7 冒険者登録
冒険者ギルドの建物は、馬車を停めてくれたところから1本道を入って少し行ったところだという。
石畳の道を進んでいく。
少しの距離だけれど周囲からの視線が私に絡みつく。
黒の上質なケープは冒険者の多いこの場所では確かに場違いだ。「いいところのお嬢様です」と言わんばかりの恰好で、お供もつけずに歩くのは確かに目立つ。幸い冒険者ギルドがすぐそばにあるから、声をかけてくる者はいない。下手に問題を起こすわけにはいかないからだ。
少し奥まったところにある無骨な石づくりの建物が、冒険者ギルドだった。正面は周りに合わせて白く塗られているが、壁を作っている切り出したままの感じの分厚い石は、頑丈そうでちょっとしたことでは壊されそうもなさそうだ。たぶん、魔法防御もかけられているんだろう。
入口は開け放たれていて、開放的な感じでちょっとほっとする。冒険者とおぼしき人たちが行き来していた。
入り口を入ると、奥の方にカウンターが見えた。そこではギルドが依頼された仕事を冒険者が引き受ける手続きをしているようで、数人のギルドの受付の女の人たちが冒険者の相手をしている。
壁には、依頼された仕事が張り出されていて、「これがいいか?」「いや…報酬の割には……」など、冒険者の人たちが真剣に依頼内容を見定めている。
「よしっ!」 気持ちを引き締めて、ギルドのカウンターのほうへと足を進めていくと、私に気づいた冒険者の人たちが、明らかに場違いな私を見定めるようにして見ている。
たぶん、依頼を持ってきたと思われているんだと思う。
「おはようございます。ご用向きをお聞きいたしましょうか?」
空いているカウンターの女性が声をかけてくれた。
「あの……登録をお願いします」
「登録? お困りごとですね。ご依頼の登録でしょうか?」
「いえ…… その…冒険者の登録です。私、冒険者になりたいのです」
「お嬢さんが? 冒険者?」
カウンターの女性がびっくりした顔をして、まじまじと私を見たのも一瞬、すぐににこやかになる。そして、言いなれているであろう――冒険者とギルドのことを説明してくれた。
冒険者には下からEに始まりAランク、その上にSランクがあること。ランクは世界共通で、ランクを上げるには一定の成果が必要で、AランクBランク以上へは他者の推薦などが必要で試験があること。ランクの高いパーティに参加すれば、自動的にそのランクとみなされパーティメンバーと共にランクの高い依頼を受けることができるが、そのパーティを離脱すれば参加したときの自分のランクに戻ること……などなど。
「……簡単ではございますが、ここまでの説明で質問はありますか? 登録料として3,000ビリーをいただきます」
「思った以上に、高額なのね……」
「あっ、いえ、登録料をお持ち合わせ出ない場合には、100ビリーで仮登録という方法もございますが……」
思わず口に出た言葉に、受付の女性が慌てて説明を付け足す。
仮登録した場合は1か月以内に本登録をしなければならない。仮登録をして本登録料を支払えるだけのお金を貯めろっていうことなんだろう。
仮登録の間は、動ける範囲もギルド周辺と限られているしそのギルドからしか仕事をあっせんしてもらえない。
安宿の相部屋であれば、素泊まりで100ビリー、1泊2食にしても200ビリーくらい。
依頼料が一番安くて安全だと言われている街の清掃などの仕事は1日500ビリーくらいからあるから、1か月あれば本登録料を誰でも払えるのだという。
3,000ビリーは、冒険者になろうと思う者にとっては、なかなかの金額だと思う。
「他に特別ご質問がなければ、こちらの登録書にお名前と職業――特技などを記入してくださいね。あの……本登録でよろしいのですよね?」
受付のお姉さんは、私を一瞥して確認する。(その恰好で払えないってことないわよね?)って言われてるみたい。お姉さんの言葉に大きくうなずいた。
名前はもちろん、マルルカだ。 私の名前!
職業は……賢者って言うのは恥ずかしい。……魔法使いにした。
「マルルカさん。15歳…… ハリー様とデレク様と一緒に魔王を倒したという伝説の賢者様と同じ名前ですのね!」
ハリーとデレクの名前を聞いたとたん、ビクンとする。心臓がバクバクしてくる。
大丈夫! 落ち着いて……私……
「それでは、魔法使いということでしたら、魔力測定から行いますね。測定する場所にご案内します」
ギルドの女性はカウンターから出てくると、ギルドの、右奥の方へと案内してくれた。
気づくと、そこにいた冒険者の人たちが一斉に私を見ている。
「マルルカだってよ……」「伝説の賢者か?」「いや、死んでんだろ? そいつは……」
「おい、おいしい依頼話じゃねぇのかよ!」
「お嬢様の手習いで冒険者になられちゃぁ、俺たちやってらんねぇぜ!」
「馬鹿にしてんのかよ!」「冒険者舐めてるんじゃねえか?」
冒険者の人たちの声が聞こえてくるけど、あんまりよく言われてないみたい。気持ちのいいもんじゃない。
受付してくれたギルドの人――モナさん――に連れられて、一つの部屋へ通された。モナさんは最初こそ驚いた表情を見せたけれど、それからは表情を変えることなく、周りのざわめきをまったく気にしないように淡々としている。
そこは小さな部屋で、真ん中の台座の上に、六角形の人の頭くらいはありそうな大きな水晶のような塊がひとつあるだけだった。
「この石はマルルカさんの魔力を測定します。持っている魔力を全部この石に流してもらいます。魔力の流し方がわからないのなら、得意な魔法を魔力が尽きるまでこの石に使ってください。
それで、マルルカさんの得意な領域の魔法がわかりますし、使える限度がわかりますから、自分の魔力なんかがわかると、これから魔法を覚えていくにも道筋にもなりますから、時々測ってみたらいいですよ。
あら? 杖もお持ちではないのですか?」
私はコクンと頷いた。そういえば、前のときはこんなことしなかった。最初から最強と言われていたSランクのハリーとデレクのパーティの一員、賢者として登録したからだ。その2人とメザク様のお墨付きがあったって言うことなのね……
これがアル兄様が誤魔化せるって言ってたのだと思う。雨の雫一滴程度が普通の人の魔力量だって言ってたから、指先からほんの少しだけ魔力を流そう。
そうそう! 詠唱しなくちゃね。なんだっけ……
「我の魔力を糧とし……」魔力を流す時ってなんて詠唱するんだろう?
そう思いながら、一滴くらいの魔力を流そうとした途端、グイっと体中の魔力を持っていかれそうな感覚になりそうな瞬間、何かに弾かれて扉の方まで体が持っていかれた。
驚いて石を見ると小さな白い光がまぶしいくらい輝いていて、周りの景色が全く見えなくなってしまった。
「ちょっとぉ、なんで邪魔すんのよぉー! こんなにおいしい魔力は初めてなのにぃ」
石がしゃべってる!?
「何を言う。この強欲が! 我の守り主様の魔力を貪るつもりか!!」
「ふん! こんなにおいしい魔力を四六時中浴びているお前に言われたくないわ!
それに、お前! あのお方の魔力までいただいているなんて!!
好きなだけ外に歩けて、おいしい魔力を浴び放題!
あぁ、なんて羨ましい。……ねぇ、あなた。アタシも連れて行ってくれない?
ぜったい、助けになるから!」
「守り主様、こやつは強欲! 好きなだけ魔力を食らいつくす奴。連れだしてはなりませぬ!」
私…… この状況についていけてないのだけど……
私の守り石とこの大きな石がしゃべってる?
アル兄様は、守り石には意思があるって言ってたけど、おしゃべりするとは言ってなかった。
どうしたらいいの?
兄様の言ってた誤魔化せるって……こういうこと?




