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2つの世界の物語 ~魔力の化け物と呼ばれた少女の物語~  作者: 星あんず
第4章 ふりだしの1歩
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3 ヤービスの真実(1)

これからは元の世界のお話になります。

 ・・・・・・? ここは・・・・・・知らないベッドだ。

 ゆっくりと体を起こして見まわしてみる。知らない部屋。魔王城じゃない。


 日が傾きかけているのか、ほんのりと薄暗い。

 重厚な感じのするこげ茶色の柱に水色の壁紙。水色の絨毯が敷いてある。活けられたピンク色の一重の薔薇の花がこの部屋に明るさを足してくれている感じだ。

 とっても気持ちが落ち着く部屋だ。




 あの日の翌日、朝早くアル兄様と一緒にノージスの森のおうちを出ると、森の裏手まで連れてこられた。

 アル兄様に言われるまま、アル兄様の手を握るや否や、魔王城で見た時と同じような大きな魔法陣の描かれた部屋にいた。


「ここがノージスの転移の魔法陣。誰もここへは入って来れないし、入って来れたとしても魔法陣は起動しないけどね。

 人を別の世界に転移させるにはこの魔法陣を使うしかない。

 ノージスに来た時と同じように、マルルカの魂に負荷がかかって眠りにつくだろうけど、前のように2日も眠ることはないだろう」


「そうなの? 1日くらい?」


「そうかもね。マルルカの体の中の魔力の循環がとてもスムーズだ。

 ヤービスの世界の景色は、今のマルルカにとっては違うものに見えるだろう。

 さぁ、帰ろう! ヤービスへ!」


 アル兄様はそう言うと、ノージスに渡って来た時と同じように魔法陣に魔力を流し込み、そして私は魔法陣の中央へといざなわれたのだった。




 そんなことを思い出しながら、部屋の中を見渡していると、扉をノックする音がしてひとりのメイドさんのようなスーおばさんと同じ年のような女の人が入ってきた。


「お目覚めになられたのですね。

 失礼いたしました。モリー様。

 お初にお目にかかります。ご主人様よりモリー様の身の回りのお世話をするように仰せつかっておりますジョナと申します」


「よろしくお願いします。ジョナ。ところでアル兄様には会えるかしら?」


「今日はお帰りになるとおっしゃっておりました。モリー様がお目覚めとお知りになったら、かけつけていらっしゃいますよ」


 ジョナの口ぶりから、ここはアル兄様のソラニスのおうち、お屋敷なんだと思った。

 で、私は妹のモリー・ヴァニタスなんだなって……

 マルルカじゃないのがちょっと寂しい。


 お召し替えをお手伝いしますっていうジョナの言葉に素直に従って着替えが終わった頃、アル兄様が帰って来た。


「モリー、目覚めたんだね。

 久しぶりのソラニスだ。街に出て夕食にしよう。

 ジョナ、厨房には悪いけれど、明日食べるからって伝えてくれないかい?」


「かしこまりました。

 でも厨房もがっかりしますでしょう。モリー様もお目覚めになられたからと、はりきってお料理しておりますのに……」


「それは悪いことをしたね。明日まで保存箱にいれていいからって伝えて。

 みんなで一緒に食べることにしよう。もちろん、厨房の人たちもみんなだよ?

 この家の者全員でモリーの歓迎会をしよう!

 だから、そのつもりで明日の料理を準備するようにと言っておくれ」


「まぁ、みな喜びますわ!

 モリー様もいらっしゃって、お世話する方が増えたってみなはしゃいでいますのよ」


「私だけじゃ不足だったのかな?」


「そのようなことはございません。ご主人様、ヴァニタス枢機卿様のお屋敷で働かせていただけるだけで、みな幸せだと申しております。お世辞ではございませんよ。

 ここでお仕えしている私どもは、もっとご主人様のお役に立ちたいのでございます。

 モリー様にはマントを準備いたしますね。まだ夜は冷えますから」


 ジョナがキラキラとした目でにこやかにアル兄様とお話している。

 私はびっくりした。

 魔王城じゃ、お世話してくれる人たちと話したことは一度もなかったのに……

 全然違う!




 馬車でお屋敷の外に出ると、そこはエクレシア大聖堂の北側の一角を占める高位の人たちや貴族が済んでいる場所なのがわかった。教会のそばに近くて敷地が広い……ということは、アル兄様がかなりの地位にいることを示している。


「アル兄様、本当に枢機卿だったのですね……」


「嘘をつく理由なんかないよ。それより、外を見てごらん」


 アル兄様に言われて、馬車の窓から街の様子を見る。

 夜のせいか、町全体が靄がかかっているように見えた。街をいく人たちもぼんやりとにじむほどに……

 中には、影のように靄が体中を覆っていて、動くたびにその靄が周りの空気に溶け込んでいく。


「もう、モリーにも見えるだろう? 魔力の残滓が」


「大気をおおっている靄やあの人影のようなものが魔力の残滓?」


「そう。これがヤービスの姿だよ。

 魔力量の少ない人はぼんやりとしたにじみも少ない。ほとんどの人がそうだよね?

 でも、あの体中を覆うほどの靄をまとっている人――あの人は、普通の人よりも魔力量が多いのだろう。そして、それを空っぽになるくらいに魔法を使ったんだろうね。自分の魔力の残滓におおわれている。そしてそれは少しずつ体から離れていき、大気の中に溶けていくんだよ。

 世界中の人たちが、残滓をまき散らして魔法を使った結果だよ」


「そんな……」


「人間が、魔力の量が多いといってもたかが知れている。ヤービスでは、放った魔法の威力は周りの残滓の影響もあって、本来の放った魔法の威力以上の力になってるんだよ。そしてさらに残滓を生む」


 オルト兄ぃに散々と汚い魔法って言われた。

 私も体中に靄が覆っていたの? そして残滓をまき散らしていた……きっと人一倍。


 大気中に漂っている魔力の残滓を体の中に取り入れてしまった動物や植物は、長い年月をかけて変化して魔物になった。そして動物の体内や地面にしみ込んで塊となった残滓が魔石となる。

 

「兄様、人間も残滓を体の中に取り込んでしまっているのでしょ? そしたら……」


「そうだね。 ……少し歩きながら話そうか。大丈夫! 少しくらいの残滓は影響ないから。マルルカは14年もこの世界で生きてきたでしょ?」


 アル兄様は笑いながら私に言うと、御者の人に馬車を停めるよう声をかけた


「今のヤービスの話をしよう」


 私はアル兄様に手を引かれるように、魔力の残滓で覆われたヤービスの空の下に降りた。




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