13 ミームは問題児?
馬車の中は賑やかだった。ミームさんの自慢話で……
ドゥラさんはミームさんの話をほとんど聞かずに、ぼーっと馬車の窓から流れる景色を見ている。私は……というと、ミームさんの話に適当に相づちを打ちつつ、ドゥラさんが気になって仕方がない。
せまい馬車の中にいると、ドゥラさんが土ぼこりをかぶったままでかなり汚れているのがわかる。ギルドに滅多に寄ることがないと言っていたけど、依頼もあんまり受けてなかったんじゃないかなぁ。誰もドゥラさんに気づかない。ドゥラさんが見えないというわけではないようだけど、認識できないから誰とも話ができない。
相当つらかったんじゃないかな……
しばらくして馬車が止まる。
馬車の扉が開き、外へと導かれるようにして出ると、少し浮かれていたミームさんも、兄様のお屋敷にびっくりしたのか口をつぐんでしまい、キョロキョロと目を走らせていた。ドゥラさんは完全に呑まれてしまったようで固まったまま動かない。
「お帰りなさいませ。お嬢様。
あら…… お友だちの方もご一緒でしたのね。
ヴァニタス家にようこそ」
「ジョナ、二人には今日は泊まっていただくから、二部屋準備してくださいね」
私の言葉に、顔を伏せたままで迎えているジョナが、驚いたように顔を上げた。
「お二人? 二部屋? もう一方は、いつ頃お着きになりますか?
それともお迎えを差し上げたほうがよろしいでしょうか?」
あぁ、やっぱりジョナもドゥラさんに気づいていないんだ。
「お部屋の準備を2つお願いします。私の世話はいいわ。
お茶の準備ができたら、部屋の外から声をかけてちょうだいね。扉は開けないで!
ミームさんをお部屋にご案内して差し上げて。
先に湯あみをしていただければ、その間にお茶の準備もできるでしょう?
お茶も3人分お願いね。
ミームさん、後でご一緒しましょうね」
それだけジョナに言うと、ドゥラさんに私に付いてくるように言うと、何か言いたそうにしているジョナを置いて、2階にある自分の部屋へと急ぎ足で上がった。
「マルルカ! あたしはあんたに話を聞いてほしいとは言ったが、泊めてくれとは一言も言ってない!
それに、こんないいとこのお嬢さんだったは……
あたしは帰るよ! 場違いだ」
部屋の扉を閉めると、ドゥラさんはすごい剣幕で私に食ってかかってきた。
「ドゥラさん、私も話を聞くだけのつもりだった。
でも、聞くだけで何の解決もできやしない」
「別に解決してくれなんて頼んでない! まだなんにも言ってないだろ!?」
「たぶん、あなたが誰にも認識されなくて、日常生活にも支障をきたしていることが悩みなのかな? って思ったの。
それを解決できるかもしれない人がいるから、ここに連れてきたの」
「そうなのか? あたしは話し相手がいたって言うだけで、うれしかったんだよ。
まぁ、その、ちょっとは手伝ってもらえるかも……ほら、食事とか依頼を受けたりとかするときにさ……そう思ったのは本当だよ」
「それは手伝う。それより、湯あみしてさっぱりしたらいいわ。
着替えのドレスは何かないか探しておくから」
ドゥラさんを浴室に案内して湯舟にお湯をはると、ゆっくりするように声をかける。それからドゥラさんが着れそうなドレスを探すことにした。
衣装室にはたくさんのドレスがあった。
いつの間にこんなにたくさん…… って思ったけど、魔王城にいたときにもたくさんドレスが会ったことを思い出して思わず笑ってしまう。
奥の方に、袖を通して前で合わせて帯で結ぶような異国風の絹のドレスがあった。これだったら体形が違っても大丈夫だし、簡単に着ることができる。それを手にすると、浴室にいるドゥラさんに着替えがあることを声をかけた。
「湯あみさせてくれてありがとな! それに、こんな上等なものは着たことはないよ」
少し照れくさそうにして浴室から出てきたドゥラさんはとてもきれいだった。深い青色の絹のドレスに金糸の帯がアクセントになっていて、褐色の肌のドゥラさんにとても似合っている。そして、左の腰には剣。なんか今着てもらっているドレスとも違和感なく溶け込んでる。
剣士っていう人たちは、本当に片時も武器を離さないんだなぁって思った。ドゥラさんの防具はちゃんと洗濯しておかなくっちゃ!
「お嬢様、お茶の準備が整っております。ミーム様もお待ちでございます」
「わかったわ。支度が出来たら降りるわ」
急いで湯あみして着替えるとドゥラさんと一緒にティールームに降りる。
そこにはちゃんと3人分のお茶の準備がしてあって、ミームさんがご機嫌の様子で私たちを迎えてくれた。ミームさんはあのほとんど布のないドレスから、淡いピンクの薄手で軽やかな感じの品のいいドレスに着替えさせられている。春の女神様みたい。きっとジョナが整えたんだろうな。
部屋に洗濯物があることをジョナに伝えると、私とドゥラさんも席に着く。
「ちょっと! ここは、あのヴァニタス様のお屋敷だっていうじゃないの!
嘘みたいよぉー 一夜を共にできるなんて夢みたい……
あの依頼料はいらないわ!
ヴァニタス様にお会いできるのなら、私が依頼料をお支払いしたいくらいだわぁ」
「ヴァニタス様? 枢機卿様の?」
夢見心地のミームさんとやっと自分のいる場所を理解したのか驚いた感じのドゥラさん。でも、一夜を共にするって? 何?
「あの…… 今日のことは他言無用でお願いします。
多分、ドゥラさんの話は兄に聞いてもらった方がいいと思ったので、ここに来てもらいました。すみません」
「あぁ、マルルカさん、あなたが謝ることなんかこれっぽっちもないわ!
ぜったい誰にも言わないから安心して! こう見えて私は口が固いの。
それに今、あなた、兄って言ったわよね? ヴァニタス様にお会いできるのね?
みんなに自慢しなくっちゃ!」
ミームさん……あなたのおしゃべりが心配って思うのは私だけじゃないと思う。
ドゥラさんはだんだんと落ち着いてきた感じになって、だいぶリラックスしてきたみたいに見える。ミームさんの自慢話にも耳を傾けて、時々相づちを入れながら真剣に聞いている。笑顔もみえるようになった。
兄様の屋敷に連れてきてよかったって思う。私たちは、3人の思ったより楽しいお茶の時間を過ごしていた。それにしてもドゥラさんはよく食べる。たくさんあったお菓子やケーキを一人でほとんど食べている。それに紅茶をいったい何杯飲んだことかしら?
「まぁ、お二人でこんなに召し上がっていただけるなんて! 厨房の者も喜びますわ!
でもほどほどにしてくださいませね。ディナーが入らなくなってしまいますから」
ジョナがご機嫌でお茶をサーブしてくれる。でも、3人分のカップが空になっていて、3つのカップにサーブしているのに、ぜんぜん不思議に思っていないみたいだ。夕食も3人分をお願いすると、ジョナは少し怪訝な顔をしたけれど、「畏まりました。3席ご用意させていただきます」と言って、ティールームを出て行った。入れ替わるようにしてアル兄様がやってきた。
「モリーがお友だちを連れてきたと聞いたのでね。
素敵なレディたちだ。妹をよろしく頼むね」
「ヴァニタス枢機卿様でございますね!
わたくし、ソラニス一の歌姫ミームですわ! お会いできた喜びを歌にしませんと。
マルルカさんとは親友ですの。そこのドゥラさんと同じ冒険者のパーティの仲間になったのですのよ」
私が紹介する前に、ミームさんが立ち上がって自己紹介をしてしまった。
でも、ちょっと! いつの間に友だちになったの? それも親友って?
さらにさらに…… いつ私たちが冒険者パーティを組んだの?
さすがにドゥラさんもびっくりした顔をしてミームさんを見ている。
「ミームさん、ちょっと……」
「あら…… マルルカさん、私の歌をきいたことありませんでしたわね。ディナーの後には、私と枢機卿様が運命の出会いをした歌を披露しませんとね!」
もう何が何だか……
ミームさんってやっぱりちょっと問題児?




