5 新しい一歩
ノージスで気づくことって何だろう?
ノージスの神様には名前があったこと?
教会で勉強を教えてくれるって、メイちゃんが言ってたけど、ヤービスはどうなのかな?
あ…… 私、ずっとメザク様に魔法の訓練やいろいろ教えてもらっていて、それからオルト兄ぃに教えてもらったことだけで、ヤービスの暮らしってよくわかってなかった。ヤービスでもそうなのかしら??
私、何にもわかってないのかもしれない。
「兄様、私、ちゃんとこの世界のこと、ヤービスのことわからないのかもしれない。
ぜんぜんわからないわ」
なんだか自分が世間知らずの子どものような気がしてきた。もう15歳になるのに……
「モリーはやることがたくさんあるねぇ。ハリーとデレクに立ち向かうことだけじゃなくって、勉強もしなくっちゃならないんだね」
アル兄様はずっと面白そうに私のことを見ている。
「私が気づくことってなに?」
「それを言ったら、自分で考えることをやめてしまうんじゃない? もう少し答えはお預けにするよ」
アル兄様と話をしているといつもそうだ。私が知るときがきたら教えてくれるのだろうけれど、また、わからないことが増える。
なんだか、魔法をたくさん知ってて使えるっていうだけで「賢者」って言われていた自分が恥ずかしくなってくる。
いつも誰かの後ろにいた。メザク様、ハリーとデレク、そしてアル兄様とオルト兄ぃ……
誕生日はわからないけれど15歳になったはず。もう一人前って言われる歳なのに、私、何にも知らない。
一人でできるように、ひとり立ちしなくっちゃならないのかも……
「アル兄様。私、冒険者として1人で暮らしてみようと思うの。
もっとこの世界のことを知らなくっちゃ、何にもわからないし、何にも見えない。
マルルカは死んじゃったけど、やっぱり、マルルカとして、1人の冒険者としてこの世界を見てみたい。
それからだったら、ハリーとデレクに会った時、どうしたらいいのか、どうしたいのか、答えが見えるはず……
『私は生きている!』って言いたいって思ったけれど、それがどういうことか、自分でもまだよくわからないの」
私は、今、思っていることをアル兄様に伝えた。それに、自分が生まれた世界なのに、アル兄様やオルト兄ぃに、いつまでも面倒を見てもらうのもちょっと図々しいような気もしていた。
二人とも普通の人じゃないっていうのがわかるから、ずっとそばにいるのが余計に怖い気もする。
アル兄様はじっと私を見つめている。何を考えているのかわからない瞳。
「わかった。モリーがそうしたいのならそうしよう。
ジョナや屋敷の者たちはとっても寂しがるだろうから、時々は屋敷に顔を出してね。
ジョナはモリーのお世話をするのがとても楽しそうだ。かわいい女の子だから世話のし甲斐があるのだろうね。
そうだ。モリーの部屋と冒険者マルルカの家とに転移陣を作ろう! そうしたら、いつでも屋敷に来れる」
「えっ? モリー・ヴァニタスはいるの? 冒険者マルルカもいるの?」
「そうだよ。使えるもの、利用できるものは取っておくものさ!
それから、冒険者の登録をするときの魔力量測定は気を付けてね。それだけの魔力量を持つ者はいないから。今のマルルカには、誤魔化すことができるだろう」
「覚えておくわ。
私、しばらくメイちゃんのところには戻れないね」
「それは自分が決めることだ。どういう結果であろうが、ノージスに戻りたいと思うのなら戻ればよい。いつでも戻してやる。
今回の転移では、お前は半日ほどで目覚めた。もう少し成長すれば転移魔法を使えるようになるだろう」
「成長? 転移ってできるの? あっ…… オルト兄ぃもできる……」
「魂の成長だよ。転移には時間と空間に介入しなくてはならないからね。
モリーにはまだ無理だ」
私はまだまだ知らないこと、覚えなくちゃならないことがたくさんある!
そう思うと、なんだかやる気が出てくる。
「兄様、私、がんばる!」
そういえば、私、お腹が空いてたんだ……
いろんなことを考えていたせいで、自分がどこにいるのかちゃんとわかってなかった。
楽し気な笑い声、大ぜいの人の楽し気なおしゃべりの声、お店の人がテーブルの間をせわしなく動いている姿……一気に、音や匂いが飛び込んでくる。そして、うっすらとかかる靄。
ここはヤービス・・・・・・
冷めたチキンソテーを魔法で少し温めて、一口食べる。ヤービスでは、魔法が使える人たちはそうして食べている。
ときどきスープやソテーに向かって杖を向けて詠唱している。
【我が魔力を糧とし、炎の恩恵を我に授け、我の命ずるものにその恩恵を与えたまえ。ヒート】 ってね。
それがヤービスの冒険者の食堂の風景だし、こんなことができるのもヤービスだ。
真剣にお皿に向かって杖を向ける魔法使いを見ると、なんだか懐かしい気持ちになって、思わず笑ってしまう。本当に帰って来たんだなって思う。
そして、私が使う魔法には確かに残滓がなかった。詠唱は前から必要なかったけれど、発動させる魔法は声に出していた。【ヒート】って……
今は、本当に温かいチキンソテーを思い浮かべるだけ。
本当に自分でも気づかないうちに魔力が洗練されたんだって、しみじみと思った。
「この靄のせいで、なんだか霞んで見える。見えるのも不便ね」
(レイスだったら、ここの残滓を消すことができるのかな?)
レイスの顔を思い浮かべたら、ノージスに帰りたくなってしまった。
「残滓を視ないと思えば、見えなくなるよ。ようは視えるものを加減すればいい。
モリーは、もうできるはずだよ」
「そうなの?」
アル兄様は大きくうなずいている。
一度目を瞑って、魔力や残滓は視ない! と心の中で強く思う。それからそっと目を開けた。
そこにはまぶしいくらいに明るい灯りに照らされた冒険者の食堂のくっきりとした光景があった。
「おかえり、モリー。
ヤービスでの新しい一歩に乾杯!」
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