りの音が聞こえなくなった。普通は、その状況になれば、完全に闇に取り込まれてしまって、周りも見えなくなってしまうと言うけれど、私がそうならなかったのは、無意識に魔力を操っていた結果らしい。
意識していなくても茶色のマルルカちゃんでずっと過ごしていたのが、自然に魔力操作の訓練になっていたみたい。
「ミームは、音を操ることができるね。音を支配して大気の揺れを感知することができる。あれは珍しい。だからドゥラがそこにいることを認識できるんだ。ミームは面白いよ。あれで魔力がもっと多くて、本人が自分の力を認識できればかなりの実力者になれるよ。
ミームが望むのであれば、少し訓練をしてあげてもいいな……」
兄様の訓練って、もしかしたら…… 魔王城でのことを思い出してしまった。オルト兄ぃが戻ってくるのかな……あれは、もう勘弁だ。少しぞっとする。
もう休もうっていう兄様の声で、お開きとなり、ジョナを呼ぶ。
「あら! いつの間にお客様が到着されたのでしょう? エドったら、私に声をかけるのを忘れてしまったのかしら?
お客様、お気を悪くすることはございませんでしたか? お部屋はご用意できておりますので、ごゆっくりお寛ぎください。
ご用事がございましたら、ご遠慮なくお申し付けくださいませね」
今度は、みんなにもドゥラが認識できるみたい!
ドゥラが嬉しそうにわらった。




